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イタリアでがんになったら、検査も手術も入院も薬も、全部タダでびっくり。

「大丈夫。全部タダですから」とドクターは言った。

「治療費ってどれぐらいかかるんですか?」と私が発した質問への答えだった。がんですよ!と宣告された時、まず、するりと私の頭に浮かんだのは、治療費ってすごく高いんじゃないか?という心配だったのだ。考えてみたら、それは医者に聞くことじゃなかったかもしれない。でも、私は夫とは別居しているし、仕事はフリーランスだから、治療費がかかるだけでなく、仕事を休めば休んだだけ収入がストップしてしまう。だからそこがまず、具体的な心配だったのだ。遠い(か近いは神のみぞ知る!)未来に死ぬかもしれないというぼんやりした心配よりも、具体的な心配が先だ。で、ついそんな質問を口走ってしまった私に帰ってきたのが、大丈夫、タダですよ、という答えだったというわけだ。

タダってどういうことだろう? 何が、どんなふうにタダなの? あまりよく飲み込めないままその日は帰ってきた。その後、治療が始まっていく中で、それぞれのフェーズで全てタダ、というのを実感していくことになった。


抗がん剤治療が始まると、朝、病院について受付でチェックインをして、終わったらまた受付に寄って次回の予約をする。お財布を出す必要は一度もない。イタリア、すごいなとまず、驚いた。

日本ではがんの治療に平均300万円ってほんと?

一方、日本も、世界に誇る国民皆保険がある国だけど、それでも抗がん剤治療をしたら、一回数万円かかると考えた方がいいと、いろいろなところに書いてある。例えば

仮に、オキサリプラチン点滴静注50mg「トーワ」(1本あたり5,433円)と、オキサリプラチン点滴静注100mg「トーワ」(1本あたり9,067円)を使用した場合、かかる費用は1万4,500円ですが、3割負担であれば自己負担額は4,350円となります。ただし、同じ薬でも製薬会社や先発品・後発品によって薬価は異なるため、自己負担額がより高額になる可能性もあります。また、抗がん剤治療は、使用する薬剤が保険適用されるものかどうか、何種類の薬剤を使用するか、またがんの種類によって金額に大きく差が生じます。そのため、目安となる金額の算出は難しいのが実情ですが、1回の抗がん剤の投与で数万円程度がかかると考えてよいでしょう。なお、公的医療保険制度が適用できない場合には、数百万円かかるケースもあります。

コの保険 HPより

ヒョエー。抗がん剤は1回では済まない、はず。私のケースで言えば、手術前に合計16回、手術後に14回したので、もしも1回2万円かかっていたとしたら、60万円だ。高額医療保険が適用されて、後で帰ってくると言われても、その時に出せない人だっているだろう。後で戻す、という手続きを省くという意味でも、最初から無料とか割引価格にした方がいいんじゃないの、と思うけど、どうなんだろう。

とにかく、がんの治療が日本ではどれぐらいかかるのか、保険に入って欲しい保険会社の概算は高めに計算されているいるかもしれない。実際に体験した方がいたら、ぜひ教えてください、参考までに。

薬屋さんでは薬を買う、というより「もらう」のだった


抗がん剤治療のせいで、白血球が減少したり、吐き気があったり、熱が出たり、胃が痛くなったり、下痢や便秘になったり、などなど、いろいろな副作用が起きる。そういうメジャーな副作用に対処するための薬のリストを腫瘍内科のドクターがくれたので、そのリストを今度はホームドクターに見せて処方箋を書いてもらう。それを持って薬局へ行ったら、大量の薬もみんなタダ。え、これ全部? 初めての時は、なんだか申し訳ない気持ちにさえなって、帰ってきたのを思い出す。ただしホームドクターの処方箋がないと、保険も効かないし、がん患者の特権の無料にもならない。

手術代も入院費もタダ

5ヶ月間の抗がん剤治療が終わって、いよいよ手術になり、1泊2日の入院もしたけど、やっぱりタダ。差額ベット代なんてものもなくて、立派な二人部屋で、部屋にはトイレシャワーもついていた。
「手術がタダなんだったら、せめて執刀してくれる外科医の先生に、何かちょっと渡したりするわけ?」とイタリア人の友人に聞いたら、そんなことはしなくていいのよ、とキッパリ言われた。

私は両胸全摘して再建もしない道を選んだので、再建しない分(?) シリコンでできた外付けおっぱいもタダで支給された。とても可愛い、本物みたいにきれいなおっぱいで、その話はまた今度詳しく書きたいと思うけど、とにかくそれもタダだった。ただし、それを身体に装着するには専用のブラが必要で、そのブラはなぜか自分で買わないといけないのであった。レースも何もついていない無骨なブラが60ユーロも。

