おしえて、ピーちゃん(童話)
どうぶつたちは山道をあるいていた。タヌキのポンスケ君、ネコのミャオちゃん、ウサギのピョンちゃん、ウシのムームー君。みんなフクロウのホーホー先生の弟子。ある日、ホーホー先生はとつぜん、いなくなった。『白い山へ、さようなら』と、てがみをのこして。どうぶつたちは、そんなホーホー先生をさがしに、白い山へむかっていた。
「つかれたなあ。もうそろそろ休もうよ」
ウシのムームー君が言った。ムームー君は体が大きいのですぐにつかれてしまう。
「ムームー君、さっき休んだばかりでしょ。もう少しがんばろうよ」
ウサギのピョンちゃんはちょっとイライラしながら言った。
「あたしもねむたくなってきちゃった」
ネコのミャオちゃんも足をとめて、大きなあくびをした。
「しょうがないわねえ、ひと休みする?」
ピョンちゃんは、みんなを木のかげにつれていった。
「あわてない、あわてない。明日があるから」
ミャオちゃんはいつもマイ・ペース、草の上に体をまるめてよこになった。
「ミャオちゃん、もうねるのかい?」
タヌキのポンスケ君はミャオちゃんにたずねた。
「ちょっと目をつむるだけ」
ミャオちゃんは目をつむったままこたえた。
「ぼくも、ねーようっと」
ムームー君も草の上にはらばいになった。
「今日はもうおわり? あるかないの?」
ピョンちゃんはあきれたように言った。とおくに白い山は見えているけれど、毎日ほとんどすすまない。
鳥のこえがピーチクピーチク、虫のこえがリンリンリン。すずしいかぜがそよそよふいて、ああ、いい気もち。いつのまにか、ミャオちゃんも、ムームー君も、ピョンちゃんも、みんなねむってしまった。
「おねむ、おねむ、おねむでござーる」
ポンスケ君は一人ねむれず、みんなのねがおをかんさつした。ムームー君は口からよだれがたれている。ミャオちゃんはへんな音のイビキをかいている。ピョンちゃんは目が半分ひらいてこわいかお。そんなとき、
「ブクブクしなくても、シュッシュッ、シュッシュッて」
かわいい声がきこえてきた。
「なんだろう」
ポンスケ君はそらを見上げた。天使がフワフワとんでいる。あかちゃんみたいな天使、せなかに白い羽がはえている。
「ブクブクしなくても、シュッシュッ、シュッシュッて」
天使はそう言っている。
「天使さん、天使さん、どういういみなの?」
ポンスケ君はたずねた。
「ぼくはピーちゃん、ピーちゃんってよんで」
「ごめんごめん、ピーちゃん、いま何て言ったの?」
「ブクブクしなくても、シュッシュッ、シュッシュッって」
「ぜんぜんわからないよ、ウフフフ」
ポンスケ君はわけがわからず、思わずわらってしまった。
「ウフフフ」
ピーちゃんも、ポンスケ君が笑うと、いっしょになってわらいだした。
「言ってることがわからないよ」
ポンスケ君はもういちどたずねた。
「シュッシュッ、シュッシュッて」
ピーちゃんはうれしそうになんどもくりかえす。
「だから、わからないよお」
「フーフーしないと、ダメなんだよ」
「なあに? フーフーって?」
「フーフー、フーフーって」
「だからなあに? フーフーって?」
「フーフーすると、スースーするから」
「スースーするの?」
「そうそう、スースーって。でもね、スースーしてもマジマジってしないとダメなんだよ」
「なあに、マジマジって?」
「マジマジってしないと、ボーボーってなるから」
「なあに? ボーボーって?」
「ボーボーってなったら、ウトウトってなるから。ウトウトってなったら、もうおしまい。テクテクって十歩もすすまないよ。テクテクって百歩はすすまないと山へいけないよ」
「なあに? テクテクって?」
「そうそう、テクテクって。ウフフフ」
ピーちゃんはわらいながら、森のおくへとんでいって見えなくなった。
「どういうことなんだろう。わからないなあ・・・・」
ポンスケ君は大きいあたまをワサワサとかきむしった。
