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イスラエルのガザ攻撃支援で陰るアメリカの影響力と、「イスラエルは全体主義国家に発展する」(ハンナ・アーレント)

 バイデン政権のジョン・カービー国防省報道官は、シファ病院にハマスの最大拠点やトンネルの中枢があり、人質がそこにいる可能性があるというイスラエルの主張を認め、イスラエルのシファ病院攻撃を容認する発言を行った。しかし、国際人道法に違反するイスラエルの軍事行動をアメリカが擁護することはアメリカの国際的影響力をいっそう低下させることになる。特に2022年のロシアのウクライナ侵攻を強く非難したアメリカがイスラエルによる入植地拡大や、多数の民間人の犠牲者を伴うガザ侵攻を一切批判しないことは、中東、ラテンアメリカ、アフリカなどのグローバルサウスの国々のアメリカからの離反をもたらしている。

アメリカのダブル・スタンダード パレスチナはテロリスト、ウクライナはヒーロー  https://mondoweiss.net/2022/03/the-medias-racist-double-standard-on-palestine/?fbclid=IwAR2Yf1vvlw1rewqpI1JmRE-JcgHoQTrPchP_sk9baLrKYrb_cGcsU_BBZGU

 アメリカはウライナ南部の占領地からウクライナ人住民たちを追放し、占領地にロシア人を移住させるようになったことにも批判を行い、それがジュネーブ第4条約の文民保護規定に違反することを強調してきた。アメリカがロシアと同様なことを行うイスラエルを非難しないことは、ジュネーブ第4条約はガザ市民には適用されないと言っているようでもあり、アラブ・イスラーム諸国からの信用を著しく失うものだ。

 ガザ攻撃は、ネタニヤフ首相が安全保障問題に断固たる姿勢を見せることで、イスラエル国内における彼の政治的求心力を高め、自らが主導する連立政権を維持する目的で行われている。また、首相職を継続する間、汚職で起訴されているネタニヤフ氏の有罪は確定されない。ネタニヤフ氏の権力への執着から起こされるガザ攻撃で犠牲になるパレスチナの子どもたちはまったく不憫だ。ハマスのロケット攻撃とは不均衡なイスラエルの最新鋭の兵器を用いる大規模なガザ攻撃は戦争犯罪にも相当する。

 イスラエルのエフード・オルメルト元首相(在任2006年5月~2009年3月)は、2008年12月から09年1月までのガザ攻撃を指示し、1300人のパレスチナ人の犠牲者を出した。また彼の在任時代に行われた2006年7月のレバノン侵攻では、国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)の施設に砲撃があり、中国、フィンランド、オーストラリア、カナダの監視要員ら4人が死亡し、1200人のレバノン市民が犠牲になった。

2009年1月 ガザの国連が運営する学校に白リン弾を投下するイスラエル軍 オルメルト元首相の戦争犯罪が問われている  https://www.hrw.org/report/2009/03/25/rain-fire/israels-unlawful-use-white-phosphorus-gaza?fbclid=IwAR09ZpnTN8Yt6hzkmvDOad8n8ga5EGM2Jz6_lV5dh_6BbGULWQzi82C2Bfo

 スイスの戦争犯罪法(1927年成立)では、国籍にかかわらず戦争犯罪に関わった人物に対して裁判を起こすことが可能だが、2019年7月にオルメルト氏はスイスで逮捕、拘禁されることを恐れてスイス訪問をキャンセルした。同様に、オルメルト氏はベルギーでも2006年7月にレバノン攻撃における人道犯罪で提訴されている。

 国際刑事裁判所は、イスラエルの戦争犯罪について調査を行っているが、その対象には数次にわたるガザ攻撃を指示したネタニヤフ首相も視野に入っている。パレスチナは国際刑事裁判所に加盟しており、パレスチナの提訴で、ネタニヤフ首相の有罪が確定すれば、国際刑事裁判所加盟国にネタニヤフ氏が渡航した場合、そこで逮捕・収監される可能性がある。

 ヨルダン西岸で入植地を拡大したり、ガザを攻撃したりするイスラエルの民族主義、人種主義はドイツ系ユダヤ人の政治哲学者ハンナ・アーレント(1906~75年)が説いたように、全体主義にも発展していく可能性をもっている。アーレントは「膨脹こそすべてだ」というセシル・ローズの言葉を、自身の帝国主義論の第一章第1節の冒頭で引用しているが、ヨルダン川西岸の入植地の拡大をひたすら追求するイスラエルの姿勢を言っているかのようだ。

 アーレントは存在したという記憶も奪われるという「忘却の穴」について、全体主義の政府には巨大な穴を掘って、そこに歓迎できない事実と出来事を放り込んで埋めてしまうという方法があると説く。全体主義国家では、過去はまるでなかったかのように、忘れ去るべきものとされる (ハンナ・アーレント『責任と判断』より)。

 イスラエルには「ヨム・ハショア」というナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺を追悼する「ホロコースト記念日」がある一方で、イスラエルは2011年3月に「ナクバ法」を成立させてパレスチナ人がナクバを記念することを実質的に禁じている。「ナクバ」とは、1948年のイスラエル建国に伴って、その前年からシオニスト民兵組織がおよそ600のアラブ人村から75万人のパレスチナ人を武力で放逐したもので、「大災厄」とも日本語では訳されている。

 ナフタリ・ベネット元イスラエル首相(在任2021年6月~22年6月)は、2014年5月の「ナクバの日」を前にしてナクバを記念するアラブ人は容赦しないと発言した。自らに都合の悪い歴史を忘却する姿勢がそこには明確に表れていた。

 パレスチナ問題の歴史をふり返ると、市民の虐殺や追放などの戦争犯罪、占領地におけるパレスチナの土地・財産の強奪や入植地の拡大などイスラエルにとっては「忘却の穴」の中に放り込みたい歴史や現在の事象が数多く存在する。国際社会には国際刑事裁判所の機能などを通じてイスラエルに不都合なことを忘却させない取り組みが絶えず求められている。パレスチナの無辜の市民を殺害するガザ空爆などを行わせないための工夫や措置は日本も含めて国際社会は考えていかなければならないが、松野博一官房長官のように、イスラエル軍の病院突入に対する法的評価を差し控えるというのではあまりに情けない。

「この世界は善きつけ悪しきにつけ、人間が作りあげてきた記念物と遺物で作られている。いまとなった世界を生きようと願うわたしたちにつきまとうのが、過去の機能なのだ。」 ―アーレント


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