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「停戦合意には達したが、戦争犯罪への追及は続く
ガザ戦争は6週間の停戦合意に至ったが恒久的な和平にはほど遠い。イスラエル軍は合意に達した後もヨルダン川西岸を爆撃し、レバノンやシリアでは占領を続ける。ガザの復興を考えても、イスラエルが再び破壊を伴う戦争を始めれば元の木阿弥だ。イスラエルの極右はガザでの入植地再建を主張しているが、あらためて何のための4万6000人の犠牲だったのかという思いがする。ネタニヤフ首相は6週間の停戦後に戦闘の再開とハマスへの勝利を極右のスモトリッチ財務相に約束したという報道もある。極右勢力が内閣から離れればネタニヤフ政権は崩壊する。
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ブラジルでイスラエル軍兵士の逮捕が連邦裁判所によって命ぜられたが、ブラジルの司法当局の動きを知ったイスラエル政府はこの兵士ユヴァル・ヴァグダニが逮捕から逃れ、アルゼンチンに脱出するための措置を講じたようだ。イスラエル放送協会(KAN)によると、南アフリカからスリランカ、スウェーデンなどの国々で、50人以上のイスラエル軍兵士がガザでの戦争犯罪を追及されている。
ヒンド・ラジャブ財団は、イスラエル軍のナハル旅団第932大隊の狙撃兵、ボアズ・ベン・デイビッドに対して、スウェーデンの裁判所に告訴状を提出した。ナハル旅団は1982年に創設され、パレスチナ人に対する戦争犯罪で悪名高い活動を行ってきた。2023年10月に始まるガザ戦争でのナハル旅団の戦争犯罪は、従来のレベルや規模をはるかに超えるものだと見られている。
イスラエルの戦争犯罪を追及している団体はヒンド・ラジャブ財団だけではないが、この団体の名称は、2024年1月にイスラエル軍に殺害されたガザ出身の5歳のパレスチナ人少女とその家族に由来している。ヒンド・ラジャブさんは、ガザのテル・アル・ハワで彼女が家族とともに乗車したクルマがイスラエル軍戦車の砲撃を受けて、彼女を除く家族全員が死亡した。イスラエル軍は、ラジャブさんの救命に駆けつけ、彼女を乗せた救急車も攻撃して、ラジャブさんも命を落とすことになった。ラジャブさんが必死に救急車を呼んだ時のやり取りはアラブ・イスラム世界では大きな反響を生んだ。その様子は下のYouTubeにある。
ヒンド・ラジャブ財団は、24年9月に設立され、ベルギーに本部を置く団体だ。その活動目標を「イスラエルの免責の連鎖を断ち切り、ヒンド・ラジャブとガザ虐殺で亡くなったすべての人々の記憶を尊重することに尽力する」ことに置いている。つまりイスラエル軍が犯してきたものの、これまで追及されることがなかった戦争犯罪の責任を許してはならないことを活動の主要目標として訴えている。
財団は25年1月6日現在、エクアドル、ベルギー、UAE、ブラジル、アルゼンチン、スリランカ、フランス、オランダ、キプロス、タイ、イギリスでイスラエル軍兵士1000人に対する告訴状を提出した。
従来戦争犯罪を問われることがなかったイスラエル軍兵士たちは、戦場での残虐な行為を自ら映像や画像などで「証拠」として残してきた。イスラエル軍兵士たちが自ら提供した証拠は将来の裁判で重要な証拠になることは明らかだ。
イスラエルのガザ戦争が始まって以来、イスラエルは多くの困難な教訓を学んできたはずだ。世界はイスラエル軍兵士の「免責」を許容しなくなり、イスラエル軍はハマスによる奇襲攻撃を許し、その不敗神話はもろくも崩れた。ヒズボラや、イエメンのフーシ派、イラクの武装集団などのロケットやミサイルはイスラエルに飛来するようになった。比較的規模の小さなイスラエル経済は戦争によって停滞するようになり、極右勢力に依存する政権はイスラエル社会を分断している。
欧米諸国が長年にわたってイスラエルをかばい続けたことが、イスラエルの戦争犯罪を許してきた。国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフ首相やガラント前国防相に戦争犯罪で逮捕状を発行してもなお欧米諸国は恥知らずにも彼らをテロから国家を守る「英雄」と見なしている。
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米国のジャーナリスト・セシリア・ヴェガは、9日、CBSの「60ミニッツ」でイスラエルのガザ戦争を観てきた元米国政府関係者たちにインタビューを行っている。人権問題に取り組む米国の外交官だったハラ・ラリットはガザで起きていることは、米国の武器なしには起こり得ないことを強調し、「アラブ世界全体、また私の怒りのレベルは明白です。ガザ戦争への怒りは星条旗を燃やすアラブ世界の抗議で始まりました。私は対テロ戦争開始後、米国とアラブ世界の絆を強めようと努力してきただけに、私にとっては大きな衝撃でした。」と述べている。
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また、国務省の政治・軍事局長を11年間務めたジョシュ・ポールはたいていの爆弾、たいていの技術、すべての戦闘機は米国が提供したもので、ガザに落とされたすべての爆弾は米国が製造した戦闘機から落とされているので、ガザに投下される爆弾すべてに米国は責任を負っていると述べた。イスラエル・パレスチナ問題の国務次官補代理を務め、ガザ戦争中に辞任したアンドリュー・ミラーは、ガザ戦争を主導するネタニヤフ首相が米国の支援を当然のことと思っていると語った。
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11日、ワシントンDCのアトランティック評議会でスピーチを行ったブリンケン国務長官は「大量虐殺の長官よ、あなたの手には数十万人の罪のない人々の血が流れている」という罵声を浴びた。米国の戦争犯罪も厳しく問わなければ、米国は同じ過ちを続けるだろう
(ここで紹介した「60ミニッツ」のコーナーは下のYouTubeにある。
表紙の画像はヒンド・ラジャブさんの壁画、下のウェブページより