最近のミヨ子さん 介護施設入所後、その十九
(その十八より続く)
8月20日(火) 今月8日にようやく地域の病院に転院した94歳のミヨ子さん(母)。
病院からの退院調整要請に対して、ミヨ子さんが入っていた介護施設側は「今日なら迎えに行ける」という理由で、この日午後の退院と再入所を、家族への打診もなく決めてしまった。家族が同行しなくても実行するという。「モノじゃあるまいし、病み上がりの高齢者を、右から左へ」とわたしは憤った(前項)。施設入所前まで同居していたお嫁さん(義姉)は、翌日施設へ面会に行くらしい。
8月21日(水) 午前のやや遅い時間、わたしのスマホが鳴動した。お嫁さんからのビデオ通話が着信している。きっと面会の最中だ。
通話が始まると、お嫁さんの「ちょっと待ってね」のあと、ミヨ子さんの顔が大写しになった。
「お母さーーん。聞こえる~?」とわたし。
「お母さん、ほら、声がしてるでしょ」と、スマホから複数の声がする。お嫁さんと、施設のスタッフが声がけしてくれているのだ。肝心のミヨ子さんは、周りの人を交互に見ている。何を言われているのか、何を見ればいいのか、状況がわかっていないように見える。スマホの中の顔もこちらを見ていない。わたしはスマホに向かって一生懸命手を振る。
「ほら、二三四ちゃんだよ」「娘さんですよ」と周囲はフォローするが、やはりピンと来ていない様子。それもやむを得ないだろう。ここ1カ月以上、体調が最悪の中、環境がくるくる変わり続け、やっと「生活」の雰囲気のある場所にたどりついたばかりなのだから。
「会いたかったよーー、心配したよーー」と言いながら、わたしは涙声になる。
「二三四ちゃんからの新しいハガキも来てたから、渡しましたよ」とお嫁さん。先週後半、普通郵便で投函してあったものだ。「ご飯もちゃんと食べてるって。ね、お母さん、ご飯おいしいよね」とまたお嫁さん。よかった、よかった。
ミヨ子さんは転院のときに着ていた花柄のシャツに七分袖の薄い上着を羽織っている。3日前にカズアキさん(兄)のスマホでビデオ通話したときはまだパジャマ姿だったが、普通の服を着ると「ふだんのミヨ子さん」にまた少し近づいたように見える。ほんとうによかった。
実の娘に対する反応があまりにないので、わたしは泣き笑いしながら「またお話ししようね」と言うしかない。「ほら、また話そうね、って」とお嫁さんの声。わたしは通話をオフにした。
通話後、ミヨ子さんの姿を収めた短い動画がお嫁さんから送られてきた。動画の中のミヨ子さんは、わたしからの絵ハガキを握りしめ、文章を目で追いつつ、ぶつぶつと呟いていた。どうやら音読しているらしい。読んではいるのだな、とちょっとほっとする。まだ精神的な混乱は続くだろうが、徐々に落ち着いてほしい。
動画のあとにお嫁さんから「これから昼ご飯です。ご飯、ご飯って何度も言ってる(笑)」と補足されていた。いいよ、それで。お母さん、病院ではたくさん食べられなかったでしょう。ふつうのご飯をしっかり食べてね。
必ずまた会いに行くからね。(その二十へ続く)