昭和の養生 富山の煎じ薬、おまけ
昭和40年代頃、鹿児島の農村のわが家にあった富山の置き薬。風邪をひくと、薬箱にあった煎じ薬にお湯を注いで飲まされたが、わが家ではその煎じ薬を「血の薬」と呼んでおり、どうやら本来は女性特有の症状のための薬だったようだ、と前項で書いた。
書いているうちに思い出した。その煎じ薬の袋の「効能」には「ヒステリー」という記載もあったことを。
いまでは「ヒステリー」という単語、表現はほとんど見聞きしないが、昭和40~50年代はよく使われていたと思う。だいたいは、怒りっぽい女性を指したり、女性がちょっとキレぎみになったときなどに、「あの人はヒステリー(持ち)だから」「またヒステリーを起こした」などと使った。
略称は「ヒス」。「ヒス女(おんな)」という陰口もあったが、男性が同じように怒ったりしてもヒス男とは言わず、言うとすれば一種の例えで、「女のようにキーキー言う」という意味で使っていた。
精神が安定しない状態、人を女性にほぼ限定していた点は大いに不満だが、当時は広く受け入れられていたのだと思う。「女性は感情的」という言い方も、当たり前のように、そしてずいぶん長い間使われてきた。(このくだりの差別表現は、「当時は」ということでご容赦ください。)
「ヒステリー」を思い出したのでインターネットで少し調べたら、一種の精神性障害として研究されてきたらしい。「極度のストレスや心的外傷が引き金となって精神や身体的機能が意識から解離し、自分の意志でコントロールできなくなった状態」「一般的に、その背後には解決がむずかしい問題や人間関係の葛藤などの心理的な原因が認められ」る、とのこと。
呼び方もいまは、症状が心に表れる場合「解離性障害」、体に表れる場合「転換性障害」と称するらしい。
ヒステリーという言葉、そこに「女性特有の……」という先入観を植え付けられた昭和世代の人口が減っていけば、ヒステリーという言葉も消えていくのだろう。それはやっぱり望ましいことだと思う。
再び煎じ薬に戻る。あの漢方薬を配合した煎じ薬が「ヒステリー」にも効いたのだとしたら、血行促進効果もさることながら、植物由来の薬の匂いにも効果があったのかもしれない。前項では「薬臭い」と書いたが、植物(を乾燥させたり粉砕したりしたもの)の匂いは、天然のものだ。それを吸い込むことでリラックスする、つまりヒーリングだ。
さすが富山の置き薬。
《主な参考》
みんなの家庭の医学 WEB版 >ヒステリー(解離性障害)