つぎの日のあさーー
「きのうね、天使のピーちゃんに会ったよ」
ポンスケ君はみんなに話した。
「本当? どんな、お話したの?」
「わからないんだよなあ・・・・」
ポンスケ君は大きいあたまをワサワサとかきむしった。
「ポンスケくん、おちついて」
ピョンちゃんはポンスケ君をおちつかせた。
「おちつかないよ。だって、わからないんだから。フーフーするとスースーするって言うんだよ」
「フーフーするとスースーする?」
「スースーしてもマジマジしないとボーボーってなるって」
「スースーしてもマジマジしないとボーボーってなる?」
「ボーボーってなると、ウトウトってして、テクテクってすすまないんだって」
「ボーボーってなると、ウトウトってして、テクテクってすすまない?」
「あ、そうだ。ブクブクしなくてもシュッシュッ、シュッシュッても言ってた」
「ブクブクしなくてもシュッシュッ?」
どうぶつたちはウーウーとうなった。
「わからんなあ、わからん」
みんなあるきながら、そのいみをかんがえた。そんなとき、
「あっ、ヨウカイだ」
目のまえにオレンジ色のヨウカイがあらわれた。光をはなちながらユラユラして、大きくなったり小さくなったり、ボーボー音がしている。
「たいへん、たいへん」
どうぶつたちはヨウカイにフーフー息をふきかけた。すると、ヨウカイはシュッと音をたててきえていった。
「よかった、よかった、いなくなった」
ようかいがいなくなったら、スースーした気もちになった。
「ああ、なんだかすがすがしいなあ」
ボンヤリしていると、またヨウカイがボーボー音をたててあらわれた。
「たいへん、たいへん」
またみんなでフーフーしたら、ヨウカイはシュッときえていった。
「よかった。でも、また出てくるかも」
どうぶつたちはおそるおそるあるきだした。
「大じょうぶかなあ。また出てこないかなあ」
しばらくすると、やっぱりまたヨウカイがあらわれた。
「フーフーするのはもうイヤだあ」
ヨウカイをボンヤリ見ていると、何だか気もちよくなってウトウトねむたくなってきた。
「ダメ、ダメーー」ピョンちゃんが言った。「ねちゃダメ。ホーホー先生は、ヨウカイにねむらされちゃダメってよく言ってたよ」
「そうだ、そうだった」
みんなでフーフーいきをふきかけたが、ヨウカイは大きくなってきえなかった。
「こまったぞ・・・・。ん? あれは!」
大きなみずうみがちかくにあるのが見えた。
「みずうみにとびこもう」
ピョンちゃんはそう言ってみずうみにむかってはしりだした。みんなもピョンちゃんをおってはしりだした。
ーーザブーン
みずうみにとびこんだ。みずうみはつめたくて気もちよかった。
「ああ、いい気もち」
どうぶつたちはブクブクとみずうみのそこへもぐっていった。みずうみのそこはとてもしずかだった。
「とってもいいところだね」
「そうだね」
「もっともぐっていこうよ。ヨウカイもいないし」
どうぶつたちはブクブクブクブク、もっともっともぐっていった。
「ウッ、くるしい」
どうぶつたちはいきがくるしくなった。みんないそいでみずうみからうかび上がった。
「ハー、ハー、ハー」
水からかおを出し、なんどもしんこきゅうをした。外にはもうヨウカイはいなかった。
「よかった。ヨウカイはいなくなった」
どうぶつたちはみずうみから出てあるきだした。するとヨウカイがあらわれた。
「またか」
フーフー息をふきかけるとヨウカイはシュッときえていき、スースーした気もちになった。でも、また出てくるだろうと、どうぶつたちはマジマジとまえを見つめた。マジマジと見つめているとヨウカイは出てこなかった。
「ゆだんしないであるいていこう」
白い山へむかってあるきだした。たびはまだはじまったばかり、ヨウカイとのたたかいもはじまったばかり。とおくとおくへテクテクとあるいていかねばならない。テクテク、テクテクって。
(おわり)2018年作