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#156 リュウジと調味料。

こんにちは。最近、家庭料理に目覚めている、宮本松です(笑)。ただ作ればいい、食べればいいという、これまで何十年も続けてきた料理のやり方を、もう一度見直し始めているところです。

自分で「これを作ってみよう」と計画を立て、小さな工夫を実践してみると、これがまた実に楽しい体験なのです。美味しいものを作る喜びと、食べた後の満足感が、ずいぶんと変わります。この幸せ体験は、だれかに自慢したくなるようなものというより、自分の内側でひっそりと静かに、スルメみたいに味わう長続きする類いのもののようです。

『料理研究家のくせに「味の素」を使うのですか?』(河出新書068、 2023年)というリュウジの本を手に取ったのは、娘のミドリーがリュウジのレシピを見ながら、時々おかずを作ってくれたことに影響を受けたからでした。いつものハンバーグや味噌汁が「リュウジのバズレシピ」で作ると、全くちがった料理のように感じられたからです。

彼のレシピを初めてみた時、「ムム」っとわたしの眉間にシワがよりました。材料の中に「味の素」が含まれていたからです。むかーし昔、田舎のおばあちゃんが冬になると作ってくれた白菜の漬物にちょこっとふりかけていた、あれです。なんとなく身体に悪そう、化学調味料の代表みたい、と思っていました。

ところがどっこい、本を読んでみると目からウロコでした。味の素がいかに優れた調味料であるかが分かりやすく解説されていたからです。「味の素は世界に誇るべき日本の発明品」だとリュウジも書いていました。では一体、味の素とは何か?

主成分はアミノ酸の一種であるグルタミン酸ナトリウムです。これが「うま味」の素なのです。味覚には塩味・甘味・酸味・苦味・うま味という五つの基本味があることが今では知られていますが、「うま味」が発見されたのは、最近になってからなのです。それを発見したのは、なんと日本の科学者で、東大出身の池田菊苗博士という人でした。1907年に妻が料理に用いている昆布を見て「うま味」の存在を確信した池田は、昆布に含まれるうま味の素が、グルタミン酸ナトリウムであることを突き止め、さらにそれを商品化しようと鈴木製薬所の鈴木三郎助と共同で研究・開発を続け、1909年に味の素を作り上げたという歴史があるのだそうです。

今では「うま味」の素が三つに分類されることが分かっていて、グルタミン酸の他にもイノシン酸(肉や魚、かつお節に多い)、グアニル酸(干し椎茸などのきのこ類に多い)があります。リュウジによると、人が「美味しい」と感じる食べ物には、油脂、砂糖、だし、これらが何らかの形で含まれているそうです。洋食ではバターを用いて肉や魚を調理しますが、そこで強く味わうことができるのがイノシン酸。またオリーブオイルで炒めたきのこ類などはグアニル酸が多いのでしょう。

日本は島国で、肉や砂糖が手に入りにくいという条件から、だし文化を育んできました。そのおかげで油を使わないヘルシーな精進料理が発展し、「うま味」を極める技術が受け継がれることになりました。

味の素が身体に悪いかどうか。それについてもリュウジはきちんと解説していました。世界でもっとも権威ある食品添加物の安全性を評価する機関(JECFA)からも、1970年の段階で、食品としての安全性は認められているのだそうです。ただ余りにも急激に世に広まったこともあり、また使い方が雑であったりもして「味の素は身体に悪い」という噂が流れ、味の素株式会社は、悪評とたたかい続けてきた歴史ももっているらしいです。

わたしが一番びっくりしたのは、よく利用している白だし・ほんだし・鶏ガラスープの素、などの調味料の中にも、グルタミン酸ナトリウムがしっかりと含まれていたということです。単体としての「味の素」は使っていなくても、何も知らずに味の素の成分を利用して「ああ、美味しいものができたわ」と自己満足していたのかと思うと、笑ってしまいます。そのくらい、現代の食事にはグルタミン酸が満ちているという衝撃の事実を知ったのでした。

何事も、自分の時間と手間を使って、きちんと情報を収集してみると、「あれは良い、あれはダメだという先入観による思い込みが、自分の頭になんと多いことか」ということに気付かされます。それによって、一時的にはショックを受けますが、もう一度「自分の当たり前」を見直すチャンスを手にしたことになります。

台所に立って、いつもの調味料を手にした時「これって、本当に必要?どのくらい?」と一瞬立ち止まって考えてみる。また自分が求めているのが、塩味か、甘味か、旨味かと確かめる癖がついたことが、今のわたしの小さな喜びです。

(R7/1/25記)

追記:料理研究家の小田真規子さんの本、『これだったんだ!おかずのコツ。The基本200』を見ると、いわゆる「だし」と呼ばれるような物をほとんど使わず、基本調味料だけのシンプルな味付けを提案されていました。これもやってみると美味しい!味つけすることばかりに気持ちが向いて、素材の味を楽しむことを忘れていたことに気づきました。うーん、料理ってほんとに奥が深い。





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宮本松
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