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トランプの時代に贈るクインシー・ジョーンズが敬愛したイスラムの詩人の愛と寛容

 11月3日に亡くなったジャズ・ミュージシャンで、音楽プロデューサーだったクインシー・ジョーンズ(1933~2024年)は「私はオマル・ハイヤーム、カリール・ジブラン、ルーミー、L.ロン・ハバード、あらゆる種類の哲学書を読んでいました。」と語っていた。L.ロン・ハバードを除いては、ペルシアやアラブの詩人たちだ。

 米国のフォークソング歌手のウディ・ガスリー(1912~67年)はペルシアの詩人オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」に強い影響を受けていた。有名な曲「我が祖国」の詞は下の通りで、そこには社会正義の考えが貫かれていた。ガスリーは、1930年代の後半からハイヤームの「ルバイヤート」に接し、ルバイヤートが説く無常観は、大恐慌時代の経済的な危機に瀕する米国社会の本質に近づき、富への執着の虚しさを説くものだと考えた。


ウディ・ガスリー 「我が祖国」 https://aucview.com/yahoo/q1086033462/

 極貧という小径をたどるまで、君は何も得られない、

 血の涙で頬を濡らすまで、なにも手に入らない。

 なぜ欲望に身を焦がすのか?

 利己心を捨てぬかぎり、心清らかな人のようには、自由にはなれない。

―オマル・ハイヤーム「ルバイヤート」(蒲生礼一訳)


 ウディ・ガスリーの「オールドマン(老いぼれ)・トランプ」(1954年)はトランプ前大統領の父親フレッド・トランプがニューヨーク・ブルックリンで経営する「ビーチ・ヘブン」アパートメントを黒人にはレンタルしないように指示したことを知り、作詞されたもので、

 

 老いぼれトランプは知っている

 彼がいかに人種的憎悪を煽り立てていることを

彼は心底から

人種差別を行っている

ここ、ビーチ・ヘブンの家族プロジェクトで


とある。第二次世界大戦からおよそ10年後、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジでガスリーは、ジャズ・スキャット歌手アフメド・バシールによるコーランの朗誦を好むなど、日ごろ接している米国のキリスト教・ユダヤ教文化以外のイスラム世界の文化に接していた。そこには多様性を重んじる米国人の良心があった。

 アフガニスタン東部のバルフで生まれたペルシア文学最大のイスラム神秘主義詩人ルーミー(1207~73年)はその作品『七説話』の中で次のように書いている。


1 恵みや人助けは、流れる水の如く (惜しみなく絶え間なく)

2 情け深さと親切は、太陽の如く (平等に暖かく)

3 人のあやまちは、夜の闇の如く (覆い隠せ)

4 怒りや苛立ちは、死の如く (葬り去れ)

5 慎み深さと謙虚さは、大地の如く  (静かに動じず)

6 寛大さは海の如く (大らかに広く深く)

7 ありのままの己を見られよ、

  或いは、見られる通りの己であれ。(裏表なく)


拙著『イスラムがヨーロッパを創造した』の帯裏

来れ 来れ 何人であれ 再び来れ

不信者であろうと、拝火教徒であろうと、 他信徒であろうと、来れ

わが学びの場は絶望にあらず

たとえなんじが百度その誓いをやぶろうとも

来れ 再び来れ

http://muddyfox-mf26rsk.blog.so-net.ne.jp/2014-05-09


https://blog.goo.ne.jp/shirai_3330/e/387835a9269c3efe834c11754cf75c94

花のうた

わたしは自然が語ることば、

 それを自然はとりもどし

 その胸のうちにかくし

 もう一度語り直す。

 わたしは青空から落ちた星、

 みどりのじゅうたんの上に落ちた星。

 わたしは大気の力の生んだ娘、

 冬には連れ去られ

 春には生まれ

 夏には育てられる。

 そして秋はわたしを休ませてくれる。


―ハリール・ジブラーン「花のうた」神谷美恵子訳『ハリール・ジブラーンの詩 』(角川文庫) より抜粋

 ハリール・ジブラーン(1883~1933年)は、オスマン帝国山岳レバノン直轄県出身の詩人、画家、彫刻家で、米国で主に活動した。やさしく、美しい情景が目に浮かぶジブラーンの詩は持続可能な社会の構築という国際社会の取り組みを代弁するかのようで、環境よりも消費を重視するトランプとは真逆な印象だ。

 クインシー・ジョーンズがプロデュースし、大ヒットした「ウィ・アー・ザ・ワールド」(1985年)はアフリカの飢餓撲滅と貧困救済を目的とした楽曲だったが、その歌詞にもまたアメリカ至上主義を唱えるトランプ主義とは正反対の価値観が訴えられている。


ウィ・アー・ザ・ワールド https://www.fanfan1.com/products/detail/693809

We are all a part of God's great big family

(私たちはみな神の素晴らしい大きな家族の一員)

And the truth, you know

(そして真実は、分かってるだろう)

Love is all we need

(私たちに必要なのは愛だけ)

We are the world, we are the children

(私たちは世界、私たちは(神の)子供)

We are the ones who make a brighter day

(私たちこそがより明るい日を作る者たち)

So let's start giving

(だから与えることを始めよう)

表紙の画像はクインシー・ジョーンズ


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