東京都でカスタマー・ハラスメント防止条例が成立
はじめに
10月4日の東京都都議会にて東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(以下、カスハラ条例)が成立しました。今回は、カスハラ条例のポイントについて解説したいと思います。
成立した東京都カスタマー・ハラスメント防止条例https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/11/documents/18_01.pdf
条例の対象者
今回成立したカスハラ条例では、東京都の事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む)又は事業を行う場合における個人(いわゆる個人事業主)が対象となっています。企業、個人事業主に加えて、NPO、東京都、東京都の市区町村の自治体等が対象になっていると言えます。加えて、都内で業務に従事する者(以下、就業者)、顧客等も対象となっており、非常に適用対象が広い条例となっています。
カスタマー・ハラスメントの定義
カスタマー・ハラスメントは下記のように定義されています。
なお、「著しい迷惑行為」については下記のように定義されています。
厚生労働省が「カスタマ―ハラスメント対策企業マニュアル」で示していたカスタマー・ハラスメントの定義よりもなり狭い範囲で定義されていることが特徴です。
条例で定められる義務
基本理念を定める第三条を除いて、条例の中で文末が「~ならない」と義務を課す形式になっている条文は以下の2つです。
東京都ではカスタマー・ハラスメントを行ってはならないこと、ただし顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意することが義務であることが分かります。
東京都の責務
条例中で大きな部分を占めているのは東京都のカスタマー・ハラスメント防止のための施策方針です。
東京都の行政手段としては指針の作成及び普及啓発活動が中心的なものになっていることが分かります。
事業者の責務
気になる事業者に求められる責務ですが、事業者の責務を第九条ではすべて文末が「努めなければならない」となっており、努力義務となっています。そのため、カスタマー・ハラスメント防止に向けて各社の事情に応じて取り組むことになろうかと思いますが、昨今の人手不足や採用難を考えると、取り組みが進んでいる企業、自治体の方が採用に有利になるといった、少なくとも人材採用や定着面でのメリットは大きいと思われます。逆に、経営者や人事部門が「努力義務だからうちは何も対策しない」と言っている小売業や対人サービス業では採用が難しくなり、人材の離職が多くなる可能性はゼロではありません。
第1項への対応としては、都の定めるカスタマー・ハラスメント防止のための指針の公表後に、これを参考に業務フローの見直しや業務マニュアルの整備、態勢整備等の取り組みを進めることが考えられます。
第2項に関しても、具体的な内容は都の定める指針に記載されることが予想されますが、カスタマー・ハラスメントが発生した際の対応フローを業務マニュアル等に定めること、管理職や従業員がカスタマー・ハラスメントの発生時に適切に対応出来るように研修等を実施することが該当すると考えられます。
「当社はBtoBなのでカスタマーハラスメント対策の必要はない」という声も聞きますが、第3項は、事業者がその事業に関して顧客等となり得る場合、つまり事業に必要な商品やサービスを購入する場合に対象となります。営業部門が接待で使用する飲食店に無茶な要求をする、店員に暴言を吐く、調達部門が立場を笠に着て下請け事業者に暴言を吐く、正当な理由のなく返品を要求するなどといったことがないように今一度社内のコンプライアンスを見直す必要があるでしょう。
施行日
2025年4月1日が施行日となっています。なお、事業者の義務は努力義務ですので、2025年4月1日までに必達で突貫工事で態勢整備を急いで進めるというよりは、現場の状況を把握し、現場が無理なく対応出来るスケジュールで、カスタマー・ハラスメントを効果的に防止できるよう態勢整備を進めることが重要と言えるでしょう。
<執筆者紹介>
宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。