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トランプ新政権がICCに制裁 ―どうする日本?

 米国のトランプ次期政権は、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に逮捕状を発行したICCに制裁を科す可能性がある。ICCの赤根智子所長は2日に始まったICC加盟国の年次総会の冒頭、「国連安全保障理事会の常任理事国(米国)から、(ICCが)テロ組織であるかのように脅迫されている」と非難した。また赤根氏は「国際法と国際司法は今、危機に面している。加盟国は法的な義務を果たす必要がある」と述べた。
イスラエルにとって外交上の大惨事であるとエコノミスト誌は報じ、イスラエルの指導者にとって「顕著な汚名」であると、ガーディアン紙も形容した。


 ICCの逮捕状は米国にとっても大きな衝撃であったことは疑いがない。イスラエルは、米国の軍事的・政治的支援なしには、ガザでの戦争、ジェノサイドを続けることはできなかっただろう。昨年10月7日から今年10月7日までの1年間で、米国のイスラエルに対する武器支援は179億ドル(2兆7000億円に近い)に達した。1年間の米国の軍事支援とすれば、過去最高になり、その中には殺傷能力の高い2000ポンド爆弾も含まれる。ハーバード大学のデータアナリスト、デニス・クニチョフ氏によれば、は、2000ポンド爆弾の使用は「明らかな国際人道法違反」であり、「(2000ポンド爆弾は)その威力と破片で数百メートル離れた人々を殺し、コンクリートを破壊できる」と語っている。https://www.cnn.co.jp/usa/35224795.html

 
 ヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したのも、この米国製200ポンド爆弾と見られ、ビル一つを軽く吹き飛ばすほどの威力をもっている。
米国の主流マスコミやジャーナリストも、この大量虐殺の責任を負っている。彼らは、今や戦争犯罪人であるネタニヤフとギャラントを、他のイスラエルの政治・軍事指導者たちとともに、あたかも彼らが「野蛮人」(=パレスチナ人)に対する「文明世界」の擁護者であるかのように持ち上げた。
米国はICCに対する制裁に言及するようになり、逮捕状を請求したカーン主任検察官を中傷し、さらに米国のトム・コットン上院議員は「ハーグ侵攻法」をもち出した。「ハーグ侵攻法」、つまり米軍兵士保護法は、2002年に可決され、米軍要員と同盟国をICCの訴追から守るためのもので、米国には戦争犯罪を犯す可能性が高いという一種の確信があったためにできた法律だ。この法律は、ハーグでICCに拘束されている米国人または同盟国の要員を釈放するために、軍事力を含む「必要かつ適切なあらゆる手段」を米国大統領に行使する権限を与えている。


 11月27日にフランス外務省は声明を出し、イスラエルがICCの加盟国ではないため、免責が適用されるとの見解を示した。フランスは当初ネタニヤフ逮捕を表明していたが、がフランスが主導的な役割を果たしたイスラエル・レバノン停戦協定を成立させるために、ネタニヤフとの取引の材料にしたという見方が有力だ。

 ICCの締約国である一方で、米国の同盟国である日本は難しい立場に置かれているが、米国の同盟国もその制裁に揺らがないこともあった。

アムネスティ・インターナショナルの報告書は5日、イスラエルのガザ攻撃を「ジェノサイド(大虐殺)」と断定した。 https://www.amnesty.org/en/latest/news/2024/12/amnesty-international-concludes-israel-is-committing-genocide-against-palestinians-in-gaza/


 レーガン政権の米国はソ連からヨーロッパに向けてガスを輸出するパイプライン事業に協力を行った企業に対して罰金など制裁を科すことを明らかにした。ソ連のガスへの投資は、ヨーロッパのエネルギー事情にとっては重要な事業であった。レーガン政権の同盟国への制裁に特に怒ったのは、レーガン大統領と親密な関係にあったイギリスのサッチャー首相であり、1982年8月末にソ連のパイプライン建設にパーツを供給しようとしていたイギリスの二企業に対してレーガン政権の制裁を無視することを促した。フランス、イタリア、西ドイツもレーガン政権の制裁を無視する方針をとった。結局レーガン政権も、同盟国の意向を無視できなくなり、パイプラインに関する外国企業への制裁を82年11月に撤回せざるをえなくなった。このパイプラインをめぐる軋轢があってもサッチャー首相とレーガン大統領の「信頼関係」は揺らぐことがなかった。

イスラエル軍の空爆から逃れるため、国連の避難所で暮らす子供たち=パレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニスで2023年10月24日、ロイター https://mainichi.jp/articles/20231025/k00/00m/030/037000c


 日本政府に必要なのは、レーガン政権の制裁を無効にしたヨーロッパ諸国のように、米国との一時的な対立が生じてもICCの逮捕状発行を支持し、米国の不当な圧力をはね返す国際的協調の環境をつくりだす努力だろう。米国、イスラエルの国際法違反は明らかで、国際司法裁判所(ICJ)もイスラエルのガザでの戦争がジェノサイドに相当する可能性を指摘している。日本は正当な立場を訴え、歴史の正しい側にいることを強調したほうが、アラブ・イスラム諸国をはじめとする圧倒的多数の国際社会の支持を得られることは間違いない。


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