ミヨ子さん語録余談 「ショガは寒(さ)んせしごろ(ショウガは寒がり)」の「ごろ」について
前項では、鹿児島の農村で昭和5年に生れたミヨ子さん(母)の口癖のひとつ「ショウガは寒がり」について述べた。
本来鹿児島弁で語ったその一言「ショガは寒(さ)んせしごろ」の「ごろ」とは、について「あまり素行のよくない人につける蔑称のようなもので、標準語だと「~野郎」という感じ」だと説明した。語感としてはあまり、というよりかなり悪い。ただ、この手の蔑称によくあるように、ときとして愛称のように使われることもたしかだ。
この「ごろ」と使い方について念のため確認すべく、ここnoteでもしばしばご紹介している愛用の「鹿児島弁ネット辞典」で調べてみたところ、「ごろ」という単語の解説はなかった。ちょっとがっかりし、そんなはずはないと思いつつ、「ごろ」がつく単語で検索をかけると出るわ出るわ、次々と出てきた。
例を挙げると、めすといごろ、こましごろ、やまいもほいごろ、ぎゃひごろ、つえかぶいごろ、けちごろ、きんごろ、もぐいごろ、ひいごろ。じごろ、かんじゃっごろ、さっにんごろ、だしごろ、うさっごろみっ、ぬすとごろ、ぜいたっしごろ、よかまねしごろ、わらうっごろ、よだっごろ……と延々と続く。
かなりディープな鹿児島弁を使う地域に生まれ育ったわたしでも聞いたこともないような「ごろ」がたくさんあるのだが、いちいちチェックするのも大変なほどの数だ。逆に言えば、そのくらい「ごろ」という言い方は身近だった、ということでもあろう。
「ごろ」の数々を眺めてじつに懐かしい気持ちになるのだが、最も――と言っていいと思う――印象に残っているのは「やまいもほいごろ」だろう。
「やまいもほい」とは「山芋掘り」だが、鹿児島弁には「酔っぱらう、酔っぱらってくだを巻く、酔ってからむ」という意味がある。天然の山芋(地下茎)はまっすぐ伸びてはいないので、掘り進めるときに「あら、こっちに曲がってた」「こんどはこっちだ」とぶつぶつ言いながら掘る(らしい)のだが、その様子と、酔っ払いがくだを巻く様子が似ているということらしい。
転じて、酔っ払いを「山芋掘いごろ(やまいもほいごろ)」と言うようになったのだが、くだを巻くぐらいだから「やまいもほいごろ」は「手に負えない酔っぱらい」といった意味が込められている。酔って議論をふっかけたり、絡んだりする人には、女性たちが「あん人は山芋を掘いやっで」(あの人は山芋をお掘りになるから)と陰口を叩いたりしていた。
なお陰口でも敬語なのが鹿児島弁のかわいいところである。
《参考》鹿児島弁ネット辞典>山芋を掘る