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ティーチングとコーチングを山本五十六の名言から紐解いてみる

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」

これは、太平洋戦争時に大日本帝国海軍で連合艦隊司令長官を務めた人物「山本五十六(やまもといそろく)」が残した名言です。 多くの人が一度は耳にしたことがある名言かと思いますが、これには続きがあることをご存知でしょうか。

やってみせ、言って聞かせて、させてみて、
ほめてやらねば、人は動かじ。

話し合い、耳を傾け、承認し、
任せてやらねば、人は育たず。

やっている、姿を感謝で見守って、
信頼せねば、人は実らず。

とても奥深いです。人や組織に関わる仕事を生業とする者として、とても大きな影響を受けた座右の銘です。

私は30歳の時に、研修トレーナー(ティーチング)という生業で独立しましたが、その数年後にコーチングを学ぶ中で、この格言に出会いました。

人材育成の世界でよくテーマになる「ティーチング」と「コーチング」を、山本五十六が残した名言を引用しながら整理してみたいと思います。

ティーチングとコーチングの違い

ティーチングとコーチングの違いを説明しようとすると、さまざまな説明ができますが、大きな違いは、「自分の中に答えがあるか」「相手の中に答えがあるか」と言えます。

自分の中に答えがあって、それを相手に伝えたり、提供するのがティーチング。一方、相手の中に答えがあって、相手が自分の中にある答えに気づけるよう、また本人が引き出せるような関わり方をするのがコーチング、というイメージです。

その点、コーチングにおいて「質問」は有効な武器ですが、「質問」を使えばコーチング、という訳ではありません。例えば、小学校の先生が「縄文時代と弥生時代の違いは何ですか?」という質問は、生徒に考えさせることが狙いであって、既に先生の中に答えがある。なのでコーチングとは言えません。

同様に、コーチの中には答えはないので、部下にコーチングをしようとした上司が、つい答えを持ってしまい、誘導してしまうのもご法度です。

相手の成長に合わせてティーチングからコーチングへ

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コーチングは万能ではありません。入社して間もない新人にはティーチングが必要です。相手の中に答えがないのに、一生懸命引き出そうとしてもお互い苦労します。その場合は、やり方や考え方を教えることが必要です。ただ、その関わり方を続けてしまうと、相手は自分の頭で考えず、指示がないと動けない人材になってしまいます。

これまで多くのビジネスリーダーと接してきて思うのは、ティーチング的な関わり方から、コーチング的な関わり方へ移行することの難しさです(これは私も含めです…笑)。

多くの上司は、部下が本人の頭で考えて、本人が問題解決できることを望みながら、つい自分の中にある答えを用いて、自分で問題解決してしまう。できる上司ほど、この状況が発生しやすいです。

上司が答えを持つと、部下は(自分の中ではなく)上司の中に答えを探してしまう。悪く言えば、上司の顔色を伺ってしまう。上司から指示がないと動けないため、自分で考えて自走できなくなってしまう。その結果、成長しなくなる……。そんな悪循環が生じてしまうのです。

もちろん、上司としての意向を伝えておくことは必要ですし、判断基準を示しておくことも重要ですが、部下が自分の頭で考えて動くためには、自分自身の中に答えを探すことができるようになる必要があるのです。

私自身も、過去にコーチングの威力を強烈に感じた体験がありました。

かつてファシリテーターとして組織開発プロジェクトに携わっていた私は、自分ばかりが奔走し、プロジェクトメンバーが誰もついてきてくれないと感じていました。

しかし、私の中の答えに誘導しようとするのではなく、プロジェクトメンバーの中にある答えに本人たちが気づけるような関わり方を工夫してから、チームが自走するようになったのです。これは、私の人生でも大きな転機となった経験でした。

山本五十六から学ぶリーダーの姿勢

私はもともと、「やってみせ~~人は動かじ」の部分は知っていましたが、改めてこの名言を紐解いてみると、「やってみせる」→「言って聞かせる」→「させてみる」→「褒める」→「(メンバーが)動く」という順番や狙いの1つ1つに、奥深い意味を感じます。

1.いきなり説明されてもイメージできないので、まずは手本を見せる
2.イメージできても知るとわかるは違うので、理解できるように説明する
3.理解できてもわかるとできるも違うので、実践させてみる
4.トライ&エラーを繰り返し、できたら褒める
5.結果的にメンバーが動く

こうして整理すると、山本五十六の名言がいかによくできているかわかります。

また、先ほどティーチングからコーチングへ関わり方を変えていくことの難しさや重要性について持論を述べましたが、改めて参考となるのがこの名言です。

というのも、この名言からは、「ティーチング」→「コーチング」→「エンパワーメント」と、メンバーの成長に合わせて変化していくリーダーやマネージャーとしての姿勢を読み取ることができるのです。

