ギリシャとヨルダンへの自衛隊機の派遣は適切な措置なのか?
木原防衛相は、レバノンに滞在する日本人の退避に備え、航空自衛隊の輸送機をヨルダンとギリシャに派遣し、待機させるように命じた。レバノンには現在50人ほどの邦人が滞在しており、国外退避を希望するのは10人ほどだという。退避を希望する日本人はヨルダンとギリシャには自力で、民間の旅客機を利用して行かなければならない。今回もまたレバノンで日本大使館や日本のNGO、企業などで働く現地の人々(=レバノン人)のことは視野に入っていないようだ。
派遣する部隊の受け入れ調整のために、およそ10人の連絡調整要員がすでに日本を出発しているというが、イスラエル軍のベイルート空港の攻撃、破壊の可能性が迫る中で悠長な印象を受ける。米国などはすでに8月上旬から自国民のレバノンからの退避を求めている。
ヨルダンとギリシャに日本人が退避できれば、そのまま民間の旅客機で帰国したほうがはるかにスムーズで早い。現地の邦人たちがどのような状態に置かれていても、また彼らが退避を希望していなくても自衛隊機派遣を決めるというのでは、邦人の命よりも、自衛隊の役割の拡大のほうを優先しているかのようだ。
自衛隊機は2021年8月にアフガニスタンでタリバンが政権奪取した時、輸送機3機が派遣されたが、自衛隊機で撤収した邦人はわずかに1名だけで、自衛隊機派遣が先にありきの措置だったことが明らかだった。当時、タリバンが日本人に危害を加える様子はまるでなく、邦人救出は民間機でもよかった。
アフガニスタンへの自衛隊機の派遣については、昨日自民党の総裁選で落選した高市早苗氏などはカブールの空港だけでなく、市街地などでも自衛隊が銃器を使えるような法改正をと主張し、アフガニスタンの住民の命よりも自衛隊の活動形態のほうを優先的に考えていた。
高市氏が言うような自衛隊員がアフガニスタン国内で銃器を使用するという発想は中村哲医師が最も強く非難し、嫌ったものだった。
「やはり、日本だけは分かってくれる。兵隊も送らない」
これはアフガニスタン・シェイワ郡にマドラサを造った中村哲医師に対するアフガニスタンの人々の感謝の言葉だった。中村医師は、自衛隊のアフガニスタン派遣には徹底して反対し、国会で参考人に招致された時に自衛隊の派遣は「有害無益」と語ると、鈴木宗男議員などからは罵声を浴びせられ、司会役の亀井善之議員からは発言の撤回を求められたと回想している。(中村哲『医者、用水路を拓く』石風社、2007年)鈴木議員たちの考えは911の同時多発テロを受けた米国の対テロ戦争に自衛隊が協力することが「国際協調」「国際支援」になるというものだった。ギリシャやヨルダンに自衛隊の輸送機を派遣するというのも、鈴木宗男氏の発言などと同じ背景から生まれた発想のように思える。
2003年に日本が自衛隊をイラクに派遣した時に、インドネシアのイスラム指導者のアブ・バカル・バアシル師は面談した筆者に自衛隊がイラク人を殺せば、日本に報復すると語っていた。自衛隊派遣に際してイスラム世界の同胞意識は無視できない。かりに救出作戦で自衛隊が現地住民を殺害するような事態になれば、報復は日本国民に向けて行われる可能性があることに政治家たちは考えが及んでいないだろう。
日本は自衛隊機の派遣よりも、もっと国際社会に貢献できることを考えたらどうか。イスラエルの激しい攻撃を受けるガザからの難民受け入れは依然としてゼロの状態だし、イスラエルにガザ停戦を促したり、あるいはレバノン攻撃を思いとどまらせたりするような努力こそ自衛隊機の派遣よりもはるかに重要で、喫緊の課題のように思えるが、この分野では日本の貢献はほとんど見られない。
表紙の画像は
日本政府は自衛隊機を派遣し、日本人女性1人とアフガニスタン人14人を国外に退避させた。
しかし、日本大使館や国際機関が雇用しているアフガニスタン人およそ500人を退避させることはできず「オペレーションは失敗だった」と批判が噴出している。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/67332.html より