文字を持たなかった昭和 百一(豪雨)
2022年、わたしが住む関東地方は6月6日に梅雨入りした(と見られる、と発表された)。郷里鹿児島を含む南九州の梅雨入りは、ちょうど今日6月11日に発表された。平年より12日遅いらしい。
梅雨と言えば長雨、そして豪雨が悩ましい。母ミヨ子たちが生まれ育って家庭を成した鹿児島でも同様で、とくに豪雨に関しては、度々大きな被害がもたらされてきた。鹿児島には火山灰土が堆積した「シラス台地」〈91〉が多い。シラスは淡色の砂で、水分量が少なく有機成分はほとんど含まないらしい。このため、保水量の低い荒れ地でも育ちやすいサツマイモの栽培が大いに奨励された、という歴史もある。
シラスの大きな特徴は、水分量が増えると崩れやすいことだ。火山灰土であるシラスはガラス質(珪酸)や石英などを多く含むらしいが、ふだんはさまざまな方向を向いて構成されているところへ、一定量以上の水分が含まれると、同じ方向に向きを変えて一気に流れる性質があるのだそうだ。山や崖などふだんは樹木で覆われている場所でも、大雨で土壌中の水分の許容量を超えると一気に崩れる、という場面が度々発生する。
ミヨ子たちの周囲でも、大雨のときやその後にふだん何でもない崖や山肌が崩れ、薄い肌色の土が剥き出しになる場面がしばしば現れた。不幸にしてその下の家にまで土砂が押し寄せることもあった。「薄い肌色」はシラスの特徴的な色だ。町を流れて東シナ海に注ぐ川も、大雨が降ると肌色っぽくなることもしばしばだった。
何回か触れたとおり、ミヨ子の嫁ぎ先の家は農村の小さな集落の、坂の途中にあった。家の北(裏)側は小さな崖のような状態になっており、その下が雑木林だった。地盤が緩ければ、大雨で斜面が崩れ――ということもあり得たのだろうが、屋敷の地盤には大きな岩が重なっており、この斜面が崩れることはまずなかった。
若き日の吉太郎が、地盤の堅牢さまで見越してこの屋敷を買ったのかどうかはわからない。しかし、大雨が降っても家の浸水や崖崩れなどを心配する必要がないこと、つまり安心と生活の継続性の担保は、土地や家屋の価格以上の価値があった。
〈91〉シラス台地はあまりに身近で「火山灰が堆積した」と習ったとき、桜島の噴火によるものだと思い込んでそのままになっていたが、シラス台地形成の原因となったのは、約29,000年前に錦江湾(鹿児島湾)北部で発生した大規模な火山爆発であることを、恥ずかしながら今回初めて知った。
この爆発による火砕流堆積物がシラス台地を形成し、爆発による大地のくぼみがのちに「姶良カルデラ」と命名された。ここに海水が溜まり錦江湾は北側に広がったらしい。
この噴火から3000年ほど下ったころ、姶良カルデラの南端で噴火活動を始め、現在に至るのが桜島だ。
《主な参考》
桜島・錦江湾ジオパーク >活火山・桜島と、火山活動から生まれた海・錦江湾 ほか