ミヨ子さん語録 酔っ払い
鹿児島の農村で昭和5年に生れたミヨ子さん(母)の口癖のひとつ「ショウガは寒がり」(ショガは寒んせしごろ)のあと、鹿児島弁に特有の「ごろ」について述べ、その流れで酔ってくだを巻く人を指す「山芋掘いごろ」(やまいもほいごろ)と、それが全国放送で流れたエピソードに触れた。
内容からは「山芋掘いごろ」(やまいもほいごろ)は酔っ払いを指すようにも思える。わたし自身その意味で理解したり使ったりしたこともあったし、いまもあるので違和感なく書いてきたのだが、ふと思い出した。
酔っ払いを指す鹿児島弁は別にある。それは「よくろぼ」(地域によっては「よくれぼ」「よくろんぼ」)である。
例によって愛用の鹿児島弁ネット辞典で確認すると「「酔い食らい坊」の転訛、「ぼ」は人につく接尾語」とある。「くろ」は「食らう」であったかと納得する。「ぼ」が接尾語なのでその前の動詞を確認すると、「酔っぱらう」意味の動詞「よくろ」も掲載されていた。
たしかに実家にいる頃は「よくろぼ」のほうが「やまいもほいごろ」より「頻出」していたことを思い出しつつ、「よくろ」の用例を確認すると
・「よくろ」わないように、たくさんお酒を飲まないで下さいよ。
とあった。
ただしこの言い方は、勝手な想像をすると鹿児島市内のサラリーマン家庭の「おっさん」(奥さん。専業主婦)が、飲み会に出る夫に言っている感じだ。だいたい鹿児島で飲むのは「お酒」でなく「焼酎」だろう、と突っ込みたくなる。
ミヨ子さん(のような農村の主婦)の場合、こんな感じだっただろう。
「よくろわんごっ、あんまいずんばい飲んみゃんななー」(酔っぱらわないよう、あまりたくさん飲まないようにしてくださいよ)
それでも、夫の二夫さん(父)が酔っぱらって帰ったら――往々にして「よくろ」て帰るのだが――
「そげんよくろて。ないごてそげん飲まんなならんとぉ?」(そんなに酔っぱらって。なんでそこまで飲まなきゃならないんですか?)
とミヨ子さんからの一言が入る。
そしてミヨ子さんはこっそり娘のわたしに言うのだった。
「ぶんとカライモに騙(だま)かされちょったらよ」(まるっきりサツマイモに騙されてるってことだわよ)
もちろん焼酎の原料がサツマイモだからだ。サツマイモもいい迷惑だ。
二夫さんは「よくろ」ても「山芋を掘る」ことはほとんどなかった。ただ、酔ったあとのエピソードは山ほどある。それらは二夫さん自身について書くときのためにとっておくことにしよう。
《出典》鹿児島弁ネット辞典>よくろぼ、よくろ