光も影も紙一重のリーグを語る:松井大輔「サッカー・J2論」
松井大輔というと、私はルマン〜グルノーブルに所属していたころの印象が強い。独W杯(06年)前後のイメージだ。当時「海外組」と言うと、まずトップに中田英寿が居て、小野伸二・稲本潤一らの99年のワールドユース準優勝組が、“ポスト・ヒデ”を虎視眈々と狙っていた。そしてWY組の少し年下の松井も、フランスから小野らを飛び込えて、その座を狙っていた。
松井はその後、ブルガリアやポーランド、現在ではベトナムへと転戦したり、プレー面でも、年齢を重ねてから守備的なポジションに挑戦するなど、今なおフランス時代から、変わらぬサッカーへの野心を見せている。A代表からポーランドリーグで体験したという、バスでの10時間のアウェイ移動まで、幅広い経験を基に、J2という、J1ともまた違う独自性を持った、2部リーグについて語っている。
『サッカー・J2論』という題を見ると、堅苦しい印象だが、あまり肩肘張らずに読める。松井本人が体験したことを、飾らずに自分の言葉で話している印象だ。だが軽やかな語り口とは裏腹に、語られるのはやはり、代表やJ1、海外日本人選手たちに隠れた、環境の過酷さだ。インターナショナルマッチウィークどころか、W杯があっても、お構いなしにJ2は開催されたこともある。にもかかわらず、よっぽどのトピックが無ければ、メディアには僅かしか取り上げられない。そうした過酷さは、もちろんファンだってアタマでは分かってはいるけど、京都・磐田・横浜FCと3クラブでJ2のピッチに立った、「当事者」からの言葉は重みが違う。
なかでも、とても言葉の重みを感じたのは、本人も<とても苦い記憶>と振り返る、あの2014年のJ1昇格プレーオフだ。松井の所属している磐田は4位でシーズンを終え、6位の山形をホーム・ヤマハスタジアムで迎え討つ。ドロー、順位上位である磐田の決勝進出で、このまま試合終了となるはずが、アディショナルタイムのCKに魔物が姿を現す。山形のGK山岸範宏が、両者の運命をひっくり返すヘッド弾を叩き込んだのだ。レギュラーシーズンでも、計り知れない深いダメージを受けたであろう形の敗戦を、まさかシーズンの集大成である昇格プレーオフで……。1年間積み上げてきたものが、一瞬で水泡と化した瞬間の、絶望や驚き、虚無感が読んでいるこちらにまで、ひしひしと伝わってくる。
松井大輔が語るのは、J2の「影」の部分ばかりでは無い。J2から、世界に羽ばたいた選手たちについても語られている。香川真司・長友佑都らはもちろん、フッキ・朴智星(パク・チソン)ら、日本代表以外でも、それぞれのA代表に定着した選手も話している。さらにそうしたビッグスターばかりでなく、出場機会を求めて、新卒選手がJ2をデビューの場に選ぶケースも増えてきたという。
確かにJ2は過酷だが、そこからビッグなチャンスをモノにする選手がいる。松井自身も、同い年(81年生まれ)の朴の活躍がきっかけとなって、世界への目を向けるようになったと話していることを考えれば、そうしたチャンスが、若い選手たちの大きな刺激になるのは間違いない。それこそ、松井や朴と京都でチームメイトだった三浦知良は、「日本だって世界なんですよ」という言葉が知られているが、「J2だって世界なんですよ」といったところだろう。
これからもJ2は「影」・「縁の下の力持ち」かもしれないが、その重要性は、より増していくのではないか。本書では語られなかったが、元柏のオルンガのような新しいスターも、続々とJ2から生まれている。ただの「2部」と侮る無かれということを、酸いも甘いも両方、それも深く知る筆者が、丹念に語っている一冊だ。