#読書感想文〜空白の天気図
今回購入した「一万円選書」の中の一冊です。
(2024年7月に当選 ー 6/10)
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「空白の天気図」
(柳田邦男・著)(文春文庫・2011)
柳田邦男さんは、現在88歳の大御所のノンフィクション作家です。
1945年(昭和20年)終戦直後の9月に、原爆で壊滅状態の広島は大型台風に襲われました。
これは、その被害状況を時間をかけて取材して、全貌を掘り起こした作品となります。
オリジナル本は、1975年に出版されています。
私は、柳田邦男作品は、90年代に、ご子息の自死を書いた「犠牲(サクリファイス)」を読んでいますが、いくつかの賞を受賞したこの作品に、当時はあまり良い印象を持っていなかったので、それきり敬遠していました。
今回の「空白の天気図」は、著者がNHKの記者を辞めて、本腰を入れ書き上げた初期の作品ですが、これを読んで、著者に対しての印象が、かなり変わりました。
作品を読んで、驚くべき事実がいくつもありました。
1945年9月の「枕崎台風」で広島県下の死者及び行方不明は2012人にのぼったそうです。
原子爆弾による被害が20数万人で、こちらの数字が驚異的であるため、その後の台風の被害が埋もれてしまったような形になっているとのことですが、2000人を超えたと聞くと、それは相当ひどい数で、何があったのか、とても想像できないです。
そして、そこに焦点を当てた著者は、そのとき、一体広島で、何が起きていたかを、丹念に資料を集めて、読み解いていきます。
この作品を書くにあたり、主に使われたのが、広島地方気象台の職員の方々が必死でつけていた記録です。
当時、原爆で通信網がめちゃくちゃになっていて、気象台の情報を人々に伝える術はなく、市井の人々は台風が来ていることもわからず、何の対策もできぬままなくなってしまったそうです。
街はすでに、原爆で壊滅状態で、台風を避けられるような建物もなく、ただ猛威を振るう強風と雨に翻弄されるだけだったようです。
さらに、原爆の調査で、広島に入っていた、京都大学の調査団が山津波にあい、11人もなくなったなど、初めて知ることで、とても驚きました。
広島気象台の戦時下のようすから、原爆が落とされ、敗戦となり、そして、台風と。
事実を丁寧に書かれていて、当時の状況がよくわかりました。
この作品は、一度、絶版になりましたが、2011年、自然災害の脅威を風化させてはならないとの思いから、復刊されたそうです。
読み応えのある作品でした。