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世界はトランプ政権によるUSAID解体に反対する ―米国の財政支出の本当の無駄とは?
米国のトランプ政権はUSAID(米国際開発局)の解体を目指しているが、ワシントンの連邦地裁は13日、トランプ政権がUSAIDの対外援助事業への資金拠出を一時凍結した措置をいったん差し止めるよう命じた。2月7日、トランプ政権が5000人を超えるUSAIDの職員を290人にまで大幅に削減する方針だと米国のメディアは報じている。
トランプ大統領はUSAIDが民主党に有利な記事を書かせるために、POLITICOに800万ドル、ニューヨークタイムズにも「???ドル」を与えたとSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿したが、これらのメディアは即座に否定した。トランプ大統領は「USAIDは極左派を扇動している」と述べ、大文字で「閉鎖しろ!」と書き込んだ。また、イーロン・マスク氏は「USAIDは犯罪組織だ。消滅すべき時だ。」とXに投稿した。
USAIDは中東でもエジプト、イエメン、イラクなどで、教育や医療支援、インフラ強化などの活動を行ってきた。パレスチナのヨルダン川西岸とガザ地区でも24年に10億ドルを提供し、女子教育の質の向上を図ったと報告している。
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USAIDは1961年に ケネディ大統領の大統領令により創設されたが、1998 年に議会はUSAIDを他の政府機関と同様に「独立機関」とする法律を可決した。米国史上、法律で正式に定められた機関を一方的に閉鎖した大統領はいない。トランプ大統領は、彼の最も裕福な献金者であるイーロン・マスクに監視や説明責任もなく、USAID解体の任務を与えた。とても民主主義国家の手法とは思えない。かりにUSAIDが解体され、その活動が終われれば、多くの途上国の教育・医療システムが崩壊して社会・経済矛盾が噴出し、紛争や暴力がこれらの国を席巻する可能性がある。
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USAIDは、対テロ戦争の舞台ともなったアフガニスタンやイラクの復興にも関わったが、その活動に問題がなかったとは言い切れない。USAIDのウェブ・ページを見ると、USAIDは対テロ戦争でフル稼働状態となり、アフガニスタンとイラクの政府、インフラ、市民社会(civil society)、また保健衛生や教育の再建を行ったことを誇っている。
しかし、アフガニスタンでは、USAID復興の責任を課されたものの反米感情が強い地域では十分な成果を収めることができなかった。また、USAIDの提供する資金は監査が緩いためにアフガン政府の腐敗の温床ともなった。中村哲医師は「対立感情は、むしろ(欧米の)援助する側が持っているような気がしますね。優越感を持っているわけですよ。ああいうおくれた宗教、おくれた習慣を是正してやろうという、僕から言わせれば思い上がり、もっときつくいえば、“帝国主義的”ですけどね。」と述べているが、USAIDの姿勢はまさにそのようなものだった。
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イラク戦争後のイラク復興についても2003年4月17日にUSAIDは、6億8000万ドルの契約を米国の総合建設業者であるベクテル社に与えた。ベクテル社は、共和党やブッシュ政権と親しい関係にあって、イラク復興でも多くの利益を得た。ベクテル社が請け負ったのは、イラクの電力、水などの復旧、空港の再建、またウンム・カスル港の復興などであった。この6億8000万ドルの契約は、フセイン政権崩壊後では最も高額なものだった。
確かにUSAIDには問題があるが、大統領が気まぐれで政府機関を廃止したり、予算を削減したりできるとなれば、最終的には議会は予算に関するすべての権限を剥奪されることになる。トランプ大統領の措置でベンダーや請負業者を含む約52、000の米国人の雇用がわずか2週間ですでに失われたとも推定され、「何千人もの米国人が職を失うことが、どうして米国人第一主義になるのか理解できない」という声も出ている。トランプ大統領の措置でスーダンの栄養失調の子供たちに食事を与える活動、イエメンの難民にきれいな水を届ける活動がすでに影響を受け、活動の停止を余儀なくされている。(「プロパブリカ」2月9日」
政府の財政の無駄をなくすという意図は分かるが、USAIDの無駄は厳格に監査を行えば克服できる。米国にとって最大の無駄は膨大な国防予算の支出だろう。1期目トランプ政権時代の2019年、軍事費の支出は7160億ドルで、前年比で10%増、それに対して非軍事の対外支援を行うUSAIDの予算は393億ドルという少なさだった。
ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツは、「私たちは地球という母なる大地に住んでいる。ほかに行くことができる惑星はない。経済的不平等や分断こそが世界の不安定化の背景にある。国同士が協調し、対話する姿勢をとり戻すことが肝要だ」と説いた。(NHK「ニュースウォッチ9」)世界一の経済大国の米国がそのための重大な責任を負っていることは言うまでもない。スティグリッツには「世界を不幸にする米国の戦争経済」(2008年)という著書があるが、米国は世界を不幸にする軍事費を削減し、自国や世界の人々の福利のための予算を増額すべきだろう。それは日本についても言い得ることだ。
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表紙の画像は
どちらが大統領かわからないほどだ