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あなたのがんは顔つきが悪い

PET検査をしてみないことには転移があるかどうかが確実にはわからない、だから、PETの予約が取れたら、治療(多分抗がん剤)の開始日を決めましょうと腫瘍内科のドクターは言った。

PET検査とは全身に癌があるかどうかを調べる精密な検査で、それについては前回の記事に書いた通り。

PETの予約がぜんぜん取れなくて焦る日々

日時が決まったら病院の予約センターから電話が来ることになっているのに、電話はなかなか来ない。もう2月も半分近く過ぎて、がんと診断されてから1ヶ月近くが経っている。転移があるかどうかで治療方針が変わる、私の運命も変わる!んだから、電話が来ないことには心配で夜も眠れない、と言うほどではなかったけど、ふとした瞬間に、「転移とかあって、ステージ4だったら?」「PETを待たされている間に転移が発生したら??」なんていう思いが頭をよぎる。

でも心配していても仕方がないので、電話を待つ間、私は普通に原稿を書いたり、料理教室で教えたりという生活を続けていた。別にがんだと言っても自覚症状的なものはまったくなくて、普通に元気だったから。そういえば、告知の時にギャグばっかり言って笑わせてくれた腫瘍内科のドクターは
「知らない番号から電話が来ても、ちゃんと出てくださいよ。電話会社の勧誘じゃないんで。笑」と言っていたっけ。電話によるしつこい勧誘や詐欺などが横行しているから、イタリアでも非通知の番号には出ない、が常識になっている。

生存率は知らないことにする

待っている間にネットで乳がんの情報を検索をしまくった。それで乳がんの種類やら、治療はどんなものがあるのかとか、だんだんわかってきた。だけどどうしても見たくないものが一つあった。それは「5年生存率」「10年生存率」というやつだ。治療が終了した後5年後に、どれだけの患者が生きているかというパーセンテージ、生存率。乳がんは、膵臓とか肝臓など難しい臓器にできる癌に比べて、早期発見すれば簡単に治るというイメージだし、実際そういう人が周りにたくさんいる。私も、「実は癌になっちゃって」と親しい友人たちに報告したら、「私の知り合いの誰々さんも乳がんしたけど、再発もせずずっと元気」なんて言葉を何人もの人からかけられた。

だけど、ちらっとみてしまった乳がんHER2陽性の生存率は100%ではない。ってことは、運の悪い誰かは、治療をしても5年以内に死んでしまうということ?? いやいや、そんなこと考えたら怖くなってくるので、以来、生存率についてのデータはみるのをやめている。

そういえば、吉本ばななさんのお姉さん、ハルノ宵子さんはエッセイ『猫だましい』で

「~”生存率”という統計も、全く信じていない。~80歳過ぎてステージⅣのがんなんか発覚したら、そりゃ~かなりの確率で5年以内に死ぬだろう。ましてやジジ・ババに手術や抗がん剤などの過酷な治療を受けさせたら、確実に寿命を縮めるだろうし、他の原因で死んじまうって!」

ハルノ宵子『猫だましい』より

と書いている。なるほど。確かにそうだ、と納得して、以来、生存率については気にするのをやめた。


セコンドオピニオンは必要?

生存率について心配するのはやめたけど、できれば治って、ちゃんと長生きするために、録音したドクターの言葉を理解するだけでは足りない、ということにある日気がついた。ドクターの診断や、治療方法が、それでいいのか、っていうことだ。いわゆるセコンドオピニオンっていうやつ。

でも私が診てもらっている病院はピエモンテ州のがんセンターで、州内では最高峰のがん治療が受けられる、ということになっている。 Candiolo Cancer Instituto 。カンディオーロという場所にあるので、通称カンディオーロと呼ばれている。イタリアの病院は、治療の良し悪しは別として建物が古くてぼろっちいのが多い中、ここは寄付で賄っているのか、なかなか立派。イタリアの病院見てみたい方はどうぞ。写真もいっぱい載ってます。

https://www.irccs.com/it

私の母が30代で乳がんをしたので、私も30代になってからずっと検診を受けていて、イタリアに来てからずっと診てくれている先生が歳を取り、このがんセンターの乳腺科医長になった。だから私も自動的にこのがんセンターに通えるようになったわけだけど、その先生をとても信頼していたので、この病院での診断、治療を受けること自体も、そっくり信用していた。この診断が間違っているとか、違う治療法があるとか、そんなこと考えていなかったのだ。

私は、何かにつけて、これがいい!と思って決めたら、あまりいろいろ悩んだり考えないタイプだ。よくいえば思い切りがいい、悪くいえば能天気なバカ。笑。とにかく、あのドクターがチームにいてくれて腫瘍内科医と連携をとってくれているなら大丈夫に違いない、と思っていた。実は、またゼロから他の病院や医者の情報を探して予約を取って、というのがめんどくさいな、という気持ちもちょっとだけあった。命に関わる事なのにめんどくさいとは何事か! と真面目で細かくて、私とは正反対の性格の母にバレたら、どんなにどやされることやら。

そんなわけで、セコンドオピニオンをしてくれるイタリアの病院を探す代わりに、日本に一時帰国するたびに乳がん検診をお願いしていた先生に資料をメールで送って、ご意見を聞くことにしたと、というのは1回目の『どうしてイタリアで治療することになったかということ」に書いた。

https://note.com/miyamoto_madamin/n/n94b8d0510187

顔つきが悪いがん

先生から来た返信には「あなたの癌は顔つきが悪いようですね」と書かれていた。顔つきが悪いってどういうことだろう? そりゃ、イメージとしてなんとなくわかる。意地悪い顔のがんなのだ。手術のメスやらCT画像の隙を狙ってしつこくしつこく発生して、どんどん増殖してくるような意地悪いがん。するっと治って、再発も全然しないがんは、やさしい可愛い顔をしてるのだ。イタリアの主治医も「ペリコローゾ(危ない)」だって言っていた。もっとはっきりしたことが知りたくなって、恐る恐る検索してみると、すぐにヒットした。顔つきが悪いがん。

悪性度の高い癌は、よく「顔つきが悪い癌」と表現されます。 悪性度の高い場合には、早期に転移や再発が起こる可能性があります。

福岡大学医学部外科学講座より

顔つきが悪い、という表現を使うのは癌専門医の間ではポピュラーらしい。

セコンドオピニオンをお願いした日本のS先生が、イタリア語の診断書を全部読んでくれて説明してくれたところによると、私のがん細胞はホルモン受容体、っていうのとHER2という特殊タンパク質両方に陽性の癌だという。詳しい事はよくわからないけど(わかれって?)、乳がんを大きく分けると3つのタイプがあるうちの、2つともにヒットしているのだ。しかもがん細胞の増殖スピードを示すというKi-67というのが、私の場合72%もある。数字が高いほど、増殖力が強いんだそうだ。つまり私のがんは、かなりやばいやつらしい。

ううーむ。そういえば、イタリアドクターは、ステージとかはどんなものですか?と聞いた娘の質問に「サイズ的にいうとステージIIですが、最近はあまりステージだけでは判断しない ムニャムニャ」と語尾を曖昧にしていたっけ。結構やばい状況を、はっきり言いたくなかったってこと? 

これはあまり深く考えると果てしなく暗くなりそうなので、考えるのはやめた。10年前ならやばかったけど、今はすごくよく効く薬があるって主治医の先生も言ってたじゃないか。粛々と治療をこなしていこうと決めた。


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ピエモンテのしあわせマダミン
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