ICC(国際刑事裁判所)、ネタニヤフ首相、ガラント前国防相に逮捕状を発行 ―日本も二人の逮捕責任を負う
21日、ICC(国際刑事裁判所)はイスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に逮捕状を発行した。
ICCのカリーム・カーン主任検察官が逮捕状の請求を行ったのが、今年5月20日だったから実際の発行までに半年を要したことになる。イスラエルの同盟国である米国などの強い圧力がかかったことは想像に難くない。
ICCの逮捕状請求は、イスラエル政府首脳とハマス指導者たちに対して行われたが、訴状の内容は異なっている。イスラエル政府首脳たちは、民間人を飢えさせ、民間人に攻撃を加え、民間人を絶滅させようとした罪で起訴されている。他方、ハマス指導者たちのほうはレイプなど性的犯罪や拷問や人質など捕虜の扱いに関する責任が問われている。ガザではすでに4万4000人以上が亡くなっているように、犯罪規模はイスラエルのほうがはるかに大きい。逮捕状が請求されたハマスの3人の指導者のうち、イスマイル・ハニヤ最高指導者は今年7月31日にイラン・テヘランで殺害され、またその後継の指導者で、昨年10月7日の奇襲攻撃を計画立案したとされるヤヒヤ・シンワルは今年10月17日にイスラエルによって殺害された。もう一人のハマス軍事部門トップのムハンマド・デイフもイスラエル軍が今年7月に殺害したと発表したが、ICCは死亡が確認できないとしている。
ICCのローマ規程の批准国124カ国にはネタニヤフ首相とガラント前国防相がその領内に足を踏み入れた場合に逮捕する義務が生じる。ネタニヤフ首相の外交活動が大きく制約されるという点で、逮捕状の発行は重要な意味をもつ。逮捕状が発行されると、イタリア政府やオランダ政府などは即座に彼らを逮捕する意向であることを表明した。ICCに加盟する日本にも逮捕義務がある。また、ICCが政治指導者の戦争犯罪を認定したために、特にヨーロッパ諸国との二重国籍をもつイスラエル人に対して戦争犯罪への加担に関する国内訴訟が引き起こされる可能性もある。
イスラエル政府は例によってICCの逮捕状発行が「反ユダヤ主義」によるものだと決めつけ猛烈に反発しているが、法的な争いに敗れたイスラエルのネタニヤフ首相らが頼りにするのは米国のトランプ次期政権だろう。トランプ大統領にICCに対する最大限の圧力を期待し、逮捕状を骨抜きにしてもらうことを考えているに違いない。米国共和党はICCに制裁を加えることを主張してきた。
逮捕状の発行に関わったICCの関係者にも個々に制裁を科すことを考えるだろう。例えば、カリーム・カーン主席検察官や彼のスタッフが米国に渡航することを禁じたり、米国での銀行口座の開設を不可能にしたりする措置なども考えられる。さらに、トランプ大統領は、日本など同盟国で、かつICCに加盟する国に対して圧力をかけてネタニヤフ首相らを逮捕しないように求めるかもしれない。日本は国際法の尊重を強調してこのような要求は却下しなければならないだろう。
しかし、米国がICCの権威を骨抜きにしようとすれば、米国自体の国際的な指導力は低下するばかりだし、それを喜ぶのはウクライナ侵攻でICCから逮捕状を発行されているロシアのプーチン大統領など米国と敵対してきた人物だ。ICCは米国と敵対するベネズエラの人権状況についても調査を進めてきた。トランプが嫌う中国が経済関係を深めるスーダンの人権侵害もICCの調査対象となっている。
1月に成立するトランプ政権は親イスラエル・シフトを顕著に敷いている。国防長官に就任した元フォックス・ニュースのパーソナリティ、ピート・ヘグセス氏は最もハードコアなキリスト教国家主義を表すタトゥーを体に入れているが、それは信仰ではなく中世の十字軍への賛美を表すものだ。彼は、パレスチナ連帯デモ参加者に対して米軍を派遣して鎮圧することを支持し、エルサレムのイスラムの聖地であるアル・アクサー・モスクが建っている場所にユダヤの第三神殿を建設することを提唱、またイスラム教徒に対する十字軍を呼びかけている。
荒唐無稽なトランプの外交政策につき合うことは日本の対外的イメージを損なう。まず日本はネタニヤフらを逮捕する意向であることを表明すべきだろう。
表紙の画像は下より