文字を持たなかった昭和 帰省余話(2024秋 3) ふるさと再訪準備③
帰省の折りに、介護施設入所中のミヨ子さん(母)を郷里へ連れて行くための準備のお話である。半日外出させるとして何時間ぐらいが適当か、わたしは判断しかねていた。(②より続く)
そこへ決断を迫ったのは、施設(グループホーム)の入浴サービスに関する情報だった。
ミヨ子さんは月・水・金の午後入浴することになっている。これは何かのはずみで知っただけで、ちゃんと教えてもらったわけではない。入浴時間は午後1時半から3時の間で、複数の入所者がこの時間内に利用するようだ。一回逃すと次の回まで入浴は「ない」らしい。
わたしが計画した外出日は11月初旬の月曜日だった。ドライバー兼運搬担当のツレの休暇を考え合わせると、車を出せるのはこの日しかなかった。
思えば、入所直後新型コロナに感染し抵抗力が落ちていたミヨ子さんが次に罹ったのは尿路感染で、そこから大腸菌菌血症および急性腎不全へと悪化した。排泄関係のケアが十分でなかった可能性があり、月曜日の入浴を休んでしまうと、前週の金曜日から次の水曜日まで入浴できないままなのが懸念される。
迷った挙句、当日は朝10時くらいに施設へ迎えに行き入浴時間までに帰すことを想定しつつ、外出について施設に申し入れた。その旨を施設に申し入れた。電話に出た職員さんは
「せっかく帰省されるのだから、もっとゆっくり外出されてはどうですか?」
入浴間隔が空く問題を伝えてもピンと来なかったようで、こちらの懸念を説明しようとしたのだがそこはスルーされ
「じゃ、当日のお昼は『欠食』でいいですね」。
反射的に、手間をできるだけ省きたいのかなぁと考えていたら、矢継ぎ早に
「いま体操の時間で忙しいので、わからないことがあったら(ミヨ子さんにとっての)お嫁さん(義姉)に聞いてください。よく来られてて、お母さんの状態もご存知ですから」
と電話を切られてしまった。
いやいや、毎日の状態を「ご存知」なのはそちらでしょうよ。だからそちらに相談したんですが。ほかに聞きたいこともあったのに……。
じつはこの施設、なかなか電話に出てくれない。メールでの問い合わせシステムなどは、もちろんない。食事時は忙しいだろう、入浴は人手が取られるだろう、夜は手薄だろう――などと考えると、「いったいいつ電話したらいいの!?」となるくらいだ。だから電話がつながったタイミングで効率よう聞けるよう、整理したメモも用意してあったのだが。
ふーーー。
しかたがないので、ミヨ子さんが入所するまで同居していたお嫁さんに電話すると
「お嫁さんにって…。施設のほうがよくわかってるでしょうに」
と苦笑したあと、
「この前の尿路感染のこともあったから、入浴を休ませるのはよくないかもね」
という意見である。まあ……、そうだわね。ついでに言われたのは
「あそこ(の施設)は、電話がなかなかつながらないよ」
はい、たしかにそうです。
かくして、ミヨ子さんの久しぶり――そして人生最後になるかもしれない――ふるさと再訪は、移動時間込み、昼ご飯を挟んでの3時間半くらいに決まった。
しかし、準備すべきことはまだまだある。(④へ続く)