『パスト ライブス/再会』
大人になって、何度の再会を私は経験したのだろう。
ましてや前世からの縁だと言えるような運命的な再会なんて経験したことがあるのだろうか。
まぁフィクションですから、と言ったらそれまでなのだが、『パスト ライブス/再会』原題『Past Lives』の再会はまさに運命的なものと言える。
そんな本作の公式のアウトラインはこちら。
イニョン
韓国語には「縁-イニョン-」という言葉があるらしい。「見知らぬもの同士が道ですれ違い 袖が偶然軽く触れたら、それは2人の間にはきっと前世で何かがあったから――」
今私はサイゼリアでデカンタの白ワインを飲みながらこのテキストを書いているのだが、隣の席に座っている男の子とも前世で何かしらがあったのかしら、と思うだけでもなんだかロマンチックである。
本作の主人のノラが初恋の相手であるヘソンに再会するのは12年後の24歳の時。ある意味において、テクノロジーがイニョンを作ったと言ってもいい。Facebookをきっかけにノラとヘソンの交流が始まる。
スカイプでの彼らのやり取りが私の古傷を抉る。遠距離恋愛経験者なら私と同じような気持ちになる人も多かろう。あの時差の感じとか、なんで会いに来てくれないのとか、お互い若いから自己中で、もう…あーグラス投げそう…!
彼らは厳密にはカップルではなかったので、果たして遠距離恋愛がうまくワークしなかったと私と同じように片付けていいものかわからないけど、12年ぶりの再会はオンラインで完結してしまう。恋愛というだけでも難解なのに、そこに距離が乗っかってしまった結末として、ノラとヘソンのケースはとてもリアルだ。
しかし、これはフィクション。
リアルの先にちょっとしたファンタジーがある。
再会
さらに12年の時を経て、ノラとヘソンはリアルワールドでの再会を果たす。
昔のディズニー映画なら、お互い独身で、再会を果たして二人は24年の時を経て初恋相手と結ばれるのでした、めでたしめでたし。なのだが、いかんせん本作はA24の作品だ。
お互い36歳になった時、ノラとはニューヨークですでにパートナーを得ていた。ノラの初恋の相手がニューヨークに来ると言った時、パートナーのアーサー気持ちは想像するに余る。
仮に私がアーサーなら、ヘソンには絶対に会わせたくない。もしかしたら自分の妻が自分をおいて韓国に行ってしまうかもしれないという恐怖に私は耐えられるだろうか。
なぜかジェンダーが同じノラではなく、アーサーに自分を投影してしまう。選べれる身に自己投影してしまうのはもしかしたら自分に自信がないからなのかもしれない。
今世ではさようなら
12年ぶりに再会した初恋相手とニューヨークでの生活。
1週間後にノラが下した決断は12年前の別れと同様にとてもリアルなものであった。
もし、来世があるのなら、今度こそ彼らは結ばれるのだろうか。それを信じるためには輪廻転生を信じないといけない訳なのだが、残念ながら私は仏教を深く信仰しているわけではない。
しかし仮に来世があるのなら、ぜひノラとヘソンには結ばれてほしい。それくらいのファンタジーを私は欲している。
生きているうちにたくさんの出会いがあり、別れがあるわけだが、特に私はすぐに別れを選んでしまう。
心が辛くなる前に、自分を守る手段としての逃げるコマンドをいち早く選びがちであることを私は自覚している。
今世のうちに今までの逃げるコマンドを取り消すことができるのかは正直わからない。
しかし、もしかしたら時を経て、ある意味の諦めやおおらかさを手にした時再びイニョンを結ぶ勇気を手にできるかもしれない。
大好きだった人たちへ、
ぜひあなたにもみてもらいたい1本だよ。イニョンがあればまた会えるね。
今世ではもしかしたらさよならかもしれない。でもまたいつか、イニョンがあれば会いましょう。そんなふうに思った方が幸せに生きれる気がするのだ。