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2022年6月の記事一覧
【小説】35才、雨に片想い。
雨が好きだ。すべてを洗い流してくれるから。
35才。バツイチコブツキ。と言っても、子どもは元パートナーが引き取ったため、ただの独り身。
何度かの転職ののち、今の職場に納まった。これまでのスキルを評価され、ある程度の自由を許される環境には感謝しかない。と言っても、感謝の矛先は大学の同級生で、社長である寺前なのだが。
離婚で心身ともにやられていた私を見兼ねて拾ってくれたのだ。
寺前は
【小説】よるがいちばんみじかい日のよる
ある夜のこと。お姉さんのソールと妹のマーニはおでかけの準備をしていました。
マーニ「おねいちゃん、まだ?」
ソール「ねえ、マーニ、どっちがいいと思う?」
マーニ「どっちでもいいから。はやくしないと置いてくよ?」
ソール「ちょっと待って。あなたってせっかちね」
マーニ「おねいちゃんは計画性なさすぎ」
ソール「だって、今日はお日さまがいちばんながく顔をだしているのよ。遊ばなきゃもったいないじゃない
【小説】待ち人来たらず
夕暮れどき。渋滞で進まない車たちを見下ろしながら、紙カップに入った珈琲をすする。
いつもの待ち合わせ場所。四車線の道路に架かった歩道橋の真ん中。通り過ぎる人波に背を向け、日が沈むのをぼうっと見つめている。
オフィス街のビルに囲まれたこの歩道橋は、それでもその隙間から光が差しこみ、垣間見える空と、それに溶け込むように佇むビルはオレンジ色に染まっている。
視線の先には、この街の中心である