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抜群の効果があった抗がん剤とプチ絶食、そして鍼。

2023年2月24日 抗がん剤第1回目

いよいよ初めての抗がん剤治療の日がやってきた。朝9時の予約でがんセンターのデイホスピタルへ直行。イタリアでは特に副作用がひどい場合などを除いて、抗がん剤の投与は日帰りでやる(日本もそう?)

点滴の前に、毎回血液検査で体調をチェックされる

受付が済むと、ほとんど待たされずにまずは血液検査をする。肝臓や腎臓、白血球や赤血球の値を見て、抗がん剤に耐えられる体力があるかどうかを判断するらしい。ってことはつまり、検査の結果によっては「今日はダメ、治療できませんよ」と言われることもあるということだ。せっかくの治療が途中で中断して効果が薄れたりしたら大変だから、体調管理には気をつけたいところ。だけど美食三昧や大酒飲んで肝臓を悪くするのとは訳が違う、抗がん剤のせいで肝臓の数値が悪くなったら、自分ではどうしようもない。実際、何回めかの時に、待合室で検査結果の紙をお母さんらしい女性に見せながら、「今日はできないから帰らなくちゃ」とため息をつきながら説明している若い男性患者を見かけた。若くて体力もありそうな人でも治療できなくなるほど肝臓の数値が悪くなってしまうなんて、抗がん剤恐ろしや、と密かに震えあがったのを思い出す。

長い待ち時間に待合室でやったこと

血液検査の結果が出るのが1時間後ぐらいで、その結果を見ながら担当ドクターの診察がある。でもこの待ちが長い。血液検査の結果は出ていても、診察の順番がすぐに回ってくるとは限らなくて、2時間、3時間待たされるのもざら。

順番を待つ間、ピンポン!と呼び出し音が鳴るたびに電光掲示板を見て、自分の番号がチカチカ光っているかどうかを確認しないといけないから、本を読むとか原稿を書こうかと思っても集中できない。結局、待合室でしたことといえば、スマホでSNSを見たりニュースを読むぐらい。そうしてようやく診察の順番が来て、ほんの5分か10分ドクターの診察が終わると、またしばらく待たされた後、やっと治療室に呼ばれるという仕組みだ。

イタリアの抗がん剤治療室の様子

その病院の抗がん剤治療室は10部屋あって、私のように元気な人用の部屋にはマッサージチェアのような椅子がずらっと並んでいた。元気じゃない人用の部屋は見たことはないが、看護師さんに聞いた話ではベッドだったり車椅子が並んでいて、世話をする看護師さんの数も少し多いと言っていた。

初めての日、おずおずと部屋に入っていくと、「MIYAMOTO? えーと、あんたはそこに座って」と適当に空いたシートに誘導される。イタリアの看護師さんは、日本のように優しくないし、丁寧でもない。大雑把な感じだけど、その代わり、チャオー!と元気いっぱいで患者を明るくしてくれる感じがいい。

座って待っていると、Eccomi(エッコミ=お待たせ!)と看護師さんがやってきて、「Miyamoto、生年月日を言ってみて」と聞かれる。生年月日の復唱は、それからずっと、何をするにも繰り返しさせられることになる。薬を間違えたり、採血したものを入れ違えたりしないための作戦なんだろうね。イタリア人は、日本人に比べて相対的に集中力が低くて単純ミスが多いからかな。それとも医療現場での世界的な常識なんだろうか?

赤いおしっこが出てビビる

3時間ほどの点滴が終わると、もう、午後の4時とか5時になっている。第1回目のこの日は、ネトフリでドラマの続きを見ようとイアホンを耳に入れたけど、すぐに眠くなって3時間はあっという間にたってしまった。途中、トイレに行きたくなって、点滴スタンドをガラガラと引きずって行く。なんだか病人っぽくなってきた、なんて思いながらおしっこをすると、真っ赤でびっくり! そういえば「この薬を入れると、おしっこが赤くなるわよ」と最初に看護師さんが言っていたのを思い出した。

吐き気どめ効果がある?鍼治療にも挑む

点滴が終わったら、受付で次回の予約をして今日は終了。前にも書いた通りがん治療は全て無料なので、支払いはない。病院の近くのショッピングセンターで、カフェに入って勉強をしたり時間潰しをしていた娘が迎えにきてくれて車に乗る。特に具合が悪いという感じはなかったけど、身体も頭もふわふわ、ふわふわしている。

家に帰る前に、次は、元西洋医学の医師、今は鍼灸師という先生のところで鍼を打ってもらう。抗がん剤をしたその日か、少なくとも翌日に鍼治療をすると、吐き気や具合が悪いのが抑えられるということで、アメリカなど最新医療の現場では抗がん剤のチームと連携して鍼治療をする医師がいる病院もあるらしい。

静かで、お香の香りが充満する部屋で鍼を打ってもらうと、グーッと引き込まれるように寝てしまう。鍼の効果があったのかどうかはわからないけど、なんとなくスッキリして家に帰る。そして娘が作っておいてくれた、玄米のご飯と梅干しを食べたら、ぐったりと疲れて、すぐに寝てしまった。

ファスティングでがん細胞をいじめぬくのだ

鍼の先生は、鍼を打ってくれるだけでなく、アメリカで活躍しているイタリア人医師が研究したという、ある方法を教えてくれた。それは抗がん剤治療に行く前夜の夕食後から、抗がん剤治療をして家に戻るまでの約24時間、絶食をするというものだ。

健康な細胞はある一定の時間以上栄養が入ってこなくなると「休眠モード」に入れるようにできているが、がん細胞はそれができず、お腹が空くとヘロヘロになって弱っていく。そこへ抗がん剤を注入されるから、こりゃたまらん!と死滅してしまうというわけらしい。本当なら3日ほど絶食するらしいが、医師の管理なく絶食するのは危険だし大変なので、24時間でいいわよ、と鍼の先生。

ほんとかいな?とネットで検索してみると、休眠モードとは書かれていないけど、同じような趣旨の記事がたくさん見つかった。例えばこれ。

そしてこんなYouTube動画も。

なんだかとても説得力がある気がして、私は5ヶ月間の抗がん剤治療中、そして手術の後に続いた1年間の治療中も、一度もサボることなく、このプチ絶食をやり通した。待合室で長い間待っていると、お腹が空いて、せめて自動販売機で売っているジュース飲んじゃおっかなー? と負けそうになったことも何度かあった。でも、いやいや、がん細胞は特に糖分が好きだっていうじゃない!ダメダメ、と気合を入れて頑張った。

周りではイタリア人のお仲間たちが、パニーノをかじったり、チョコレートをむしゃむしゃ食べたりしていた。そんな人たちを眺めながら、意地悪な私は「お気の毒に。私だけより高い治療効果をいただきますよ」という気持ち半分、私も食べたいなあ、いいなあ、という羨ましい気持ち半分で点滴を受けていた。

結論から言うと、5ヶ月後の術前検査で腫瘍は消失していた。2センチあったグリグリが、触診でもMRI検査でも見つからなかったのだ。プチ絶食の効果は絶大だったのかも。私は今でも半分ぐらい、そう思っている。







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