『A DAY IN THE AICHI 劇場版 さよならあいち』阿武野勝彦さん・圡方宏史さん(東海テレビ)×カンパニー松尾監督トークレポ
2020.02.21『A DAY IN THE AICHI 劇場版 さよならあいち』
阿武野勝彦さん・圡方宏史さん(東海テレビ)×カンパニー松尾監督トークショー@シネマスコーレ
MC:杉原永純さん(あいちトリエンナーレ映像プログラムキュレーター)
東京・ポレポレ東中野はじめ全国絶賛上映中、2月末より名古屋シネマテークでも再上映が始まった東海テレビドキュメンタリー劇場版『さよならテレビ』。
『A DAY~』名古屋最終日、カンパニー松尾監督が阿武野プロデューサー&圡方ディレクターを迎えて行った上映後のトークレポートです。
遅い時間からの開始で「一杯だけチューハイ飲んじゃった!」と、赤い顔の松尾監督とほろ酔い阿武野さん、お酒が入らずとも不思議テンションの圡方さんによる、深夜ならではの絶好調トーク。
「今日は松尾さんを誉め殺しますよ!」という、ヤル気満々(?)の阿武野さんの一言からスタートです。
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杉原:芸術祭「あいちトリエンナーレ」のキュレーター、杉原と申します。今回この作品を作る時、東海テレビの阿武野プロデューサーと圡方ディレクターは松尾監督から真っ先に名前が出てきたお二人です。『さよならテレビ』を我々も見ていて、オファーして出演していただきました。
圡方:私は朝4時半に起きて始発で会社に来るので、今は朦朧としています。皆さんはどうやって帰るんですか? 帰れるんですか?
松尾:終電がある方からお帰りくださいね!
圡方:どんどん少なくなっていくんですね! よろしくお願いします!
松尾:やっぱりちょっと圡方さんはおかしいなあ(笑)。
圡方:ここからどんどん行きます!
阿武野:阿武野です。私はカンパニー松尾さんの作品は、結構見てるんです。
松尾:本業の方ですかね?
阿武野:本業の方です。昔から見ています。好きなんですね、あの世界が。うちのカメラマンと「一度AVを撮りたいね」と本気で言っていたことがあるくらいです。カンパニーさんの作品は女の人が愛おしく思える。人間がちゃんと描けていて「取材するというのはこういうことだ」と本当に思う。今回の作品も急に真面目ぶっているのではなく、しっかりその系譜にある。カンパニーさんがそのまま出ていると思います。今まで見た作品を振り返って考えてみると、私は女子の方ばかり見ていましたが、結局はカンパニー松尾を見せられていたんだなと思います。
今回の『さよならあいち』を観て思ったのは、「優しい男だな」ということ、それに、松尾さんのお母さんが良いじゃないですか。僕が母親なら「帰ってくるな」と言うかもしれません。どうやって受け入れていったかという家族の物語がちゃんと描かれている。ちょっとズルイところは、小さき命を挟みながら行くところですね。でもやっぱりどこか本当のカンパニー松尾が出てくるわけです。
カンパニー松尾を中心にこれまでの作品を見直したら面白くないだろうと思いますが(笑)、取材する側がドキュメンタリーの中に映り込んでしまうことは、まったく我々と同じだと思えます。心地良くカンパニー松尾という男を見せられ、我々はそのダシに使われたという感じです(笑)。
松尾:確かに今まで30数年、普段のAVで家族や猫の話はほぼやってないんです。でも今回は「情の時代」というテーマがありました。思い浮かんだのが「なさけ」の情。今までやってこなかった自分の内側に、あえてカメラを向けてみた感じです。
圡方:「優しいな」と、すごく思いました。自分の編集のされ方を見ても、そう思います。
松尾:僕が優しいなんて『さよならテレビ』のスタッフが騙されたらダメですよ。普段あんまり優しくないから、せめて作るものは優しくしてるだけです(笑)。
阿武野:優しい人は、自分は優しくないと言いますよね。
圡方:典型的です! 僕はすごくそう思いました。
杉原:『さよならテレビ』では、いろんな方にカメラを向けることで、社内で反発があったと思うんです。松尾さんからカメラを向けられ、スクリーンに映し出されていろんな人に見られることについて、どう思いますか?
