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イラン映画「そして人生はつづく」の世界

 「友達のうちはどこ?」「桜桃の味」などの作品があるアバッス・キアロスタミ監督(1940年~2016年)には、1991年制作の「そして人生はつづく」がある。キアロスタミ監督は、1990年にイラン北部で発生し、犠牲者数万人を出した大地震の際に「友だちのうちはどこ?」の出演者などスタッフの安否の確認に出かけて行く。「そして人生はつづく」は、その体験のドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜた作品である。

 この作品を観た映画評論家の淀川長治氏は次のように感想を述べている。
「パパの運転で子供があちこち探し回るというそのロード・ピクチュアが「そして人生はつづく」。崩れた石の塊の下の家の屋根を「友はどこ」「知人はどこ」と探すパパと子。途中疲れてコークを買う。店の人はいない。ゼニをそこに置いてゆく。イランの太陽が目にしみ、風がほほをなでる。映画とは本当、これなんだ。まだ汚れないこの撮影。そして人間がここに生きている。涙がこぼれた。」

映画より https://kiarostamiforever.com/


 また、あるブログには、この映画の感想について「村の人々が家族や家を失ったにも関わらず、今晩ワールドカップの試合があるからとアンテナをせっせと立てようとするシーンがあります。なかなか言葉だけでは伝えづらいのですが、人生とは何かを考えさせられる深いシーンです。どんなにつらいことがあっても、人生は続いていく。」と書かれている。

 「人間万事塞翁が馬 (にんげん ばんじ さいおうがうま)」は、中国の故事だが、イランなど西域に関連するものだ。その内容は、 
 「むかしむかし、中国の北辺の塞(とりで)のそばに住んでいた老人の馬が、 胡(こ:イラン系民族のソグド人と思われる)の地に逃げた。
 数か月後、その馬が胡の駿馬を連れて帰ってきた。
 老人の子が、その馬に乗り落馬して足を折った。しかし、そのおかげで兵役を免れて命が助かったという。 」というものだ。
 つまり、人生はよいことも悪いこともあり、人生に起こったことに一喜一憂していてはならないことを言っている。

映画より https://daiyanoa-2018-printemps.amebaownd.com/posts/7689644/


 東北の被災地の支援活動を続けるイラン人ジャーナリストのアフシン・ヴァリネジャド氏は、その取材で「悲しさでなく、(被災地の人々の)希望を伝えたい」と語る。「そして人生はつづく」とはいうまでもなく、イラン人だけでなく、私たち日本人など地球上の人間すべてに共通する真理だといえよう。

アフシンさん(中央)http://merilan.jugem.jp/?cid=13


 最後にキアロスタミ監督も作品の中で取り込んだ、「新たなる生」という現代イランの詩を紹介する。
わたしの全存在は 暗闇の詩
それは繰り返しあなたを
永遠に咲き誇る明け方に運んでいく
私はこの中であなたに息を吹く
わたしはこの中で
木に、水に、日に、あなたを接(つ)いでいく
(フォルーグ・ファッロフザード・鈴木珠里訳)

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