パレスチナ国家承認を行った共存の伝統をもつ国―スペイン
22日、スペイン、アイルランド、ノルウェーのヨーロッパ3カ国はパレスチナ国家承認を行うことを明らかにした。
スペインのサンチェス首相は、「パレスチナは我々スペイン人と共にあり、パレスチナ人の土地とアイデンティティもまたスペイン人の心の中にあり、これらは国際法によって正当性が認められ、調和のとれた地中海社会に貢献するものだ」と述べた。サンチェス首相は過去にパレスチナ国家は、東エルサレムを首都としてガザ、ヨルダン川西岸によって構成されると明言したことがある。
また、サンチェス首相はスペインの外交政策は首尾一貫したものでなければならないと述べ、スペインが国連総会でパレスチナの加盟を認めていることを指摘しながら、パレスチナの国連加盟を認めるならば、パレスチナ国家も承認しなければならないと述べた。
ちなみに日本はパレスチナの国連加盟には賛成しているが、パレスチナ国家を承認していない。サンチェス首相が言うように、国連へのパレスチナ加盟に賛成しながら、パレスチナ国家を認めないでは筋が通らない。また、日本もパレスチナの二国家共存を主張するならば、パレスチナ国家を承認しなければ論理的な整合性がない。
作家の堀田善衛はイスラム時代のスペインの共存について次のように語った。
「イスラム王朝は、ユダヤ教徒に対しても差別しなかった。むしろ彼らを重用したのであった。だから、イスラムのスペインにあって、キリスト教徒から自発的にイスラムに改宗した人もいれば、両者の通婚も自由であった。こうして時代がうつって行くと、イスラム教徒もキリスト教徒も次第に、スペイン人としてのアイデンティティをもつようになり、両者ともに近代スペイン語の先祖であるロマンス語とアラビア語の二カ国語を話すようになり、これが複合し熟成して行って、語彙の10パーセントがアラビア語源、あるいはそれとの複合語である現行スペイン語が出来ていったのである。イスラム教徒は如何なる意味でも“外敵”ではなかった。(中略)イスラム・アラブ、キリスト教徒、ユダヤ教徒の三者の、この平和な協力共存は、今日から考えてみても、何か夢のようなものとして見えて来るのである。」‘堀田善衛著『ゴヤⅠ スペイン・光と影』
イスラム・スペイン時代における共存(Convivencia)を理想としてパレスチナに和平や正義をもたらそうという運動は2022年5月にロンドンで開始され、イギリスの大学教授や宗教者などが参加している。
パレスチナの「Convivencia」は、パレスチナ人の人権を尊重し、パレスチナがイスラエルの植民地になっている状態から脱却することを目指し、アパルトヘイト、さらに占領の終焉を訴え、公正で民主的な市民社会をパレスチナ全域で築くことを提唱している。また、イスラム、ユダヤ教、キリスト教の宗教の根幹にある正義、平等、普遍的な人権を実現することによって平和や民主主義、法による支配を目指すが、こうした理念が世界で共感されることを考えている。
サンチェス首相は、ネタニヤフ首相があまりにも多くの恨みを生み、彼の手法によって二国家解決が実行不可能になる危険にさらされていると警告した。イスラエルの攻撃はイスラエルと地域全体の安全保障の見通しを悪化させ、憎悪を増大させるだけだとサンチェス首相は述べている。また、サンチェス首相は、米国をさりげなく非難し、ルールに基づく国際秩序を信じる国々は、ウクライナとパレスチナで、二重基準なしに行動し、パレスチナに人道支援を提供し、またあらゆる政治的手段を使って、イスラエルが二国家解決を強硬に壊すことがないように全力を尽くす義務があると述べた。
イスラエル国家と共存するパレスチナ国家の承認することが交渉によるパレスチナ問題の解決に貢献するものであることは言うまでもない。イスラエルは国家をもたないパレスチナ人を交渉で対等に扱うことがなく、二国家共存を進めようとした1993年のオスロ行為も容易に反故にしてしまった。サンチェス首相はパレスチナ問題の本質を良く見抜いて理解しているという印象だが、わが日本の首相はどうだろう?
表紙の画像はスペインのサンチェス首相