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待ちきれない黒豆

ついボーっとしていたら、あっという間に1月が半分過ぎた。それでも私は、上手に煮えた黒豆を毎日大事に食べては、嬉しくなっている。

黒豆が大好きで、お正月のお重の一角にほんのちょびっと盛り付けてあるのをお箸で一粒、ふた粒、じゃなくてスプーンでごそっとすくって食べたい、口いっぱいに黒豆を感じたい。そう思って生きてきた、なんて言うのは大袈裟だけど。

それで好きが高じて、いかにおいしく黒豆を煮るか、をかなり頑張って研究した。そして、かなりおいしい黒豆が作れるようになった。真っ黒でツヤツヤで、ほんのりと甘く、舌の上でほろりと、とろけるように崩れる黒豆だ。

ちなみにトップ画像の黒豆は今年、煮始めたばっかりの時の鍋の中。今年、実は豆を煮るための秘密兵器を日本で購入して、感動的にすごくよく煮えたのだが、鉄じゃないせいか真っ黒にならなかった。
(写真は秘密兵器の鍋で煮た後、シロップに漬けた状態。秘密兵器の鍋じゃありません)

鉄釘を入れたのだけど新しい釘だったからダメだったみたい。錆びた古い釘がいいと、いろいろなレシピに書いてあるのはどうやら本当だったらしい。
去年までは古釘はなくても鉄の中華鍋で煮ていて真っ黒に仕上がっていた。
(秘密兵器のことは後述します)。
できるだけいっぱい食べたいので、破けたのもそのままで。

これは去年のお正月に煮た黒豆。鉄の鍋で煮たので真っ黒でぷっくりツヤツヤ。
書いていたらまた食べたくなってきた

私が作るのは、黒豆のシロップ煮タイプである。

実家の母がお正月に用意していたのは、薄味のお醤油の入った甘塩っぱい味タイプだったと思う。大人になって、自分で煮てみようと思って探したレシピ本にも、お醤油味で仕立てた液に黒豆を浸してから煮始めると書かれていた。ところがあるとき、ある料理本を眺めていたら、「丸梅」という料亭の黒豆の煮方が書いてあるのを見つけた。古い本だから、作り方は写真や図解で説明してあるのではなくて、ただただ長々と文章で書かれているのだったけど、なぜか惹かれて最後まで読んだ。思えば、運命の出逢いだったのかも。

「丸梅」というのは大正の初めに屋台のおでん屋から初めて、文人や政財界のお歴々が出入りするというので評判をとり、関東大震災の後、東京の四谷荒木町に店を開き、戦後になって四谷本塩町に移ったという料亭だったそうだ。もちろん私は行ったことはない。客席は6畳一室だけで一日1組のみ、6人以上は取らないという姿勢を貫き続けたのだという。知る人ぞ知る名店で、「丸梅の料理を知らずして美食家というなかれ」なんても言われていたという。まあ随分昔の話よね。

そんな「丸梅」のお料理をいろいろ想像しながら、毎年黒豆を煮る。作り方はこんな感じ。

1日目:黒豆を丁寧に洗ったら3倍ほどの水に浸けて12~15時間ほどおく。

2日目:そのまま蓋をして火にかけ、沸騰する直前に火を止め、泡をとり、ザルに静かにあげて、新しい水と共に鍋に戻す。これを3回繰り返したら、たっぷりの水と古釘を入れ煮始める。豆が手で柔らかく潰れるほどになるまで、弱火でトロトロと。絶対に沸騰させてはだめ、と書かれているけど、私は時に、うっかり沸騰させてしまって焦る。茹で上がったら、そのまま一晩。

イタリアにも黒豆(黒大豆)は売っているけど、今年は、年末に日本で買ってきた丹波の上等な黒豆を煮ることができて嬉しかった〜

3日目:水道の水をチョロチョロ出しているところに黒豆の鍋を置き、水を換える。とレシピには書いてあるが、黒豆の煮汁は腎臓にいいというので、私はザルに豆をあげちゃって、煮汁は取っておいて、毎朝牛乳がわりに飲む。ほんのり甘くて豆乳よりもおいしいので、おすすめ。この時点で、皮の破れたものは別に取り分けて、お醤油でさっと煮て食べる。

使う砂糖の総量は豆の1.5倍。まずは砂糖の半分を別の鍋に入れ、1カップ程度の水を加えてシロップを作る。その中に黒豆を投入し、静かに火にかける。砂糖が溶けて、クツクツとシロップが上がってきたら火を止め、残りの砂糖の半量を入れ、ふたをして、一日おく。

4日目:翌日、火にかけ、沸騰直前まであたためたら火を止め、残りの砂糖を加え、またまた一日。実はこの辺で待ちきれなくなって少し食べちゃったり。すでにおいしい。

まだ皮がぷっくら膨らんでいないけど、
すでにとてもおいしくて、味見が止まらない。

5日目;翌日、そっと煮て、火を止める。豆がシロップから顔を出していたら、ひたひたになるまで水を加えて煮る。

6日目:1日休み。

7日目:静かにさっと煮て火を止める。できあがり。

その後は2日に一度ゆっくり火を入れながら、お正月を過ごす。

このやり方で初めて煮てみた時、なんておいしいんだ!と感動して、誰に遠慮することなくスプーンですくってわしわし食べることができて、本当に嬉しかった。
相当おいしいと自負していたけど、ある時、私の住むトリノに嵐山吉兆の料理長・徳岡さんがやってきて、お仕事をお手伝いする機会があった。その時、徳岡さんがくださった黒豆は、私が煮る丸梅レシピの黒豆にかなり似ていて、やっぱりこれはかなりおいしいんだ!と保証された気持ちになったのを思い出す。

ぷっくらと膨らみツヤツヤに輝く黒豆はうっとりするほどキレイだけど、関東では「シワがよる(ぐらい年を取るまで)元気でいられるように」とあえて豆にシワが入るように煮るやり方もあるそうだ。ぷっくらと甘く煮る私の煮方は関西風というわけ。残った、うっすらと黒い透明なシロップをアイスクリームに添えたり、ヨーグルトにかけたりしてもオシャレで、そしておいしいのだ。

追記:この煮方でおいしくするために一番気を付けないといけないのは、最初の、砂糖を入れる前の茹でる段階で、本当に本当に柔らかくなるまで腰を据えて茹でること。これぐらいでいいかな?と妥協してしまうと、後で砂糖を入れたときに固く締まってしまっておいしくできない。以前は圧力鍋で煮ていたのだけれど、圧力鍋よりもずっと強力な、豆を煮るための秘密兵器を年末に日本から買ってきた。その秘密兵器とは? という話はまた次回。


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