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ロックダウンへようこそ

パリやウィーンでテロがあったり、ミラノでは銀行強盗が発生したり。先日はトリノの郊外で夫が妻と2歳の双子、飼い犬を射殺したという事件。物騒なニュースが増えているように感じるのは気のせいだろうか?コロナで疲弊した心と経済が大変なことになってないか。(トップ写真はクリスマスのイルミネーションがついたトリノの街並み。著者撮影)

11月3日(火曜日)

夕方、同じトリノに住む日本人のMちゃんからメッセージ。
「やっぱりピエモンテ閉まりそうだって。何買っておこうかな?」 
閉まりそう、つまり、ロックダウンということだ。

第1波の時は、小麦粉が全然手に入らなくなって困ったので、私はオーガニックの店に行って、小麦粉、醤油、豆腐などを買う。それから消毒液と使い捨て手袋、マスクなども少し多めに買う。6時過ぎに家について、ニュースを見ると

今日の死者350人!

今日、新しい法令が出て、明日あたりから実施されるだろうという予想だったけど、また政府はにモメているのか、夕方になっても何も発表されない。気になってテレビをずっとつけていると、夜8時半過ぎ、法令の草稿がスクープされる。

イタリアを赤、オレンジ、黄色の3つに分け、それぞれのゾーンで行動規制が違うらしい。赤に指定されたら、そう、ロックダウンだ。イタリア全体のRt(実効再生産数)は1,7なのに、ピエモンテやロンバルディアは2を超しているから、レッドゾーンになるに決まってる。

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↑第一波の時は品薄だった消毒液やジェルなどがずらりと並ぶスーパーの棚

11月4日(水曜日)

朝7時に目が覚めて、トイレに行くよりも先にスマホに手が伸びる。3月のひどい状況だった時もこんな感じだったけど、スマホとテレビのニュースが気になって、一日中見てしまう。

Torino todayという地元紙が号外でピエモンテはロックダウン、と書いていた。でも他の新聞はどこも書いていない。フライング記事だろうか? みんながちょっと、浮き足立っているのかもしれない。

行動規制の内容はあちこちのメディアが発表しているのに、肝心な、どの州が赤で、どの州がオレンジで黄色なのかが発表されない。感染者数だけでなく、病院の対応力、ベッドの満杯率などを総合して決めるらしい。閉めても閉めなくても、人の命や、そして政治や経済の力関係なども関わってくるんだろう、簡単に決められるわけがない。

緊張して待っている私たちがいる一方、テレビは比較的呑気に、クイズ番組なんか放送したり、アメリカ大統領選挙の中継も熱っぽい。

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↑イタリアの女性ニュースキャスターは、どんな辛いニュースの時も美しくてセクシーだね。

夜8時。テレビのニュースで、レッドゾーンはロンバルディア州(州都ミラノ)、ピエモンテ州(州都トリノ)、カラブリア州(州都コゼンツァ)、ヴァッレ・ダオスタ州(州都アオスタ)と言っている。

わかってはいたけど、どよーんと胸に響く。実施は11月6日金曜日から。

11月5日(木曜日)

第1波より感染者数が圧倒的に多い。検査数が多いからだという意見があるが、身の回りで陽性になったという声があちこちから聞こえてくる。友達は夫婦で感染したと言い、特にご主人は40代と若いのに、重症化して入院し、大変だったとか。9月から遠くの大学に入学した娘は、アパートをシェアしているけど、彼女のルームメイトの友達が陽性というので焦る。

各州の知事たちが、なぜうちが赤なんだ、なぜあそこは黄色なんだと、子供のような言い合いをする声がテレビから聞こえてくる。

一方で、トレンティーノ=アルト・アディジェ自治州のボルツァーノ県は、州自体は黄色に指定されたのに、自分たちでロックダウンを続けるという。我々の考えでは、我々はレッドゾーンにふさわしく感染状態は悪いから、と州知事のコメント。

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↑ドイツ文化圏のボルツァーノのクリスマスマーケットは素敵なことで有名なのに、今年は開催なし。

