リーダーよりも影響力の大きい「フォロワー」の存在
前回の投稿では、組織の変革にあたり多数派を巻き込むためには「フォロワーシップ」が鍵となることを、私なりの考察から解説してみました。
今回は、そんな「フォロワーシップ」が立場に関係なく発揮できると感じた、私自身の経験をご紹介したいと思います。
先輩のおかげで芽生えた納得感
私は以前、学生援護会(現パーソルキャリア)という会社で求人広告の営業をしていました。
『an』や『DODA』といった求人誌を扱っていましたが、営業をしていた私にとって、売上目標というものは必達のものでした。
当時はwebサイトではなく冊子発行だったので、広告枠の大きさによって掲載費用(=営業の売上)が異なりました。anの関東版の場合、1ページ掲載すると100万円程度の費用ですが、小さな枠であれば5~10万円でも掲載できます。
営業としては、売上目標を効率よく達成するためにも、顧客数を増やすことよりも、広告枠の大きさを広げることに意識が向いていました。
しかしある時、経営の方針で、営業の目標指標が「売上」から「件数」に変わったのです。
急な方針変更にかなり驚きました。私は(正しくは、私だけでなく多くの営業が)、それまで「売上」しか意識していなかったので、かなり大きな衝撃がありました。
経営陣からは丁寧な説明があったわけでもなかったため、
「経営は現場が分かっていない!」「こんな仕事やってられるか!」と、
一方的な方針変更に憤りとやるせなさを感じていました。
同僚と大いに愚痴を言い合いましたし、営業することがバカバカしくもなりました。
そんなふうに腐っていた頃、私は5年次ほど上の先輩から声を掛けられました。
「宮本、分かる。オレもビックリした。けど、経営の言ってることも、少し分かる。」
そして先輩はこう言いました。
「仕事を探している読者にとっては、分かりやすさ(≒枠の大きさ)も大事だけど、それ以上に求人数(≒掲載数)の方が価値がある。だから変更したんだと思う。」
この説明を聞いた私は、「なるほど!だからか!」と納得しました。目が飛び出るくらいに腹落ちしました。
先輩が若手の私にも分かるように説明してくれたおかげで、方針変更の理由に意味があると、初めて感じることができました。
当時の求人誌市場は、リクルートが発行する『フロムエー』と学生援護会の『an』がありました。これらが2強でしたが、自社の『an』よりも『フロムエー』の方が媒体力がありました。
私が担当していた顧客は、だいたい『フロムエー』にも掲載していました。
アルバイトの求人誌は毎週発行されていたので、商談はいつもこんな調子でした。
私:「今週の反響はいかがでしたか?」
お客様:「anは5件、フロムエーは10件でした。」
私:「すみません...。来週は頑張ります...。」
お客様:「anにはもう少し頑張って欲しいです。でないと、フロムエーと同じ予算はとれませんので。」
悔しかった。同じような予算で掲載いただいても、同じような応募数を出すことができない。
営業が頑張っても、反響はどうなるものでもありませんでした。
毎日このような悔しい思いをしている中で、先輩から言われた「読者にとっては求人数が大事だから」という指摘は、私にとって目から鱗でした。
仕事を探している読者にとって、掲載求人数が多いということはそれだけ選択肢が多いということです。“広告枠の大きさ”は、情報が充実するため分かりやすさやアピールにはなりますが、求人誌を手に取る読者にとっては、まずは求人数が大事なのです。
だから、「売上目標」ではなく「件数目標」に変わった。
理解できました。腹落ちもしました。経営の方針変更にむしろ賛同できた瞬間でした。
先輩のおかげで、目標の変更に心から納得できた私は、その年の「新規獲得目標」において全国2位の成績で社長賞もいただきました。
リーダーでないから発揮できたフォロワーシップ
経営において戦略は重要ですが、より重要なことは、「その戦略を多くの人が支持しているかどうか」だと思っています。前回の記事の人事制度リニューアルの例でいえば、多くの人が運用しているかどうかが大事なのです。
戦略の良し悪しよりも、「多くのメンバーがその戦略の狙いや意図に賛同して、一致団結しているか」が組織の強さを左右するのだと思います。
前回の記事でご紹介した「イノベーター理論」で当時を振り返ると、経営陣はイノベーターで、私はマジョリティの中の一人です。そして、この先輩がアーリーアダプターでした。
前回ご紹介したTED内の動画でいうと、私にとって経営陣は「裸の男」でした。何を考えているのかよく分からないし、近寄りがたい存在でした。
一方その先輩は、経営の方針をまさに咀嚼して、私を手招きするフォロワーでした。
私にとっては、経営陣(リーダー)よりも先輩(フォロワー)の方が身近であり、共感できる存在でした。
この体験から思うことは、リーダーよりもむしろフォロワーの方が影響力が大きいということです。
大勢のマジョリティを巻き込むためには、リーダーよりもフォロワーの方がマジョリティにリーチしやすいのです。
もう一つの教訓は、リーダーでないからこそ発揮できるフォロワーシップがあるということです。
先輩は戦略を打ち出す側のリーダーではなかった。だからこそ、近しい立場の先輩から説明を聞いた私にとって、納得感があったのだと感じます。
「フォロワーシップ」を発揮できる人が増えると、組織は強くなる。一体感や団結力のある組織にはフォロワーの存在が不可欠です。
「フォロワーシップ」は、権限や肩書き、役職や立場に関係なく、誰しもが発揮できるリーダーシップです。