執筆がありますので
執筆がありますので、執筆がありますから———
頭の中で何度も何度もつぶやく。でも実際に口から出てきた言葉は、今回も「行きます」だった。苦笑いのトッピング付き。
働き盛りのこの年齢では、仕事に精を出すのが大事とされるのは分かっている。仕事中のわたしはこれでもけっこう真面目だと思う。述べたいのはそうではなく、時間外の仕事についてだ。"時間外"の"仕事"??
営業部にいる私は飲み会問題を抱えている。飲み会に対してそこまでの苦手意識はなく、なんなら楽しめるとすら思っていた。事実、相手によっては楽しい。
営業部にいる人間は、社内外の飲み会に行くことも求められる。会社にとっては、そういう営業マンは評価が上がる。それは承知の上で入社したが、まずこんなに頻度が多いと思わなかった。甘かった。取引先との会食は予想通りだが、社内の飲み会がこんなにあるとは想定外だった。
実はこの問題の正しい実態は、その飲み会の翌日、翌々日まで続く疲労だった。これは私が単純に体力がないのだ。誰も悪くない。ただ事実として、飲み会に行けば行っただけ時間も体力も気力も削られる。翌日の仕事中は疲れで鈍るし、その日の夜は何もできず21時には就寝。あぁ、昨日と合わせて2日が消滅した...。これは私にとっては死に近づく行為そのものだ。でも仕事を真面目に捉える私は、この死に向かう行為を当たり前にすべきだと思っていた。
家族がいれば、それだけで許される節がある。家庭の”しごと”があるもんね、仕方ないね。ただ未婚はどうだろう。結婚したとして、子供がいない場合は?
私は結婚していない上に一人暮らしなので、会社からすれば「断る理由はない人」として認識される。ただ私は「なぜかいつも予定や約束がいっぱい」という認識を持ってもらえているのだが、それでも頻繁に開催される飲み会にあまり参加しないのはよろしくなく思われて、それで毎回飲み会当日と翌日を無に帰すことになる。
結婚していなくても、子供がいなくても、家に犬猫や小鳥がいなくても、人間の心情として許されそうな理由はなんだろう。そこで考えたのがこの「執筆がありますので」、だ。......え?無理かな。。。私が特に嫌っているのが当日に思いつきで開催される飲み会への誘いなので、その返答として——「あ、執筆がありますので...」———いや、どう考えても格好良すぎる。
事実、私が社内の飲み会なんかよりしたいことは(取引先との飲み会は頻繁が心地良いので、日付が変わるまで会食があったって楽しい)、本を読んだりだとか、こうやって日記を書いたりだとか、短歌を作る、興味の出たことを試してみる、とかそういうことだ。職場の人に言っているのは「本を読む」くらいで、書き物をしているとは言っていないし、まさか「副業があって」などとは言えない。副業になんてできるレベルじゃないし、仮にしていたところで絶対に知られたくない。でも言えたら一番納得してもらえる理由だとは思う。
連日の飲み会参加に全くの翳りなく楽しめる心を持ち合わせず、結婚も副業もしていない私は、「執筆者」としての自覚を持とうとしている。「執筆がありますので...」実際に断る時に使うと色々聞かれて面倒な展開になるので、あくまでも自覚を持つことだけだ。「執筆がありますから...」こちらも上品でよろしい。あなた方にはまだ申し上げられないのだけれども、わたくしめにはやらねばならぬ務めがございまして......「執筆がありますので...」いける。これならいける。
たぶん理由はなんでも良いのだ。ただ「自分にはやるべきこと(やりたいこと)がある」と強く思えるかどうかだ。私はそれに「執筆者」という格好良すぎる肩書を拝借した。次回の誘いはいつだろう。近日中だとは思う。私は近日中に、執筆者となる。