ロックダウンなクリスマス、そしてワクチンがやって来た!
イタリアでのコロナウイルス第2波は、結果的には第1波よりもずっと激しい波だった。「た」、と過去形にして書いているのは、まだ終わったわけではないけど、ワクチンも到着して、トンネルの先に小さく光が見えたような、一息ついたような、そんな気分だから。
第2波の最高値を記録した11月13日には、たった1日で40,902人もの新規感染者を出し、12月3日には993人という恐ろしい死者数になった。(第1波の時は新規感染者数6,557人、死者数は919人が最高値)
第1波の3月には、「経済よりも命。生きていればまた立ち上がれる」と言ってヨーロッパで最初に全国ロックダウンを敢行したイタリア政府も、2度目のロックダウンは経済への打撃が大きすぎると二の足を踏み、最終的には感染状況によって州ごとの規制をしいた。
それでも飲食業界や観光業界、ファッション業界などなどたくさんの人たちが深刻な打撃を受けた。今年3月から9月の6ヶ月で約10万の企業が倒産したという調査結果がある。この数字は、9月以降に気温が下がり、バールやレストランで外の席が使えなくなって集客力が落ちた上に、再度ロックダウンで閉店を余儀なくされた今の時点では、もっともっと増えているだろうということ。
イタリア政府は、3月後半まではコロナを理由に解雇をしてはいけないという臨時法を出して企業を支援してはいるけれど、会社自体が倒産してしまったら、やっぱり失業者は増える。
イタリアの経済打撃について、そして、その周りでイタリアの人たちはどんな助け合いの活動をしているか、12月3日に「東洋経済オンライン」に少し詳しく書いたので読んでみてください。
さて、経済の打撃は大きくても、そして人と過ごせないのが辛くても、今はとにかく外出規制などを守り、感染を抑え、クリスマスは普通に楽しく過ごしたい。クリスマス前までに感染状況が改善すれば、プレゼントのショッピングなどで経済だって盛り立てられるはず。
多くのイタリア人がそう思い、願っていたはずだ。
でもそんな願いは叶わなかった。感染状況が予想していたより下がっていかなかった。年末年始に人が集まって再度感染が拡大するなんてことは絶対に起きてはならない。だから今年、イタリアでは12月24日から27日までと、31日から1月3日まではイタリア全国レッドゾーンと決まった。
つまりロックダウンなクリスマス、そして年末年始になった。
12月4日(金曜日)
EATALYの隣に2年をかけて作っていた「Green Pea」がやっと完成というので、プレス内覧会に行く。小さな生産者や、郷土の昔ながらの食料品をコツコツと作り続ける人を守りたい、そういうコンセプトで2007年に1号店をトリノにオープンしたイータリーは、瞬く間に巨大企業になって、今では全世界に42店舗もあるそうだ。日本ではイマイチ成功したイメージではないけど、ヨーロッパやアメリカでは大成功している。
↑トリノの少し街外れ、昔の工場跡地にある「イータリー」(右)と「グリーン・ピー」(著者撮影)
そのイータリーがオープンした「Green Pea」とは、建物も、売り物も、すべてエコサステナというすごいプロジェクト。これからグリーンビジネスの最先端として業界を牽引していきそうなのは間違いないという業界の予想だ。詳しいことはニューズ・ウィーク日本版のブログページ「world voice」に書いた。
そのGreen Peaの記者会見で、プロジェクトに関わった偉い人たちが次々と挨拶した時に、ピエモンテの州知事が、「13日からピエモンテはイエローゾーンになる」と発言。やったー! イエローということは、バールやレストランも営業する、ということ。もういい加減、ちゃんとした服を着て、お化粧もしてレストランなんかに出かけたい、ワインなんか飲みたいよ!
