つぶやき 「お大事にどうぞ」

 たちの悪い風邪のような症状が続いている。体温は平熱より1度以上高いまま、喉の痛みは昨日よりむしろひどくなった感じがする。昨日、ちょっと軽くなった気がして少し作業をしたせいかもしれない。今日はできるだけ静かにしている。

 昨日「お大事に」という一言について書いたあとで思い出した。

 病院に行くと帰り際「お大事にどうぞ」と言われることが多い。「(どうぞ)お大事になさってください」というべきところ、ある時期から前後をひっくり返してかつ短くした「お大事にどうぞ」という言い方が一般的になった。10年くらい前からだろうか。

 最初は、若い看護師さんやスタッフが口語的に軽い言い方をしているのかな、と思ったが、いつの間にかどの病院でも、加えて処方薬局でも「お大事にどうぞ」がふつうになった。

 「お大事にどうぞ」には、商店や大衆食堂で「毎度どうも、またどうぞ」と言われているような、なんとも軽めの響きがある。それはそれで味があるのだが、少なくとも患者に対して「お大事にしてください」の気持ちがこもっているようには感じられない。と思うのはわたしだけか。

 たくさんの患者さんに対していちいち心をこめて「お大事に」と声掛けするほど、病院で働く人々がヒマでないことはわかっている。好ましくない患者もいるだろう。ならばなおのこと、送り出すときぐらいはきちんとした言葉で送ってはどうか。終わり良ければ総て良し、だ。

 『日本語が消滅する』(山口仲美著)では、言語が消滅する原因として5つ述べているた(ひとやすみ『日本語が消滅する』前編)。同著では、話者自身が表現をより簡単に、言い換えれば語彙を貧しくしていくことも、本来の言語が弱まり他の言語に代替されていく要因になり得るとも述べている。例えば、どんな場面でも「すごい」「やばい」ですませる表現などだ。

 「お大事に」という気持ちを伝える表現はほかにもあるだろう。「当院ではこの言い方しか認めない」という暗黙のルールがあるとか、同僚への「忖度」で同じ言い方しかしないのであれば、その職場のほうがおかしい。わたしたちが数千年をかけて受け継いできたこの豊かな言語を、少しだけ頭を使ってもっと楽しく使いこなすほうが、自分にも社会にもためになると思う。

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