結局私は、がんになって約1年半、病院へ抗がん剤治療に通ったけれど、使ったのはガソリン代だけ。前にも書いた通り、治療の日は絶食をしていたから、長い長い順番待ちや、点滴をする間も、ランチを食べるとかコーヒーをを買うなどもしなかったから、本当にお金を使うことがなかったのだ。

イタリアの医療システムは、福祉の充実したヨーロッパの中でも異質なほど気前がいいことがわかった


イタリアでは、お金持ちだろうが貧乏人だろうが、外国人だろうが、全ての医療サービスを無料、または安価で受けられることになっている。14歳以下の子供は全員、なんでもタダ。すごいのはガイジン、移民の子供でも、不法移民でも、14歳以下の子供は全て、イタリアの国民保険に加入でき、全ての治療をイタリア人同様受ける権利がある、ということだ(大人の場合は滞在許可証を持っている、つまり不法でない移民に限られる)。ちなみに観光客だって救急に行ったら、無料で応急処置をしてくれる。

国民健康保険に加入できる、って言ったって、不法移民の子供じゃ保険料払えないじゃん?と思ったら大間違いで、イタリアでは国民健康保険料は誰も一切払わないのだ。じゃあ財源はどこから?というと、国民から集めた累進課税の所得税から賄われる。イタリア政府は毎年国民一人につきなんと2,223ユーロを医療費に使っているという。

イタリアの憲法第53条「すべて人は、その負担能力に応じて、公の支出に応じなければならない」というのがあって、収入のない人や少ない人は、払う能力がある他の人々によって扶養されるのが当然の権利である、という考え方だという。

所得、性別、市民的地位による差別なしに、すべてのイタリア国民が医療を受ける権利を利用できます。すべての国民に、(正当な滞在許可を得ている外国人も含まれます。)入院、救急医療、一般開業医のサービス、自由に選択できる小児科医による質の高い医療を提供しています。
また、 国民保健サービス(National Health Service/NHS=Servizio sanitario nazionale/SSN)によって賄われる広範な医薬品保険と、健康に不可欠なすべての病院および診断サービスも保証されています。ちなみに、基本保険料の負担はありません。

「セカイノビジネス」


ところがこの税金がクセモノで、すごく高いから脱税する人が後を絶たない。だから、この素晴らしく寛容で、弱者に優しいシステムも崩壊の危機と言われている。しかも患者に対して医師の数が少ないなどの問題も山積みで、予約をしようとしても何ヶ月も先、下手したら1年も、なんていうケースが続出している。そんなに待たされたら、がんだったら死んじゃうよね、ということで、多くの人が保険適用外の診療や検査を受けることになる。私も、がんかも?と思って最初に受けた診察と検査は、急いで受けるために300ユーロ近く払った。

そして「払う能力がある人が払えない人を扶養する」という考えに、やっぱり文句を言う人はイタリアにもたくさんいる。でも日本の様に公に、「外国人の生活保護を取り上げろ」とか「収入が少ないのは自己責任だ」などなど、弱者に不寛容な風潮はイタリアではマイナー勢力だ。

そして慢性疾患や難病の人も無料で治療が続けられる安心の国、イタリア

私の場合はがんになって半年は抗がん剤治療の影響で全く社会活動はできなかったし、その後も治療中に減ってしまった仕事を回復するのはなかなか大変だった。収入は激減したから、治療や薬代が無料というのは、今もとても助かっている。そんなふうにがん以外でも、イタリアでは大変な病気の人の多くが医療費完全免除を受けられる。がん以外ってどんな病気があるのかな?と調べてみると、こんなリストが出てきた。

慢性疾患
障害性疾患
希少疾患
腫瘍性疾患
移植待ち

そう言えばイタリアに来てすぐの頃、喘息だった時代があって、その時も医療費免除の書類をもらっていたのを思い出した。

イタリアっていい国なんだよ

日本のニュースなんかで「ヨーロッパでは」という時に登場するのは、いつもフランス、ドイツ、そして今はEUではなくなっているけどイギリスなど。最近は北欧なんかも注目されている。でも、そこにイタリアが登場することはほとんどない。それは経済が今ひとつだから、日本にとってあまり興味の対象にならない、ということらしい。興味があるのは世界遺産とパスタとピッツァだけ(笑) 

でも、イタリアが世界に誇る弱者に優しいシステムを持っている国である、ということに興味を示さない、経済ばかり優先の世界って、ちょっと残念で心配だな、と思う今日この頃です。


 


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ピエモンテのしあわせマダミン
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