12月7日(月曜日)
イタリアのあちこちで悪天候が続いている。大雨による土砂崩れや洪水で家が流されたり畑がめちゃくちゃになったり。テレビではエミリア・ロマーニャ州(州都パルマ)のモデナが一面泥色の水であふれている光景が流れている。各地の農作物にも深刻な影響が出るほどの雨量ということ。神様はいったい、イタリアをどこまで痛め付けようというのだろう? そんな考えが頭をよぎる。
今日は娘の20歳の誕生日。普通の状況だったら、友達を大勢招いてパーティーをしたり、旅行へ行って楽しんだり、そんな楽しい年頃なのに、家でお母さんとこもっているだけなんて。
↑写真は12月28日のトリノ。今度はイタリア各地で大雪が降って大変なことになっているけど、トリノは少なめ(著者撮影)
12月8日(火曜日)
スキー場は1月6日ごろまでクローズと決まる。テレビのニュースでは、スキー場の宿泊施設など、クリスマス前後の予約だけで年間の35~40%の収益を占めるから、それを失うことは本当に深刻な問題だと言っている。
それにしても、コロナのおかげでイタリアのテレビをよく見るようになった。
12月13日(日曜日)
クリスマスには自由に祝って楽しみたい。その一心でみんなが感染対策を真面目に守ったのが功を奏したのか、ずいぶん状況が落ち着いてきた。RT(実効再生産数)もほぼ1になった。それで今日から私の住むピエモンテ州はイエローゾーン、つまり自分の住んでいる市から、県から、外へ出かけてもいいし、イエローゾーン同士なら別の州に行くこともできる。お隣のロンバルディア州もイエローゾーンになったから、私がミラノにショッピングに行くこともできるってわけ。
そんな、今までだったら普通のことも、すごいことのように嬉しい。
でも、21日からはクリスマス直前で人が集まる危険がある。感染が再度増えて、万が一でも第3波なんてことはありえない、ということで、また居住市町村外への移動が規制される。つまり、この1週間だけが自由に動けるのだ。
だから予想はしていたけど、今日の午後、ちょっとだけ出かけたら、すごい人出。車も人も異様なほど多くて、駐車場も全く見つからない。1週間だけのイエローゾーン目指して人が溢れ出して来たんだ。みんなマスクはしているけど、距離なんて取れない混雑ぶり。
感染したくないから、今週はせっかくイエローだけど、出歩くのはやめにしよう。
↑去年の夏頃、トリノのサン・カルロ広場。誰もマスクなんかしていないのが懐かしい風景。(著者撮影)
12月14日(月曜日)
先週、PCR検査数に対する陽性者の割合が9%台まで下がっていたのに、今日は11%台に戻ったという。昨日からのイエローゾーンで、ミラノも、ローマも、トリノも、コロナなんてなかったかのような激混みの様子がネットでもテレビでも流れていた。その影響が出るとすれば、もう少し先のことだけど。
12月18日(金曜日)
今日の夕方6時に、年末年始の規制が正式に決定するそうで、その前にマンマのそばへ、実家へ帰らなくちゃ!と都会から電車に飛び乗るイタリア人が増えているそう。3月9日、第1波の感染が急激に拡大し始めて、ロンバルディア州がレッドゾーンになるという情報が流れた時、ミラノの中央駅は南へ帰る人で溢れた、あの時と同じ。
ミラノから電車や飛行機で約20万人の人が出発するという。
12月20日(日曜日)
12月24日から27日までの4日間、全イタリアがレッドゾーンになった。つまりロックダウンのクリスマス。今までのロックダウンと同じように、食料品店、薬局などの必要最低限の物を売る以外の店、バール、レストランの飲食店は休業。仕事や健康上の理由、必要なものを買いに行く時のみ外出が可能。その場合も自己申告書を携帯すること。近所を一人で散歩すること、ジョギングするなど一人で行うスポーツは許可される。
ただしクリスマスの特別な例外として、州内であれば、1日1回に限り親戚や友人を訪ねて行くのは許可される。でも人数は最高二人まで。その二人には14歳以下の子供と、障害がある、または介助の必要な人はカウントされない。
例えば私は娘と二人暮らしだから、誰かの家に呼ばれていくことはできる。でもその誰かが三人以上の家族だったら、私が家に呼ぶことはできないのだ。変なのー。
でもとにかく、いつも会っていない人と接触することが感染の可能性を増やし、危険を増大させる、と言われている。
↑ レストランでご飯食べたりしたいなあ。これは一年前、トリノのレストラン「デル・カンビオ」のシェフズ・テーブル。懐かしい。(著者撮影)
私と娘を本当の娘と孫のように可愛がってくれるイタリア人の老婦人がいて、3月からずっと会っていない。いつもは一緒にクリスマスを過ごすのだけれど、高齢の彼女に感染させるのは私も怖いし、彼女も怖いというので
行かないことにした。近所に住んでいる実の息子も、買い物などしてくれたら玄関に置くだけで、家には入らないという徹底ぶりだそうだ。
だから今日、発酵生地の神様が焼いた極上のパネットーネを持って、家に挨拶に行った。エレベーターの降り口にパネットーネを置いて、離れて少しだけおしゃべり。イタリア人だったら、どんなにか抱きしめたいと思うんだろうか?
