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シファー病院の危機と、セシル・ローズの植民地主義経営に学んだシオニズム

 イスラエル軍はガザ最大の医療機関であるシファー病院に対する本格的攻撃を行おうとしている。シファー病院の貴重な電力源である太陽光発電システムも11月6日にイスラエル軍によって破壊された。シファー病院は元々イギリス軍の兵舎があったところで、1946年に病院が建てられた。通常、最大700人程度の患者を収容するが、10月7日以降、イスラエル軍の攻撃が激しくなるにつれておよそ5000人が医療サービスを受けるようになった。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」など国際的人権団体は、医療サービスが戦闘の被害にあってはならないと述べ、救急車や病院への攻撃は戦争犯罪に該当すると主張している。

ガザ北部から逃れる人々 11月9日 Palestinians fleeing northern Gaza walk along a highway on Nov. 9  https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-11-09/S3V70GDWRGG001?fbclid=IwAR0jfZ0icHPOTUmtEM0jlZMP7QXBmxKq5tRlKR14ELxEyxdzRnFYrF8q0p0


 ガザの淡水化プラントや、イスラエルからの送水パイプラインが閉鎖されているために、ガザ住民たちの本来必要な水の5%しか供給されていないと国連は訴え、ガザ地区はまさに人道危機に直面している。アメリカのバイデン政権はイスラエル軍が1日4時間の戦闘休止を行うとことを明らかにしたが、ネタニヤフ首相などイスラエルのタカ派にとっては、アメリカ大使館をエルサレムに移転したり、ゴラン高原にイスラエルの主権を認めたりしたトランプ前大統領が再選されることのほうが望ましい。2020年1月に明らかになったトランプ氏の和平提案はイスラエルがヨルダン川西岸の占領地にすでに築いた入植地にはイスラエルの主権を認め、エルサレムへのイスラエルの一国支配を構想していた。これによってイスラエルはヨルダン川西岸の30%の土地を獲得することになる。イスラエルはバイデン大統領の指導力低下を意図し、戦闘休止を誠実に守らない可能性もある。

攻撃された救急車 https://www.newarab.com/news/israeli-doctors-call-bombing-gazas-al-shifa-hospital?fbclid=IwAR1vNNZraqoesgeATA084fU4L78rFLQrOVNsS__WQxdNdDFXsS9zRCfB9YU


 ハマスとイスラエルの戦闘は10月7日のハマスの奇襲攻撃によって始まったが、占領者や植民地主義者に対する武力抵抗は国際法でも認められている。ハマスの攻撃については、ヨルダン川西岸の占領を継続し、占領地での入植地拡大を続けるイスラエルにも責任があることは明らかだ。

 イスラエルの植民地主義はイギリスの植民地支配に学んだものだった。イギリスの植民主義政治家セシル・ローズ(1853~1902年)は1870年に南アフリカに渡り、ダイヤモンド鉱採掘に従事して巨万の富を得て、トランスヴァール(現南アフリカの北部)の金鉱を独占した。彼は、1890年にイギリス・ケープ植民地政府の首相となった。ヨーロッパ諸国がアフリカでの植民地獲得に躍起となった「アフリカ分割」の時代に、イギリスのアフリカ縦断政策を推進し、エジプト・カイロとケープタウンを結ぶ地域の獲得にエネルギーを傾注していった。

イギリスのケープ植民地の首相セシル・ローズが行ったアフリカ縦断政策を風刺した絵です。 「できることなら惑星も併合したい」 と言ったといわれており 植民地政策にいかに貪欲であったかがわかります。 https://mirai-bridges.com/africakyojin/


 1889年には東インド会社をモデルに貿易会社であると同時に統治・警察権をもつイギリス・南アフリカ会社を設立し、中央アフリカ進出を目指し、1894年にンデベレ人やショナ人の居住地域を征服して植民地としたが、イギリス本国の4倍の面積をもつその植民地は彼の名前にちなんでローデシアと名づけられた。

 あまり知られていないが、セシル・ローズの植民地主義の方策は、パレスチナにユダヤ人の国家をつくろうとするシオニズム運動のイデオローグであるテオドール・ヘルツル(1860~1904年)にも多大な影響を及ぼした。ヘルツルは、ローズが経営していた南アフリカ会社のように、パレスチナにユダヤ人会社を設け、貿易・通商活動を行い、国家経営の基盤にしようとした。また、ヘルツルが構想するパレスチナのユダヤ人国家においては先住の小作農たちを排除し、彼らに代わりの職を与え、秘密の仲介者を使ってパレスチナ人地主たちから土地を購入し、ユダヤ人国家に必要な土地を獲得していくことをヘルツルは考えた。

アメリカ・ワシントンDCのパレスチナ支持デモ https://edition.cnn.com/2023/11/04/us/washington-dc-ceasefire-protests-palestine/index.html?fbclid=IwAR3j0lkLHOeCGq4F97XaC_fSbPFnycXCUQ5soXHDiXuMoR8YqSTiK8yb244


 シオニズムというユダヤ人ナショナリズムを背景にする新たな国家建設は先住のパレスチナのアラブ人との軋轢を生み出していった。それは、セシル・ローズによるローデシア建設やトランスヴァール共和国侵入と同様に暴力の行使をも伴うものであった。ローズが中心となって築いたイギリス植民地主義がアパルトヘイトをもたらしたように、ヘルツルのイデオロギーによってつくられたイスラエルは21世紀になってヨルダン川西岸に分離壁を設け、またパレスチナ人をガザ地区に閉じ込めてアパルトヘイトを固定化しようとしている。

 南アフリカはアパルトヘイトを克服し、世界ではBLMの運動が注目された。イスラエル・ネタニヤフ政権によってパレスチナ国家創設が困難になる中で、オックスフォード大学などでセシル・ローズ像の撤去が叫ばれたように、世界史の負の歴史的遺産を省みてパレスチナ問題をあらためて考えることがあってもよいだろう。

イスラエルのアパルトヘイトの壁 https://www.juf.org/Mag/tmpl-article.aspx?id=452238


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