昭和の?弁当(朝ドラ「ちむどんどん」の違和感)

 ここ(note)でNHKの朝ドラの演出(時代考証)への違和感について何回か書いている。

 いま放映中の「ちむどんどん」に対する違和感は、ストーリー展開や設定の矛盾、それぞれのキャラクターへの各種「指摘」はネット上にごっそり出ているので、改めて書く気はなかったが、今日のシーンで「いやいや、当時ではありえないよ」と強く思った箇所があった。

 それは弁当だ。

 今日は、恋人の母親から結婚を反対されているヒロイン暢子(黒島結菜)が、手料理で自分を理解してもらおうと(たぶん。そうだとしてもこの行動はとんちんかんではある)早起きして作ったお弁当を母親に食べてもらうべく、出勤前に恋人の実家まで届けに行くシーンが展開された。

 暢子が自信たっぷりで作ったのは、字幕によれば「彩り野菜と鰤の照り焼き弁当」だった。五穀ご飯ふうのご飯の上に鰤照り焼きが載り、「彩り」とあるだけに副菜としてニンジンの炒め物(?)やゴーヤの炒め物(?)が添えられていた。

 暢子たち沖縄(出身)の方の言い方を真似れば、わたしが「ありえん!」と思ったのは、その盛り付けだ。

 ドラマの時代設定は昭和50年代後半~60年代(1980年前後)。その頃のお弁当は、ごはんとおかずはしっかり仕切り、ご飯の上におかずを乗せるのは、正統派のり弁ぐらいのものだった。なぜなら、汁気のあるものをお弁当に入れたりご飯に載せたりすると、その水分で食材が傷むからだ。当然、サラダのような生野菜も、ほとんどお弁当のおかずにはならなかったと思う。

 保冷剤や保冷バッグなどが家庭に普及していなかった時代、お弁当箱はごはんとおかずの間に仕切りがあった。お弁当は朝作るもので、まず炊き立てのご飯を詰めて冷まし、その間におかずを作り、これもきちんと冷まして汁気を切ってから、お互いのおかずの味が混ざらないよう工夫して詰めた。

 昭和40年代くらいには、仕出し弁当などに「バラン」と呼ぶプラスチック製の仕切り〈106〉が使われるようになったが、家庭用のお弁当にわざわざこれを購入する家は多くなかったのではないだろうか。おかず入れにアルミホイルのカップを使うのはまだ先のことで、プラスチック製のおかずカップが出回るのはもっと後だ。

 ごはんの上に直接おかずを載せるのは、いわゆる「ほか弁」ののり弁あたりからだと思う。ほか弁が普及し始めた頃、ごはんに海苔とちくわ磯辺揚げが載せられているのを見て、驚いたというか、手抜きだな、と思ったことを覚えている。同じほか弁でも、のり弁以外のお弁当は、ごはんとおかずが別々の容器に入っていた。そう、あの「ごはんにおかずを載せる」スタイルは、ごはんもおかずも温かく、かつすぐ食べるから成立したのだ。

 その後定温での流通(低温や冷凍を含む)が発達し、家庭用の保冷剤や保冷バッグなどが普及してから、素人(?)もごはんにおかずを載せるようになり、いまやキャラ弁は花盛り。しかし、お弁当を遡れば、幕ノ内弁当に見られるような「ごはんとおかずをきっちり分ける」のが基本形だ。

 ついでに言えば「彩り野菜の〇〇」という表現は、比較的新しい。少なくともドラマが設定する時代にはなかった。

 せっかくヒロインに、恋人の母親のヒロインに対する(ネガティブな)イメージを一新させる機会を設けてあげたのに、ちょっとした考証ミス(?)で、ドラマへの感情移入が妨げられ、視聴者の中でドラマの流れが中断してしまう。「現代の視聴者にわかりやすいよう」という配慮かもしれないが、当時を知る人はまだまだ多いし、ちょっと調べればわかるんじゃないの? というレベルの考証ミスが、このドラマには多すぎる。あるいは「わかっててやってます」ということか。

 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」、結局暢子というキャラクターが気に入らないんでしょう?
 そうです、わたしは暢子にまったく共感できません。

 それは別にしても、ネット民の皆さんが多々指摘しているとおり、沖縄の本土復帰50周年記念と銘打ちながら、沖縄の何を伝えたいのかも含め、このドラマは何を目指しているのかわからない。だからこそ、せめてディテールは丁寧に扱ってほしいのだが、「ないものねだり」か。

〈106〉日本料理の世界では、もともと「葉蘭」というユリ科の植物の葉を切って食材の仕切りなどに使っていたが、弁当に使うと変色や匂い移りなどの問題が生じたため、プラスチック製の「人造ハラン」が開発され、使われるようになったらしい。母ミヨ子も緑の仕切りは「バラン」ふくめ「葉蘭」と呼んでいた。庭に生えていた広くて大きい緑の葉を使って料理の仕切りに使った記憶もある。名称としては、人造ハランと天然の葉蘭を区別するうち「バラン」が定着したのだとか。
《主な参考》 雑学.com>バランの意味と由来を解説! 

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