12月23日(水曜日)
クリスマスを目前に、コロナウイルスの変異種がイギリスで発見されたというニュースで、イタリアもざわついている。まずはイギリスからイタリアへの入国がストップされた。仕事などでイギリスへ行っているたくさんのイタリア人が足止めを食らったというニュース。
一方で、イタリアでも、イギリスと直接の接触のなかった人から、この変異種の感染が見つかったという。
もうすぐワクチンの接種も始まって、これでやっと普通の暮らしに近づきつつある?とみんなが希望を持ち始めた今、こんなニュースなんて。まるで恐怖映画みたいだ。
イギリスの大学へ行っている娘の友人が、クリスマスにトリノへ帰ろうと空港へ行ったら、予約しておいた便はキャンセルになったといわれた。他のエアラインのオフィスに聞いても、イタリアへの国境が閉まったのだからどこもダメ、と言う。
それでもどうしても帰りたい彼は、イギリスから出国できさえすればどうにかなると思い、フランス、ドイツ、ポーランドなどの経由便を探したが、次々と国境は封鎖されていった。仕方がないので船でドーバー海峡を渡ることにして、船のチケットを予約したんだそうだ。それも結局ダメで、戻って来れなかったらしい。
それにしても、たった10日ほどのクリスマスホリデーのためにそこまでして帰りたいんだね、イタリア人のクリスマスは家族で過ごしたい、っていう想いはすごいね、と娘。彼女だって半分はイタリア人なのに。
12月25日(金曜日)
今日はクリスマス。普段なら前夜から色々料理を作り、早起きして一緒に祝う親戚(のような人)の家に急ぐのだけど、今年は集まれないから、娘と二人で、好きなものだけ作って食べることにした。本来ならキリストの誕生日を祝う大事な日だから、1日の最初の食事=昼食が正式なクリスマスディナーなのだけど、昼間にご馳走食べてワイン飲んだら一日中潰れちゃって嫌ね、と娘と話し合い、夕方までは自由行動、夕方からご飯を作って一緒に祝う。
メニューはピエモンテならではの詰め物入りパスタ「アニョロッティ・デル・プリン」。アニョロッティというのはピエモンテの言葉でラビオリのことだが、それを小さく、指先でつまんでパスタを閉じることから「デル・プリン」(手で、という意味)がある。
詰め物は3種類の肉を煮込んだものに、ほうれん草やパルミジャーノチーズを加えてマッシュしたものが王道だから、これだけ昨日作っておいた。
そして夕方から娘と二人で生パスタを打って、詰め物を詰め、茹でて、せーじの風味をつけた溶かしバターであえて食べた。粉だらけになったキッチンのことは忘れたことにして、ワインで乾杯をし、おいしくできあがったパスタを食べ、映画を見て過ごした。
大家族のための大量の料理や大量のプレゼントの準備が必要なかった今年のクリスマス、少人数でシンプルなクリスマスは結構悪くないなあ、そんなふうに思っているイタリア人(特にお母さんたち)は意外と多かったりして。
12月26日(土曜日)
クリスマスの日、ボローニャの94歳の男性が緊急電話112に電話をして「一人ぼっちでクリスマスの乾杯をする相手がいないので、誰かちょっとだけ来てくれませんか?」と頼んだら、カラビニエリ(国家警察隊)が二人、パネットーネを持って駆けつけたそう。イタリアらしくて可愛いニュースにほっこり。
そして今日、ついにイタリアに最初のワクチンが到着した。マイナス75度でワクチンを保存するセラーを積んだトラックで運ばれてきた。テレビのニュースでは「ローマの軍用空港からイタリア各州に届ける分が出発していきます!」と興奮気味のキャスターの声。27日の朝、各地で一斉に最初の接種が行われるらしい。
私個人的には、こんなに大急ぎで作ったワクチンは怖いと思う反面、世界中の最先端科学と巨額な費用を投入して開発したものが、ダメなんてことになるはずがない、だから大丈夫に違いないと思いたい。
どちらにせよ、一般人に順番が回ってくるのは来年の秋頃ということだから、様子を見つつ、まだしばらくはコロナな日々が続きそうだ。
サポートいただけたら嬉しいです!いただいたサポートで、ますます美味しくて楽しくて、みなさんのお役に立てるイタリアの話を追いかけます。