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裏切りの民間軍事会社はイギリスの新自由主義で発展し、ロシアの政治家たちの私兵組織となった
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は23日、ロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌに入り、ロシア軍幹部の打倒を表明した。が、ベラルーシのルカシェンコ大統領に促されてモスクワにワグネルを進めることなく、プリゴジン氏はベラルーシに向かったという。チェチェンのカディロフ首長はプリゴジン氏が反乱を起こした背景を政府がサンクトペテルブルクの土地を娘に与えなかったからだと説明している。ならば東南アジアなどで活動する武装集団の強請(ゆす)りと変わらないが、一連の動きは芝居がかかっている印象も否めない。
民間軍事会社は現代の傭兵組織だが、『君主論』を著したマキャヴェリは「傭兵とは有害無益であって、傭兵の上に基礎を置く国家は堅実でも安全でもない。なぜなら、傭兵は一致を欠き、野心に満ち不規律で、不忠実で、味方の前では勇敢であるが、敵の間では臆病」と述べたが、ロシアに37も存在する民間軍事会社は、政治家の私兵的存在で、また彼ら権力基盤の装置であるように見える。ロシアの政治家たちは大きな政治変動に備えて民間軍事会社を養っているようだ。
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「戦争というものは、最も卑しい罪科の多い連中が権力と名誉を奪い合う状態をいう。」―トルストイ
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傭兵による戦争形態が典型になるのは、ルネサンスの頃である。すなわち、イタリアで は、14世紀頃から傭兵隊長のもとに傭兵隊が組織されており、傭兵隊長が一隊を率いて君主や都市と契約を行った。傭兵の構成は社会的には乞食や前科者、出身地も様々であった。かれらの行動のモチーフは金とか出世であり、信頼がおける存在ではなかった。ワグネルの活動を見ていると、傭兵組織の本質は14世紀の頃とまったく変化がないようだ。
クーデターは通例日本の二・二六事件のように首都で起こすものだが、地方での反乱はロシア政府を打倒する意図や計画性が当初から希薄のように見え、その「本気度」を疑わせていた。ワグネルはシリアやリビアの戦争に参入し、シリアではアサド政府軍を、またリビアでは東部ベンガジに拠点をもつ軍閥のハフタル将軍のリビア国民軍(LNA)を支えてきた。また、スーダンでは2017年以来、スーダンで金の採掘などの事業を行ったりしてきた。ワグネルは、紛争が絶えない中東・アフリカを活動舞台とし、プーチン大統領のウクライナ戦争を支えるなど戦争をビジネスにする「戦争の親玉」のような組織だ。
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現代の民間軍事会社(PMC: Private Military Company)は、イギリスで誕生した業種で、第二次世界大戦後に大英帝国が解体し、新しい国家群が生まれる中で、その治安活動の脆弱な中で中東やアフリカで1960年代に活動を開始した。また、1970年代にイギリスのエネルギーや鉱山関連企業が中東やアフリカで安全を確保する必要もあった。また、イギリスの民間軍事会社はその社員を豊富な軍事知識や経験を得たイギリス軍の元兵士たちから募ってきた。また、イギリスはサッチャー政権時代に着手された新自由主義政策によって、国営企業の徹底的な民営化を推進した。その方針に従って刑務所や難民収容所の民営化まで行われた。これが対テロ戦争で膨大な利益を得るイギリスの民間軍事会社に発展する重要な契機となった。営利の追求を最優先するためにこうした民間軍事会社は常に戦争を求めることになり、アメリカが着手した「対テロ戦争」はイギリスの民間軍事会社にとって絶好の機会となったが、ロシアの民間軍事会社のモデルになったのは英米のそれであったことは間違いない。
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戦争を渇望する企業の活動が、正当性のない戦争を引き起こしている。冷戦が終焉すると、英米など民主国家は戦争をしないという「民主的平和論」が強調され、旧ソ連諸国や東欧諸国での選挙監視の重要性などが説かれたこともあったが、それがいかに空論であるかは対テロ戦争におけるアメリカやイギリスの軍事的関与を見れば明らかだ。民間軍事会社は、英米に続いてロシアやトルコなどでも活動するようになった。人権侵害にも加担する民間軍事会社に対する厳格な規制が求められているが、スイスなどでは民間軍事会社に国際的な行動規範を促す監視団体なども生まれるようになった。
アイキャッチ画像はプーチン大統領とプリゴジン氏