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最近のミヨ子さん 介護施設入所後、その二十

その十九より続く)
 介護施設入所早々新型コロナに感染したあと、他の感染症で緊急入院。施設入所時に住んでいた地域の病院に転院しそこを退院するまで、入院期間の合計が1カ月以上になったミヨ子さん(母)。施設再入所の翌日、面会に行ったお嫁さん(義姉)の計らいで、スマホのビデオ通話でミヨ子さんとお話しできたところまで(前項)を綴った。

 ミヨ子さんの病状がなかなか好転しなかったため、タイトル「施設入所後」もかなり回数を重ねてしまった形だ。そろそろいったんほかの話題に切り替えたいが、その前のひと区切りとして、ミヨ子さんと通話した直後に出したハガキについて触れておこう。

 施設入所前、つまりミヨ子さんが鹿児島市郊外にある息子のカズアキさん(兄)の家で同居していた頃、わたしはちょくちょく絵ハガキや手紙を送っていた。

 入所後は、「面会」という形でしか家族と会えなくなったミヨ子さんが、少しでも家族のことを考えられるよう、もっと言えば、「わたし」という実の娘が忘れられてしまわないよう、週1回ペースで絵ハガキを送りつつあった。その4通目を送ったタイミングで、ミヨ子さんは緊急搬送されてしまうのだが。

 入院中は、面会に行ってくれる家族――主にお嫁さん――が持って行ってくれるよう、宛先はまたカズアキさんの家の住所になった。

 が、ミヨ子さんがこの度めでたく退院し、めでたく(かどうかは正直複雑なのだが)「再入所」という運びになったので、ミヨ子さん宛ての郵便物は再び施設へ送ることにした。お嫁さんは「うちに送ってくれてもいいよ」と言ってくれたのだが、それはすなわちお嫁さんの手を煩わすことと、面会のタイミングでしか渡せない、つまり届いた日と渡す日とにタイムラグが生じることをも意味する。それでわたしは、郵便物は直接施設へ送るほうを選んだのだ。

 絵ハガキは、多少季節を意識しながら買いだめしてある。久しぶりに施設宛てに出す絵ハガキもその中の一枚を決めていた。その絵柄は、大皿に載った鯛である。

 わたしはわりとよく郵便局へ行くのだが、このシリーズの絵ハガキは、(わたしの行動範囲では)なぜか東京の新宿西郵便局でしか見たことがない。「大人の郵便はがき」というシリーズで、季節の花や野菜などの柄が、適度に大きく、ある程度余白も入れて描かれているので、絵だけでも楽しめるし、絵の余白に文章を足してもいい。入院中の絵ハガキは、ミヨ子さんに元気が出るよう、ヒマワリなどの花の絵に大きめの文字を書き入れて送った。

 今回なぜ「鯛」かと言うと、当然「退院のお祝い」である。赤色がなかったのでピンクのサインペンで「ご退院おめでとうございます」と添えて、あまり長くない文章を書き添えて投函した。

 実際の退院からは1週間以上遅れて届くこのハガキの意味とそこに込められた気持ちを、ミヨ子さんが正確に捉えてくれるかは、正直なところ心許ない。日付も入れておいたが、日付や時間の流れをきちんと把握できるのかもわからない。

 もっとも、ミヨ子さん宛てのハガキや手紙の中身は、かなり前からずいぶん簡単になっていて、書きながら「いつも同じような文面だなぁ」と思うようになってだいぶ経つ。

 つまるところ、わたしは、ミヨ子さんに「遠くに住んでいる(らしい)娘が、よくハガキや手紙をくれるわね。いつも気にかけてくれるみたい」と思ってもらえたら、それでいいのだ。

 いや、ほんとうのところは、「お母さん、あなたの娘はいつも気にかけているよ、忘れないでね」と訴えたいだけなのかもしれない。つまりは、自己満足のために、せっせとハガキを書き続けているのかもしれない。

 それでもいいじゃないか。「また、きれいな絵のハガキが届いたわ」と思ってもらえるだけでも。94歳のミヨ子さんに手書きのハガキ(や手紙)を出す人は、この世で一人しかいないのだから。

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