誰も僕のことを知らない場所での僕
平日の夜お世辞にも栄えてるとは言えない飲み屋街へに僕は足を運んでみた。季節は夏から秋に移り変わり、もう夜は半そで1枚じゃ耐えられないくらいの温度になっていた。秋風は心地よくはなく少し寂しさを感じた。人気の少なさがそれを増幅させているのかもしれない。そんなことを思いながら1人でも入れそうなバーを探し町を探索した。
出張できた初めての町。イメージよりも栄えてない町だったが、シャッター街というわけではなかった。おそらく週末にはそれなりに人が来るのだろう。昼間に通りがかったときに気になっていた店があったのでそこに入ることにした。店へ入ると同年代くらいの女性が2人いた。一人は綺麗目でもう一人は、愛想のよさそうな女性だった。客は僕一人みたいだ。地元でも一人でバーに行くことなどない。ただ飲みにいくだけなのに鼓動が少し早くなっている自分にきずく。どうやら緊張しているみたいだ。入ってから直ぐに帰りたくなったが、女性の店員が暖かく迎え入れてくれた。バーに1人でいくくらいだから人と話すことが好きなんだろと思われるかもしれないが、そうでもないと思っている。いや思っていた。お酒が進むにつれて沢山話をしたいという自分に驚いた。酒の力もあるのかもしれないし、出張先で2度と会うことがない相手。自分がどんな人間だと思われても人生に何の損得も生まないこの状況。そして一緒に会社の人も連れてきてないので、素の自分を出すことができた。素の自分はどうやら人と話すのが好きみたいだ。この時改めて思った。
最近本当の自分が分からないと思っていた。A先輩に会う時とBの友達、Cの後輩。どの人と関わるときも違う自分がそこにはいる。人は多面性を持って当たり前と言う話を聞く。それ全てが自分自身なのだと。言っていることは分かる。別に誰に対しても嘘をついてるわけでもないのだから。多少の気を遣う相手ももちろんいるのだけども。だからこそ誰も僕の事を知らない場所に行って、僕がどんなことを思い、どんな言動をするのかは、誰よりも僕が気になった。
1件目のバーが時間になったので店を出て帰ろうかと思ったが、もう1件いきたいと思った。もっと話をしたいと。寂しさを感じていた秋風は、まだ変わらない。どうやら僕はまだ人の温かみが欲しいみたいだ。夜は少し深くなるが、人の多さは変わらない。次はどの店にしようかと物色をしていると少し街から外れたところにスナックがあった。なんとなく気になり足を運ぶ。また心が少しドキドキする。だけどもそれは先ほどとは少し違った。次はどんな人に会えるのだろうという思いのほうが強かった。
スナックに入ると2人の女性がいた。僕よりも10歳ほど年齢が上と見た。流石に年齢は聞けないから、僕の直感なのだが。外れていたら申し訳ない。またも客は僕1人みたいで、僕相手に2人ともついてくれた。少し金持ちになった気分がした。料金は安いスナックなのだけども少し優越感があった。お酒も大分回ってきたのだろう。それが気持ちよく感じたのだから。気づけば2人を僕が回していた。生意気に聞こえるかもしれないが、実際にそうだったのだから。下手糞なMC相手に2人のお姉さんはよく笑ってくれた。愛想笑いももちろんあったのだと思うのだけども。そんなことはどうでもいい。目のまで笑ってくれ、心では思ってないのかもしれないが褒めてくれたりした。どう思われてようが、出た言葉をシンプルに飲み込めるほどその時の僕は楽しかった。調子に乗って延長までしたのだから。
すっかり気分が良くなって店を出た。その時には秋風も寂しくなく心地よく人の温かみを感じた。
誰も僕の事を知らない場所では、僕はどうやら沢山話をしたい人みたいだ。たとえ知っている人がいる場面でもその方が絶対いいのだろう。それは分かっている。だけどもそれは少し難しい。何故なら普段は多かれ少なかれ自分の人生に左右してしまう場面がほとんどなのだから。色々な目を気にして思ってることも言えない場面も多々ある。それでも今後はそんなことは取っ払って素の自分で勝負したいと思った。それが良い方向に変わるかもしれなし、悪い方向に変わるのかもしれない。でもこの日の自分出して悪い方向に進む関係ならば、その人とはそれまでの関係なのだろう。そう思えた夜でもある。多少調子に乗った部分あるが、その夜の事はすべて覚えている。今の自分が、その日の自分の事を嫌いにはならない。むしろ好きだ。自分でそう思えるなら、それは信じていいと思える。新たないや改めて自分の事をよく知った夜になった。勇気出して飲みに出て正解だった。
明日からの風はどのように感じるだろう