早乙女勝元さんが強調する第二次世界大戦中のイタリアの戦争反対と「さらば恋人」
作家の早乙女勝元さん(1932~2022年)には『イタリア・パルチザン』という著作があり、第二次世界大戦中の日本とイタリアの相違について早乙女さんは次のように語っている。
「ファシズムの一員だったイタリアが、ムッソリーニを倒して、第二次大戦が終わるときには、連合国の側に加わっている。戦争への国民の大規模な抵抗があり、ムッソリーニの政権内にも、もう戦争を止めようという動きがあった。日本にはなかったことです。」
(東京民報2020年7月12日号より)
昨年4月25日、イタリアでは77回目の「解放記念日」が祝われた。ロシアのように「戦勝記念日」ではなく、ファシスト政権の打倒とナチス・ドイツの占領を駆逐したパルチザンの勝利を祝うものだ。セルジョ・マッタレッラ大統領は、イタリアと、ロシアによる侵攻を受けるウクライナを比較しながら、パルチザンの抵抗の歌「ベッラ・チャオ(さらば恋人」を思い出すと述べた。この歌はイタリアでは国民的歌唱曲になっているが、日本ではダークダックスなどが歌った。
ダークダックス版の歌詞(訳詞:東大音感合唱研究会)は下のようになっていて、歌の動画は、
https://www.youtube.com/watch?v=MpkrJ9tpMvY にあり、きれいなハーモニーで歌われる。
ある朝 目覚めて
さらば さらば 恋人よ
目覚めて 我は見ぬ
攻め入る 敵を
我をも連れ行け
さらば さらば 恋人よ
連れ行け パルチザンよ
やがて 沈みぬ
戦に果てなば
さらば さらば 恋人よ
戦に果てなば
山に埋めてや
埋めてや かの山に
さらば さらば 恋人よ
埋めてや かの山に
花咲く 下に
道行く 人々
さらば さらば 恋人よ
道行く 人々
その花 愛(め)でん
https://www.youtube.com/watch?v=MpkrJ9tpMvY
ダークダックスの歌は、アルバム「ヤッホー!ヤホホー!山の歌集」の中に収められていて、iTunesストアの同アルバムの中では一番人気がある。この歌詞のようにパルチザンの戦場は山岳地帯が多かった。
パルチザンが否定したファシズムは国粋主義、社会政策を強調して、中間層、農民に支持基盤を求め、暴力的に人権を否定するのが特徴だ。プーチン体制のロシアをファシズムと形容する識者もいるが、マルレーヌ・ラリュエル(浜由樹子訳)『ファシズムとロシア』(東京堂出版2022年2月26日)によれば、プーチン体制の特徴とは1.国家指導者の無謬性を強調する大統領府、2.高齢層の文官や軍高官が国防省や軍需産業の要職を占める軍産複合体、3.ロシア正教会の諸組織、という3つの柱が特徴なのだそうだ。
ファシズムの端的な定義と現在のロシアには相似性があるという印象は禁じ得ないが、イタリアでは、パルチザンによるファシズム(イタリアのファシスト党やナチス・ドイツ)の打倒が自由や平和をもたらしたと考えられている。マリオ・ドラギ首相は「解放記念日」の式典で、「パルチザンの闘争と理念が我々に平和をもたらしたことを祝福する」と述べた。万が一、日本が戦争への道を歩み始めた時にイタリアのパルチザンの足跡は一つの鑑となることだろう。
イタリアでは現在でも「全国パルチザン協会(ANPI)」が活動していて、若い層のメンバーも集めているが、ロシアのウクライナ侵攻については欧米による大量の武器供与がヨーロッパや世界の安全を損なうものであるという理由で反対している。1980年代にアメリカやサウジアラビアがアフガニスタンのムジャヒディンに与えた武器・弾薬がその後のアフガニスタンや周辺諸国の紛争、また過激派のテロで使われたことを指摘してのものだ。
イタリアでは「ベッラ・チャオ(さらば恋人」は、日本でも知られる歌手のミルバなどによっても歌われたが、ジャーナリストの伊藤千尋さんによれば、ミルバは平和や自由を主張し、核廃絶など軍縮も訴える人だった。
(伊藤千尋「歌い継がれるパルチザンの魂 それは恋の歌~『さらば恋人よ』イタリア」『論座』2021年7月26日)(ミルバの歌の動画は、
https://www.youtube.com/watch?v=8GxEjrW8yiE にあり、イタリア人らしい迫力と力強さで歌われる。)
アイキャッチ画像は東京大空襲の経験を基にした紙芝居をつくった早乙女勝元さん。「戦争の悲惨さを小さな子に理解してもらうには、目で見てわかるものがいいと考えた」と語り、生涯を通じて平和を希求し続けた(2021年)
https://www.yomiuri.co.jp/local/tokyo23/news/20220512-OYTNT50013/?fbclid=IwAR002l85oLIuxqhe8ivDCDdkcoMdisUxOdEBJ25nldhNl9ftw_U3lDHZVJs
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