やってみせ、言って聞かせて、させてみて、
ほめてやらねば、人は動かじ
→ティーチング(指示・命令)

話し合い、耳を傾け、承認し、
任せてやらねば、人は育たず
→コーチング(支持・支援)

やっている、姿を感謝で見守って、
信頼せねば、人は実らず
→エンパワーメント(権限移譲)

「話し合い~」以降の続きがあることを知ったときの衝撃は、今でも忘れられません。リーダーシップの研修プログラムを考えながら、一人で驚愕したことを今でも覚えています。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

まさにコーチングです。
まずは話し合いの場を設け、相手の話に耳を傾けて、相手の考えや存在も受け止めて、任せる。結果、人が育つ。

太平洋戦争の時代ですから、この頃はまだ「コーチング」という言葉も概念も存在していなかったと思いますが、それに近しいことを上手く言い表していると感心させられます。 

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

いまどきの表現で言えば、「エンパワーメント」と言えるでしょう。
この域に達すると、相手も既に自走できている状態です。信頼は「信じて頼る」と書きますが、むしろ上司が部下に頼るくらい信じられている関係は、とても素晴らしいと思います。

相手の経験が浅いうちは「やってみせ~」の関わり方が望ましいのですが、経験に応じて「話し合い~」の関わり方に変え、更なる成長に応じて「やっている~」の関わり方に変えていくことが肝要です。

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コーチングに隠された「落とし穴」

コーチングにも気をつけたい落とし穴がいくつかありますので、山本五十六の名言を引用し、紹介してみたいと思います。

・「やってみせ」→専門性をもとに答えを押し付けない

1つ目の落とし穴は、「やってみせ」というフレーズにあります。コーチングしようとしたときに、この「やってみせ」の部分(自身の専門性)が、足かせになりやすいのです。

というのも、自分に知識や経験があると、答えが見えてしまうため、ついそれをメンバーに与えてしまいます。これは悪く言えば、答えの押し付けにもなりかねません。

特にエンジニア職種のマネジャーに多い印象なのですが、これまで専門性を武器にポジションを上げてきた方は、その専門性を武器にマネジメントしてしまう傾向があります。具体的には、コーチングが必要な相手に対してティーチング的な関わり方をしてしまうといったケースです。

現場と接する課長ポジションであれば、その専門性も機能します。しかし、いくつかのチームを束ねる部長といったポジションになると、この専門性に頼ったマネジメントが逆に現場の成長を止める足かせとなってしまうことがあります。

・「耳を傾け承認し」→傾聴と情報収集を使い分ける

2つ目の落とし穴は、コーチングにあたる「耳を傾け承認し」というフレーズにあります。ここで気をつけたいのが、文字通り耳を傾けること、すなわち傾聴です。

私は「クエスチョンサークル」という会社で、「質問」にフォーカスした組織開発の仕事をしていますが、実は質問よりも「傾聴」の方が大事だと思っています。

もちろん質問によって大きな気づきが得られることもありますが、(質問はなくても)上司が部下の話を聴いてあげるだけでも、部下が自分自身で気づいたり、上司に聴いてもらえた安心感で、抱えていた問題が解決したりすることもあります。

その上で注意したいのは、「傾聴」と「情報収集」の違いです。

「傾聴」は相手が語ることの相手になってあげること(自分で語る中で自分で気づくことがある)であるのに対し、「情報収集」は自分が問題解決するために情報を集めること。

ともに「聴いている」という行為は同じですが、この違いは大きいのです。傾聴のつもりでいたはずが、気づけば自分が問題解決するための情報収集になっていたケースも少なくありません。

「問題」ではなく「人」にフォーカス

先述で、ティーチングとコーチングの違いは、「自分の中に答えがあるか」「相手の中に答えがあるか」と書きましたが、「答え」がどちらにあるかで、どこにフォーカスするかが変わってきます。

わかりやすく、自分が上司の立場で、部下が担当する案件で問題が発生した場合を想定しましょう。

仮にティーチング的な関わり方をしようとすれば、自分(上司)が答えを描く必要がある
ので、自分はその問題を解決するために、そこで起こっている問題や解決策など「事柄」
にフォーカスしなければなりません。

一方、コーチング的に関わろうとした場合は、相手(部下)にその問題を解決してもらう必要があるため、事柄(問題や解決策)ではなく、「その問題を本人がどう捉えているのか?」「本人にとってその問題がどんな意味を持っているのか?」など、その問題に対する本人の向き合い方、つまりその「人」自身に目を向ける必要があります。

前者の場合は、部下指導とともに問題解決が目的です。

一方、後者の目的は部下の成長です。仮に問題解決には至らなかったとしても、本人が何かを学び、次に活かすエネルギーを得られたなら、コーチングの目的は達成できたといえるでしょう。

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