【2023年 ふるさと自慢 】
このコンテンツ「ふるさと自慢」は宮崎県の「県北」「児湯」「県央」「きりしま」「県南」五つの地域からテーマごとに推薦人が、各地で愛されている食、地域の誇る食材を紹介します。
テーマ「冬の味覚」
かっぽ鶏<神楽の館・高千穂町>
竹筒で煮て風味凝縮
推薦人🙋 高千穂町押方 飯干隆佑さん(34) 町観光協会職員です。かっぽ鶏作り体験は家族連れらに人気で、夏休みの自由研究にする子もいます。竹の香りとうまみが凝縮した残り汁にご飯を入れて食べるのが好きです。
切り出した竹筒に鶏肉と野菜を詰め込み、そのまま火にかける高千穂町の郷土料理「かっぽ鶏」。農村に伝わる昔ながらのアウトドア料理で、青竹の爽やかな香りが食欲をそそる。どうせなら、自分で竹を割るところから体験してみたいと、同町岩戸の古民家民宿「神楽の館」を訪ねた。 教えてくれたのは、経営者の今村清美さん(53)。用意してもらった若い真竹の節と節の間を、使い慣れないのこぎりとなたで慎重にくりぬく。古い竹や、あくが多くしみ出る種類の竹は器には向いていないという。ちなみに、この地域で「かっぽ」とは、竹のことを指す。 塩こしょうを振った親鶏と原木シイタケ、ニラに特製だれを絡め、完成した器に詰め込む。たれの材料はしょうゆ、みりん、酒、にんにく。具材や味付けは地域や家庭によって異なるといい、ゴボウやニンジン、キャベツなど、何を入れてもいいという。
ふたをした竹筒を炭火にかけると、切り口から竹のエキスがジュワジュワと音を立てしみ出す。竹の表面が燃えてしまわぬよう、遠火でじっくりと煮込み、途中で具材をかき混ぜながら火の通りを確認。約40分で完成した。
素朴ながらも、ぜいたくな一品だ。竹の風味が移った甘じょっぱい鶏肉は、棚田米との相性が抜群だった。次回は、「かっぽ酒」と一緒に堪能してみたい。竹を切り出す手間が必要なため、近年では町内でもあまり食べられなくなってきたというかっぽ鶏。今村さんは「見た目や雰囲気もいい珍しい田舎料理なので、観光客に人気。美しい山々や棚田が広がるこのロケーションで、ぜひ器作りから体験し味わってほしい」と話している。
シシチャーシュー<西米良村>
寒さでグッーとうまく
推薦人🙋 西米良村竹原 黒木定蔵さん(74) 三枝子さんが作るシシのチャーシューはこれまでのイノシシ料理と全く異なるうまさで、感心させられました。ぜひ皆さんに「西米良ジビエ」をもっと楽しんでもらいたいです。
南国宮崎でも寒波が到来すれば雪に凍える冬の中山間地域。その山々を駆け回り、寒さが増せば増すほどグッとうまくなるのが「寒ジシ」と呼ばれるイノシシだ。シシ肉の料理といえば鍋が思い浮かぶが、これまで聞いたことのない「シシチャーシュー」という料理が西米良村にあると聞き、シシ猟歴35年の黒木正近さん(75)=同村村所=を訪ねた。
イノシシは雑食で、生息する地域によって食べ物が違うと黒木さん。その点、西米良のシシは「10月、11月に豊かな山で育ったヤマイモなどをたっぷり食べ、それから寒くなって脂がのりおいしくなる」といい、著名な料理家からも高く評価されてきたという。この日は黒木さんが取ったばかりという体重30キロで食べ頃の雄の肉を用意してもらった。
調理してくれたのは、黒木さんの妻三枝子さん(72)。豚ではなくシシの「チャーシュー」は、硬い皮近くの肉も食べやすくしようと10年近く前に作り始めたという。肉はしっかりと蒸し、しょうゆや酒、ザラメなどの特製たれで煮て冷まし、味を染み込ませる。野生のものなので煮る時間などは個体によって異なり、加減の具合がなかなか難しそうだ。
スライスしたものを口に含む。獣の臭みは全くない。赤身はやわらかだがうまみが凝縮し、かむと口にあふれる。脂身はしつこくなく上品な甘さでうっとり。うどん、ラーメンやチャーハン、雑炊などに入れるとコクが出て味わい深くなるという。
別に食べさせてもらった、肉付き骨と大根を一緒に炊く「シシ大根」も滋味たっぷりで「今のように肉や魚が手に入らなかった昔から、シシを食べると元気になると言われてきた」と正近さん。山の恵みを得て冬を乗り切る力がみなぎってくるのを実感し、納得した。
ピリ辛冬鍋焼きうどん<味の竹の屋・宮崎市>
亡き夫残した味守る
推薦人🙋 宮崎市天満3丁目 宮田 鞠子さん(88) 10年以上、ダンス教室の仲間と通っています。いりこだしの熱々スープと麺で体が温まっておいしいです。気さくな店主とたくさんのメニューで何度も行きたくなります。
宮崎市清水2丁目で近隣住民やサラリーマンから長年愛されている食堂「味の竹の屋」は、原竹恵美子さん(76)と長男の武臣さん(43)、パート従業員3人で店を切り盛りする。ざるそばや丼もの、つけ麺など200種以上のメニューがある中、冬季限定で食べられるのが「ピリ辛冬鍋焼きうどん」だ。
約5年前から提供している人気メニューの一つで、エビ天、キムチに卵やワカメなどが入ってボリューム満点。いりこと昆布を一晩漬け、しょうゆを加えただしは、1984(昭和59)年の創業当初から変わらない。キムチのピリっとした辛さと、深みのあるさっぱりとしたスープが五臓六腑に染み渡り、腹の虫が次の一口をせかす。