圡方:もっと悪い使い方ができたはずだと思いましたね。イヤなところだけ使うこともできた。自分ならそうするし、マスコミの人間を登場させて名古屋のイヤなところをかぶせるだろうと思います。だから自分や阿武野のシーンを見て「これは、お客さんは面白いのかな?」と思いました。
松尾:東海テレビは武闘派ですよ。確かに僕も昔ならこんなに正攻法で行ってないかも。年を食ってだいぶ丸くなったかもしれません。炙り出すような演出はほとんどしないですね。もともとできないかもしれない。周りに北風をビュンビュン吹かせる人はいっぱいいましたが、そういうのは僕が唯一、持ってないかもしれませんね。
先日、東海テレビさんの『平成ジレンマ』を見たんですが、テレビのドキュメンタリーが強いと思うのは、ディレクターとは違う単独のカメラマンがいること。もちろんディレクターの意図を汲んで撮ってるんでしょうが、職業カメラマンは何が起きてもずーっと撮ってる。『さよならテレビ』でも、カメラを止めろといわれても回してる。僕は監督兼撮影なので、止めろと言われたら撮り方がちょっと弱くなる。プロカメラマンがずっと撮ってる強さは、テレビドキュメンタリーの強さだと感じましたね。
僕はしょせんAV監督なので、テレビとは撮り方も全然違う。『さよならテレビ』はテレビの中の問題をテレビ側から撮る話で、僕の方は個人の話。全然違いますが、でも自分の中ではお二人に会えた昨年と今年は嬉しい年でしたよ。
阿武野:カンパニー松尾作品を見ながら、取材や撮影という行為そのものがすごく面白いとずっと思ってきましたが、松尾さんに一番聞きたかったことを居酒屋で率直に聞いたんです。それは「性病に罹ったことがあるか?」という質問です。なぜなら、取材する側とされる側が混じり合うという時、松尾さんの場合は体まで混じり合うわけです。
松尾:そうですね。
阿武野:取材をするということは、すごく危険なことです。取材対象との関係が崩れたり、いろんなことがある中で、松尾さんの仕事は生身ですから相当大変だと思う。我々はそこまではできないんですが、質問に対して「僕は結構強いんですよ」という松尾さんの答えが印象的でした。それは取材者としての強さでもあり、何度も病気に罹っていたらおそらくこんな年まで続けられない。そして、ついにあいちトリエンナーレ、愛知県のお金を使ったんですよ(笑)。「とうとう敢然と表に出始めたぞ」と思う瞬間でした。ある意味すごく嬉しい。この後、松尾さんが55歳から何を始めるのか、すごく楽しみです。
圡方:僕は「メディアの人間が持っていなきゃいけない部分をAV監督が持ってるな」と感じました。うん、何だろう…。
阿武野:取材の作法ですよ。関係性が崩れない。本業作品での、女性との関係性も含めて。
松尾:僕らのセオリーです。対象者の女性と崩れることはあり得ないんです。徹底して教わってます。現場ではいろいろあるものですが、それでも女の子に寄り添って、例えケンカしたとしても最後まで寄り添って、絶対にこちらからはキレない。
圡方:職業柄もあるかもしれないけど、松尾さんの性格もある気がしました。
阿武野:松尾さんは人を怒らせないタイプだと思う。人をイヤな気持ちにさせない。
松尾:それはもう染みついちゃってるかもしれないですね。本当は強くなりたいですよ。
圡方:絶対に自分が主役にならない。この場もそうです。普通はエゴが出ちゃうし、僕がその立場なら、もう少し主役感を出しちゃうと思うけど、絶対そうしないのがすごく面白いなと思いますね。
松尾:あえてトリエンナーレという場にこれを持ってきた意図もあるんです。「こんなくらいでいいんじゃないか」という僕なりのさじ加減。シンプルに人と話すというのが一番重要じゃないかと思ったんです。トリエンナーレや情の時代で、愛知をどう撮るかという時に、単純に俺の知り合いや周囲の人でいいんじゃないかと。興味ある人や、東海テレビの何人かに会えればいいかなって。
圡方:確かに、決めつけた取材は一切なかったですね。普通やっぱりなんとなく骨組みを考えちゃう。対話の中で全部作っている感じがありました。伏原も「必ず回してる」と言ってました。気づいたらカメラを回してる。それはハメ撮りをずっとやって来られたから。
松尾:家族も、半分は盗撮なんです。1月からちょこちょこ盗撮してました。
阿武野:故郷と自分を、カンパニー松尾がずっと見つめていく。ある種のロードムービーのように見ていくことができました。すごく良い3時間20分だなと思った次第です。
松尾:シネマスコーレに東海テレビの面々が座ってもらうなんて、自分の中では、これもひとつのトリエンナーレが結んだ縁かなと思います。
阿武野:ほら、やっぱり真面目な人だよね。
圡方:本当に。報道でジャーナリズムとか言ってる人間よりよっぽど真面目ですよ! それがすごく面白いと思います。
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『A DAY IN THE AICHI 劇場版さよならあいち』
監督:カンパニー松尾
出演:松本亀吉(会社員/ライター)、大橋裕之(漫画家)、早川瑞希(AV女優)ほか
<上映予定>
2020年3/14(土)・15(日)大阪十三シアターセブン
両日カンパニー松尾監督舞台挨拶あり
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