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最近のミヨ子さん 介護施設入所後、その六(お片付け)
(その五より続く)
ミヨ子さん(母)のお見舞いのために急遽帰省したのに、「その五」で述べたように同じ病室で新型コロナ感染者が出たため、面会できなくなった。
7月31日(日) やることがない。
ミヨ子さんが介護施設入所前まで住んでいたカズアキさん(兄)の家の、あてがってもらっていた部屋の押入れの中の持ち物を、ちょっと見てみた。遺品整理のようで縁起でもないとも思ったが、こういう時でもないと時間がとれないのも現実だ。
わたしが出した手紙やハガキの類は、介護施設入所前に通っていたデイサービス施設からもらった誕生日カードや写真とごちゃ混ぜになっている。どんな基準なのか、そもそも基準などないのか。
孫娘のインドネシア旅行のお土産だった口紅ケースには、500円玉が詰められている。いつ頃、どんな気持ちでこのすてきなケースに貯金しようと思いつき、どのくらいの期間お金を入れ続けたのだろう?
レジ袋にまとめて口を結んだ包みも多い。どれも几帳面に何重にも結ばれている。
お出かけ用のバッグーーずいぶん長いことデイサービス通所用にしていたーーもレジ袋に入れて口を結んである。私が知る限り、ミヨ子さんが肌身から離したくなかったものをこのバッグに入れていたから、この中には本当に大切なものがはいっているはずだ。そこを覗くことは、人格への冒涜のように思えてくる。
結局、ほぼすべてのものは開きも動かしもせず、元の場所に元の通りに戻してしまった。
ただひとつ。台湾勤務から引き上げるときに、ミヨ子さんにと買ってきたモザイクタイル模様のコンパクトだけは、いただいて帰ることにした。当時のわたしのお給料からすればけっこう高価で、自分用に買うには手が出なかったが、紫が好きなミヨ子さんのために買い求めたのだ。
「万一のときはお母さんの形見として私に頂戴ね」と冗談を言いながら渡した。「そのときはあんたがもらいなさい」と、ミヨ子さんも笑って答えた。
ミヨ子さんはもう、この鏡を持ってお出かけすることはおろか、鏡を開いて髪を整えることもないだろう。
お母さん、形見分けではないよ。とりあえず私が「預かって」おくね。
(その七に続く)