
日本~いま、パレスチナ国家承認すべき時

MIDDLE EAST COUNCIL ON GLOBAL AFFAIRSにアデル・アブデル・ガファル(Adel Abdel Ghafar)氏による「パレスチナの場合: 日本と韓国はなぜパレスチナ国家を認めるべきか(THE CASE FOR PALESTINE: WHY JAPAN AND SOUTH KOREA SHOULD RECOGNIZE PALESTINIAN STATEHOO)という論稿があった(今年7月)。その内容はだいたい以下のようなものだ。

イスラエルのガザ攻撃が継続する中でヨーロッパではノルウェー、スペイン、アイルランドが一致協調してパレスチナ国家を承認したが、この承認はイスラエルに軍事占領を終わらせるように圧力をかけ、パレスチナの民族自決権を認め、永続的な解決への道筋を示すものだった。

日本と韓国は中東・北アフリカの国々と政治、経済、安全保障上の関係を拡大する中で一貫して二国家解決を支持し、パレスチナ人に多くの人道支援を与えてきた。日本はUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)や、またパレスチナ自治政府への政府開発援助の最大の資金援助拠出国の一つだ。日本と韓国がパレスチナ国家を承認していないのは朝鮮戦争以来、両国の安全保障の基本となってきた米国との同盟関係を考慮した結果である。

日本と韓国というアジアの主要国がパレスチナ国家を承認することは、国際社会が二国家解決を支持しているという明確なメッセージをイスラエルに与え、またパレスチナ国家承認によって両国は国際法と人権の主導的擁護者として世界的地位を高め、正義と平等への関与を強調することができる。また、米国はイスラエルによるガザ戦争支持によって、中東・北アフリカ地域における信頼を失墜させたが、その米国の政策に従うことは中東・北アフリカ地域で築いてきた肯定的な評価を下げることになる。日韓によるパレスチナ国家承認は、パレスチナ和平を求める世界的な圧力の高まりに拍車をかけることになるだろう。

日韓はパレスチナ国家を承認することで、国際社会の圧力の圧倒的多数に加わることになり、イスラエルに二国家解決に至らなければならないという強力なメッセージを与えることになる。イスラエルが真剣な交渉に応じるつもりも占領を終わらせるつもりもないことが明らかなのに、世界中の国々は、国家としての地位を得るための唯一の道として交渉を要求する米国の政策に従い続けることはできない。パレスチナ国家承認には米国とイスラエルとの間に緊張や軋轢が生じるというリスクもあるが、しかし国家承認は二国家解決への関与の一部であり、イスラエルが占領や入植地拡大を続ける中で国際的圧力なしでは和平交渉は困難であると米国を説得することも日韓両国には可能だ。

以上がガファル氏の論稿の大筋だが、日本人にはもしかすると、目新しいものはないかもしれない。しかし、パレスチナ和平は欧米主導で進められ、日本など東アジア諸国の関わりは国際社会にはあまり知られていないような印象もある。私は2008年にドイツ中東学会で日本の中東外交について報告を行ったら、「アジアのことを初めて知った」という声に少なからず接した。欧米の中東研究者ですらそうなのだから、一般社会にはもっと意識されることはないのかもしれない。

パレスチナ国家承認について、なぜ必要なのかについてはこのウォールでも書いてきたが、パレスチナがイスラエル支配を受け続ければ、入植地拡大やガザ戦争のような人権侵害の下に置かれ続けることになる。パレスチナが国家になれば、イスラエルはその国家としての主権を侵害しにくくなり、国際法に照らしてイスラエルの不当性がより鮮明になる。日本はパレスチナとイスラエルによる交渉によるパレスチナ国家の成立を岸田政権まで主張し続けてきたが、イスラエルがパレスチナ国家を断固として認めないと言い張る中で、両者の交渉にゆだねるというのは無責任なようにも思う。民族固有の意志の発露として国家をもつという民族自決権は国際法で常識のように認められているが、パレスチナ人はその固有の権利をいまだに認められていない稀有な民族だ。

米国のトランプ大統領は前回政権の時のように、UNRWAへの資金の拠出を凍結したり、ネタニヤフ首相などに逮捕状を発行した国際刑事裁判所に制裁を発動したりすることがあるかもしれない。日本はUNRWAにも多くの資金を提供し、また国際刑事裁判所への最大の資金拠出国だ。不道徳で、不合理な米国の政策にずっと歩調を合わせるわけにはいかないだろう。日本政府の胆力がいま試されているように思う。
表紙の画像は小渕首相とアラファト議長