さて、色別の規制は大体以下のような感じ。

レッドゾーン:学校は中学2年生以上はオンライン授業。外出は必要最低限以外は禁止。外出の場合は3月の時と同じように自己申告書を携帯すること。食料品店、薬局、雑誌スタンドなど生活必需品以外の販売店は営業禁止。レストラン、バール、ジェラテリア、お菓子屋さんなどもクローズ。ただしテイクアウト、デリバリーはOK。自宅のある市から外への移動は禁止。

オレンジゾーン:レストラン、バールなど終日営業禁止。学校は高校以上がオンライン授業。美術館、映画館、劇場、ゲームセンター、週末のショッピングセンターなどもクローズ。22時から翌5時まで外出禁止など。

黄色ゾーン:22時から翌5時まで外出禁止。高校以上はオンライン授業。
公共交通機関は最大50%の乗車率に。美術館、映画館、劇場、ゲームセンター、週末のショッピングセンターなどクローズ。レストラン、バールの営業は22時まで(店内で飲食は18時まで)

11月7日(土曜日)

ロックダウンといっても、食料品店と食料を扱う市場は営業しているので、
干し柿を作るための渋柿を買いに市場へ出かけた。イタリアでは渋い柿をグチュグチュに熟すまで待ってコニャックなんかをかけてスプンで食べるのが定番だけど、何年か前にそのイタリア渋柿で干し柿を作ってみたら、驚くほど美味しくできたので、毎年少しづつ作っている。

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↑仕込んだ柿は洗濯干しにぶら下げて3週間ほど干す。ゆらゆら揺れる干し柿に猫のジージョがじゃれつくのでちょっと困る。

昨日からロックダウンだけど、もうずっとマスクの着用義務は続いているから、特に変わった感じはしない。ただ、出かける前に自己申告書をいちいち記入するのはとても面倒くさい。氏名、住所、生年月日だけでなく、IDカードの番号や発行年月日などなど、書くことは多い。

車のラジオを聞いていると、カラブリア州の知事が悲壮な声で国会で(?)
訴えている声が流れてきた。なぜうちの州がレッドゾーンなんだと。カラブリアはイタリア半島の最南端にある州で、よく「ブーツのつま先」の部分、と表現されたりするところ。感染者数はピエモンテやロンバルディアよりずっと少ないのに、医療システムの脆弱性などを指摘されて赤になった。経済も弱い部分があるので、ロックダウンが続けば州民の暮らしに深刻な影響を産むということだ。

経済といえば、今回のロックダウンは3月4月の時よりも、少し緩い。前回は最終的には公園もクローズになり、犬の散歩でさえ自宅から200m圏内で、一人で出かけること、などと厳しかったけど、今回は、現時点ではそういうことは言っていない。前回は営業禁止だった美容院も書店も、「必要最低限」ということで営業できる。いつもは若作りして美しかった妻が、実は白髪がいっぱいで嫌になったとか(?)、ロックダウンで家にこもっているのに読む本がないとか、そんなクレームが多かったんだろうか?

サービスを受ける側からすれば、ああ、美容院やっててよかった、と思うけど、今回も厳しい規制の対象になったカテゴリーの人たちからすると、「なんでアレはよくて、ウチはダメなんだ」となるのは当然だ。

テレビのインタビューで、あるレストランのオーナーが

「第1波のロックダウン解除後、営業を再開するために(飛沫感染を防ぐためのアクリル板など)色々投資したのに、やっぱり閉めろという。他の業種が気をつけて営業を続けていいのに、どうして飲食店はダメなんだ」と辛そうに訴えていた。

営業していい業種と、禁止される業種。厳しい外出禁止のレッドゾーンの州と、そうでない州。第2波はイタリアを分断している。

今日の新規感染者数39,811人。死者数450人。

11月8日(日曜日)

朝、グレースと散歩をしていると、春のロックダウンの時に毎朝会っていたおじいさんにまた会った。普段は家から車で10分ほどの大きな公園に行ってグレースを自由に走らせているので、近所を歩くのは時間がない時と、ロックダウンの時だけ。

「また会いましたね」と柔かなおじいさん。ロックダウンも悪くない、なんて、ほんのちょっとだけ思ったり。いけないいけない。

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↑これは普段グレースと散歩に行く公園。早くまた行きたいなあ。

