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サンフランシスコ講和会議で日本に対する復讐を否定したイスラーム

 今日、9月8日は1951年にサンフランシスコ講和条約が締結された日。サンフランシスコ講和会議など戦後秩序の形成においてアジア諸国、特に南アジアの国々は戦後国際社会における日本の平和的役割を強調し、戦争責任は日本だけにあるのではなく、戦勝国も同様に責任を負うべきだと主張した。またこれらの国は西欧の植民主義支配に置かれていた歴史的経緯から戦勝国が日本を植民地のように扱うべきではないと考えていた。

 サンフランシスコ講和会議にパキスタンの外務大臣で、19世紀英領インドで生まれたイスラームの改革運動のアフマディーヤの敬虔な信徒であったザファルラー・カーン氏は、「日本の平和は、正義と公正によって維持されなければならず、復讐や反発の気持ちを抱いてはいけない。将来、日本は世界で社会的、政治的な重要な役割を果たすことになるであろう。日本は輝かしい未来を持っている国であり、必ず平和を愛する人々なのだ。」と日本に対する公平な処遇を訴えた。(パキスタン大使館のサイトより)アフマディーヤは、すべての人々の平等を説き、人間の内面における闘争、努力(=ジハード)を重視し、武力による戦いを否定した。ちなみに、アメリカ黒人のジャズ・ミュージシャンの多くはこのアフマディーヤの信仰からイスラームに接するようになっている。

ザファルラー・カーン https://www.britannica.com/biography/Muhammad-Zafrulla-Khan


 時代が下って2015年11月25日、東京都・台場で開催されたアフマディーヤの大会で、アフマディーヤ第5代カリフ・ミールザー・マスルール・アフマド師もザファルラー・カーン氏のサンフランシスコ講和会議でのスピーチは日本に科せられそうとした不当な制裁を非難するものであり、その考えはイスラームの聖典クルアーンと預言者ムハンマドの人生に基づく寛容に満ちたものであると発言している。

 アフマディーヤは1889年に英領インド帝国のパンジャーブ州のカーディヤーンで始まり、創始者のミールザー・グラーム・アフマド(1835~1908年)は自らをメシア(ユダヤ教の救世主)であり、またマフディー(イスラームの救世主)であるもと説き、イスラームの主流派からは異端と見なされた。アフマディーヤは人間のあらゆる事象における平和を尊重し、教育、寛容、慈善活動を重視する。

 アフマディーヤは1920年代にアメリカの各都市に宣教活動にその聖職者たちを送った。人種間の平等と同胞愛を説くアフマディーヤの教えはアフリカ系アメリカ人(黒人)の間で多くの信徒を獲得していった。アフマディーヤはジハードを武力ではない平和的手段による精神的闘争と規定した。アフマディーヤの宣教師ムハンマド・サーディクはイスラームがすべての人々の平等を説く普遍的な宗教であることを訴え、アメリカのアフリカ系の人々の間で信徒の数を増やしていった。

 アフマディーヤに改宗したジャズ・ミュージシャンの中にはピアニストのアーマッド・ジャマル、ヴォーカリストのダコタ・ステイトン、トランぺッターのタリブ・ダウード、ドラマーのアート・ブレイキー、サクスフォン奏者のサヒブ・シハブ、ベーシストのアーメド・アブドゥル・マリク、リード奏者のルディ・パウエル、ピアニストのマッコイ・タイナー(スレイマン・サウド)など錚々たる人々だった。アート・ブレイキーの「ジャズ・メッセンジャーズ」の「メッセンジャーズ」にはイスラームの預言を伝える者という意味が込められていた。預言者ムハンマドの「預言者」も英訳すれば「メッセンジャー」だ。

 アーマッド・ジャマルは人生の指針を聖典コーランから得て、アフマディーヤに属す自分のモットーはすべての人々に愛を、憎しみは誰にももたないことだと強調した。

アーマッド・ジャマル


 時代を下って人種主義的傾向をもっていたトランプ政権時代の2017年2月に開かれた第89回アカデミー賞授賞式では今回のアカデミー賞では助演男優賞に貧困地区の黒人少年の成長を描いた「ムーンライト」に出演した黒人俳優、マハーシャラ・アリ(1974年生まれ)が受賞した。マハーシャラ・アリは20代半ばでアフマディーヤに改宗している。1929年にアカデミー賞が創始されてからムスリムの俳優が受賞するのは初めてのことである。アリの母親はキリスト教の牧師だが、イスラームに改宗した時に母親に反対されることはなく、母と息子の愛情や絆はますます深まっていったという。マハーシャラ・アリは翌々年のアカデミー賞でも作品賞を受賞した「グリーン・ブック」で助演男優を受賞している。

マハーシャラ・アリ https://memorylane-media.com/mahershala-ali


 アリの受賞は、トランプ政権にあるようなヘイトを乗り越え、人の情愛を敬う普遍的価値観をあらためて国際社会にアピールするかのようだ。アフリカ系アメリカ人のイスラームへの入信はアメリカ社会の矛盾を反映したものであり、社会の中で平等に生きようとする彼らの方途を提供するものである。


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