しおひがり棟の軌跡② 雨漏れとの戦い
建物を購入した時は、こんな状態だったが、少なくとも雨漏れはなかったはずだった。
しかし、購入後まもなくして、1階の床が濡れていることに気が付いた。
2階を見ると、天井に染みがあり、土壁を伝って、畳にしみ込んだ形跡があった。
天井、壁、床には黒いカビがはえていた。
床はもともと畳から板に張り替えるつもりだったが、天井は張り替えるつもりはなかった。
しかし、カビが生えているのは望ましくない。
「あーあ、天井貼替えか、やっかいだな」と思った。
天井を解体するのは経験があるが、貼るのはやったことがない。
考えただけで大変そうだ。
雨漏れは屋根からだと思われた。
改修工事を頼んである施工会社の社長に来てもらって、裏の斜面にある階段をのぼって見た。
社長は屋根瓦がずれているので、それが原因だろうと言った。
雨漏れしていては、内装工事が出来ない。
すぐに瓦屋に修理に来てもらうことにした。
それで屋根からの雨漏れはいったん止まった。
雨漏れはないと書いたが、それは目に見えるものだけの話であって、予想される原因は他にもある。
釜石大観音仲見世の建物は全てそうなのだが、外壁がモルタルだ。
そしてもれなくヒビが入っているため、そこからわずかに雨漏れする。
co-ba kamaishi marudaiも雨漏れがおこっては、それらしいヒビにコーキングするのだが、また別のところから雨漏れしてイタチごっこである。
ただし外壁なので、風が強い台風のような時にしか、それほど雨漏れはしない。
しおひがり棟の1階は壁もカビが生えており、張り替えることにした。
co-ba kamaishi marudaiやsofo cafe、あずま家のように塗替えだけでは済まなかった。
壁の解体をはじめると、雨漏れしたらしい部分の木が腐っていた。
ここまで酷いのか…
外壁の目立ったひび割れは、工事に入った大工がコーキングしてくれたので、もう大丈夫かなと思った。
ところが、おおむね不良部分の解体も終わって、2階は塗替えが進み、1階の壁張りや床張りを始めようかというある日、夜大雨が降った。
台風だったかもしれない。
朝、シャッターをあけると、床が水浸しになっていた。
なぜ!?
原因は全く不明。
いや、全く不明というわけではなく、要するに外壁のヒビ割れか、設備配管のビス穴だと思うのだけど、それにしても入る水が多すぎる。
施工会社の社長にもまた来てもらったが、イマイチ原因はわからない。
水が入っている箇所には昔の電気の配管が並んでいる。
いやでも、ここからこんなに入る?
しかし、他に原因らしき箇所は見当たらない。
バカ穴(配管などのためにビス穴をあけたけど、撤去したか何かの理由で、穴だけになっているところ)は、大工がコーキングで埋めてくれてある。
社長は「雨の日に見てみます」と言った。
しかし、社長も忙しいのか、それから数週間手を打つことも出来ずに、何度か床が水浸しになった。
その上、乾きが悪い。
扇風機を1日回しても、乾ききらない。
その頃から、内壁のボードを貼る準備を始めていたが、剥がしたビニールシートの接着剤が水で滑るし、踏み心地が悪くストレスがたまる。
床に物もおけない。カビもまた生えそうだ。
特に大雨でなくても雨が入る。
これまではそんなことはなかったはずなので、最近、始まった雨漏れのようだ。
この建物は呪われているのか?とすら思った。
ある日、また雨が降った。
これまでは、夜雨が降るので、見られなかったのだけど、その日は昼間だった。
僕は元々樋が怪しいんじゃないかと社長に言っていたんだけど、社長は「うーん」と何も言っていなかった。
やはり、原因の一つは樋だった。
僕は昔、雨漏れ修理担当の現場監督をやっていたことがあるので、実は雨漏れ原因を見つけるのははわりと得意だ。
正直、大工や屋根の職人よりも見つけられるのではないかと思っている。
しかし、このメカニズムはなかなか複雑だったのでわからなかった。
樋は落ち葉などが詰まって機能していなかったののだけど、最近、軒樋から落ちてすぐの竪樋が錆びて穴が開いたらしい。
そこから雨水が吹き出し、すぐ隣にある電気の引き込みのアングルにかかる。
そのアングルを伝って、建物側に水が流れ、縦に下りてくる電気配管を伝って、水が流れていた。
その過程で、配管をとめているビス穴に水が入っていたのだ。
雨が直接かかる程度なら、床を水浸しにするほどではないが、屋根の水が集まる樋の水が流れるから、入る水の量も多いというわけだったのだ。
どちらにしても、樋は取り換えることになっていたので、社長に至急取り換えてもらうように頼んだ。
余談だが、社長は見積もりに樋の取替えが入っているにもかかわらず、樋の取替えの段取りは忘れていたようだった…
電気の配管は取り換えて、ビス穴の防水も新しくしてもらった。
これで一件落着…
…と言いたいところだが、もう一つ気になることがあった。
それは、水浸しになった床がなかなか乾かなかったことだ。
しおひがり棟は、裏にあたる南側に斜面を背負っており、さらに東から西に地盤の傾斜がある。
その関係で、敷地の地盤の高いところと低いところに、けっこう差があるのだけど、床の高さの設定に問題があると思われた。
僕が新築時に設計するなら、少なくとも現状より10㎝は上げたと思う。
ということはつまり、周りの地盤より低くなっているところがあるのだ。
特に裏側が低かった。
水が乾かない原因は、外側の水位と関係があるのではないかと考えた。
また、裏側の地面の部分が、側溝よりも低くなっているため、水がはけにくいことも原因と思われた。
そこで、建物内のコンクリートを打ち増しすることと、裏の土になっている部分をコンクリートにして、側溝に水が流れるようにしようと考えた。
もちろん追加工事なのだが仕方がない。
このままでは建物内がじめじめとして、衛生的に問題があるような感じが払拭できない。
見積もりを頼むと、思ったより高かったが、すでに工事は始まっていたので(田舎の施工会社とはこういうものである)後戻りはできなかった。
結果的には、この工事を行った時点でようやく、乾いて衛生的と思える空間に作り変えることが出来たのだった。