店は恵美子さんと故昭彦さん夫婦が、武臣さんの小学校入学を前に生活リズムを合わせたいと、それまで営んでいたスタンドバーを閉めて始めた。当時給食がなかった店の近くにある宮崎西中の教諭らなど常連客の要望に応える形でメニューはだんだんと増えた。30年以上通う常連や、退職後久しぶりに訪れる顔なじみらリピーターも多い。
同店の味はうどん好きだった昭彦さんが市内で食堂をしている友人に作り方を習い、試行錯誤を繰り返して完成。スープの仕込みは昭彦さんが担当していたが、約20年前にガンで余命宣告され、恵美子さんがスープの作り方を引き継いだ。店内には昭彦さん手書きのメニュー表がずらりとならぶ。
恵美子さんは「思い入れがあるからメニューも値段も変えられない」と明かし、「子どものために始めたお店なので、孫の成長を楽しみにしながら地域に根付き、夫の残した味を守っていきたい」と話す。
かんなます<えびの市>
地域に伝わる「白あえ」
推薦人🙋 えびの市西郷 松葉一弘さん(64) 小さい頃、コメの収穫期などに地域住民が家に集まって食べていたのを覚えています。作れる人が少なくなって食べる機会は減っていますが、えびのの冬を代表する料理です。
えびの市に、「かんなます」と呼ばれる郷土料理があると耳にした。限られた地域に伝わり、冬に食べられているという。どんな料理なのか。果たして味は-。
市内をあちこち聞いて回ってみると、料理名すらほとんど知られておらず、調理法が分かる人をなかなか見つけられない。途絶えてしまったのかと諦めかけた時、「年に1、2回作っている」という方にたどり着いた。西郷地区の農家、種子田絹代さん(76)だ。
種子田さんの話では、かんなますは、大根やサツマイモ、豆腐、鶏肉を使った「白あえのようなもの」。同地区では戦前から、毎年12月の氏神さまの祭りなどで各家庭が持ち回りで作っていた特別な料理らしい。祭りはなくなってしまったが、種子田家では今でも寄り合いなどで食べている。
調理はいたってシンプル。すり鉢に豆腐、砂糖、みそ、いりごま、酢を入れて混ぜ、そこに生のサツマイモと大根の千切り、刺し身用の鶏肉などを加えるだけ。材料をそろえれば、どの家庭でも作れそうだ。肝心の味は、あっさりとしていて食べやすく、酒のさかなにも白ご飯にも合いそうである。
県外出身の種子田さんは40年ほど前、義母から作り方を教わった。「当時珍しいと思ったのを覚えている。由来はよく分からない」。一説によると、昔は市内で鶏を飼っている家が多く、その肉と、冬に取れたサツマイモを使って集落の行事などで作っていたとか。
「地域や家の結び付きの強さの中から生まれた料理かもしれない」と種子田さん。ただ、近年は住民の集まりが減り、核家族化も進んでいることから、調理や伝承の機会は少なくなっているという。
種子田さんは「地域に残していきたい料理の一つ。できれば興味がある若い人に作り方を教えてあげたい」と話している。
鬼辛牛もつ鍋大魔王<鍋家 さくら・日南市>
トウガラシ体内攻撃
推薦人🙋 日南市油津 山口由香梨さん(31) さくらさんの鍋は、辛いだけではなく深いうまみがあります。モツもおいしいし、シメのパスタは意外に洋風で絶品です。
ギネス世界記録に登録されたトウガラシが三つも入り、食べる前には同意書を書かされるほどの激烈な辛さ…。日南市油津の「鍋家 さくら」。一見普通の居酒屋に見えるが、激辛マニアが全国から集まるとんでもない店だった。
店主は宇都宮農さん(46)。母ますみさん(71)と店を切り盛りし、6年前に同市吾田で居酒屋を始めた。3年前に現在地に移ってからはもつ鍋主体に。激辛鍋は吾田時代からやってはいたが、移転してからエスカレートしていく。
ある激辛好きな女性客から辛さを増すようにけしかけられた。メニューにはトウガラシが入った「真っ辛牛もつ鍋」、ハバネロの「極辛牛もつ鍋」、ブートジョロキアの「魔辛牛もつ鍋」がある。しかし、メニューにない最高峰の「鬼辛牛もつ鍋大魔王」を、チャレンジグルメとして2年前に開発したのだった。
この鍋にはハバネロ、黄金トウガラシ、ブートジョロキア、トリニダードスコーピオンブッチテイラー、キャロライナリーパーが入っている。見た目はもちろん真っ赤。鍋の内容は小腸、丸腸にキャベツ、もやし、ニラ、豆腐、ニンニクと充実。だしは県内産地鶏で取るから味わいは深い。
確かにもつはうまい。だが、うまみを堪能する間もなく、口内がトウガラシたちに攻撃され、食道、内蔵でさらに攻撃度は増す。結局完食はできなかった。体が暖まるというよりは熱い。この2年間、12人が挑戦し完食したのは4人。うち2人は激辛専門のユーチューバーだ。
農さんは「福岡や北海道など全国からマニアが集まってくる。ぜひ挑戦してほしい」とほくそ笑む。
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