夜のニュースを見ていると、夜の外出規制があるエミリア・ロマーニャ州(州都パルマ)からすぐ近くのサン・マリノ国へ若者たちが夜遊びしに押しかけているという。サン・マリノはイタリア半島の中にある世界で5番目に小さな国。人口3万人ほどの小さな独立国は、コロナウイルスの規制はイタリアよりずっとゆるいからだと言って。

数日前に見たニュースでは、レッドゾーンになったロンバルディア州やピエモンテ州の人々が、車に荷物と子供とペットを積み込んで、トスカーナやリグーリアなどのイエロー・ゾーン(外出規制は夜のみ)、またはスイスあたりの別荘にバーっと移動していったそう。

そうやって感染が全国に広がった春の恐怖は忘れちゃったのか。

11月9日(月曜日)

ナポリの状況がひどいのに黄色ゾーンとは政治の怪と言われているイタリア。状況がどんどんひどくなって今夜からレッドゾーンになると、ニュースでしきりに言っている。南イタリアで一番大きいというナポリの病院の前に、救急車どころか乗用車が列をなして中に入れるのを待っている映像。
車の窓には地面に置かれた酸素ボンベの管が差し入れられていて、中で苦しんで待っている重症者に繋がれているのが想像される。

レッドゾーンのトリノでは、病院のベッド数が足りなくて、イベント会場を仮設病院に作り変えているという心配なニュース。

一方、毎日暗いニュースばかりの中、ファイザー製薬が90%の予防効果があるワクチンを開発というニュース。世界中が興奮する。

イタリアの大手新聞「コリエレ・デラ・セーラ」の記事にも、これはとても明るいニュースで期待が大きいけれど、最終的に安全確認などがすべて上手くいき、緊急使用許可が出たとして、年内に製造できるのは5000万回分(2回接種が必要なので2500万人分)、もっと大量に生産できるのは2021年末(13億回分)とある。

ふーん、世界の人口は約76億人。全然足りなじゃないか。もちろん他の製薬会社もどんどん開発が進むだろうけど、パンデミック終焉!と安心できるのは、いつになるんだろう?

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ワクチン摂取は医療関係者、高齢者、既往症のある人が優先で、そして権力者やVIP優先に決まってると悲観的なイタリア人の友人たち。副作用がわからないうちは絶対打ちたくないけど、打たないと飛行機は乗せません、などありそうだから、いつになったら日本に行けるんだ? と疑う日本人の友人もいる。 

11月11日(火曜日)

世界は昨日発表されたファイザーワクチンのニュースと、アメリカ大統領選のゴタゴタニュースで盛り上がっているけれど、イタリアの国内ニュースでは、昨日は陽性率が前日より若干下がったものの、死者はなんと580人で、4月14日の602人という数字以来の記録的な多さという。友人の義父が体調を崩してからたった2日で亡くなってしまったという話。今回は周りに感染したという人がとにかく多い。

そして今日はさらに増えて1日の死亡者630人。

イエローゾーンだったアブルッツォ州(州都ラクイラ)、プーリア州(州都バーリ)、シチリア州(同パレルモ)、バジリカータ州(同ポテンツァ)もオレンジに。そしてドロミテ渓谷が素晴らしいイタリア北東部の、トレンティーノ=アルト・アディジェ自治州のボルツァーノ県がレッドゾーンに。

東京でワインバーをやっている友達のMKちゃんは、かつてピエモンテに住み、世界的な有名なピエモンテのワイン生産者をどんどん訪ね、学んだというパワフルな女性だ。彼女と一緒に、ZOOMでピエモンテのワイン生産者やお菓子職人など、ロックダウンで打撃を受けている人たちを訪ね、日本に紹介し、少しでも応援しようというプロジェクトを立ち上げた。

立ち上げた、というほど立派な企画じゃないけど、手作りでコツコツと美味しいものを作り続けている人たちの、少しでも力になれたらいいな、そんな企画。

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↑第一回目は発酵生地の神様、マウロさんのパネットーネ。写真上はオーブンに入れる前の生地。下は美味しそうに焼けるコロンバ。パネットーネと同じ生地の、復活祭に食べるケーキだ。

こんなことをすることで、自分たち自身も明るい気持ちになれる。ロックダウンで安全な家の中に引きこもって、立ち止まってばかりいるわけにはいかないから。

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ピエモンテのしあわせマダミン
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