西鹿児島に行ってくるからね！

　幼稚園で、お誕生日が来ると、クラスの皆からメッセージを書いたカードがもらえた。二つ折りの画用紙に思い思いに絵やメッセージを書き、お誕生日の子に先生が全員ぶんまとめてプレゼントする。

　クラスの園児は20人。毎月のように誰かしらお誕生日の子がいたからあれこれ書いていたはずだけれど、自分がどんなふうに書いていたのか全然記憶に無い。

　自分のお誕生日に贈られた、赤いリボンが飾られたお誕生日カードの束は小学生の頃までは大事にとっておいた。仲良しの子やそうでない子のメッセージも一枚一枚ちゃんと読んだと思う。でも、書かれていた内容はまるで覚えていない。——ある1人の子のものを除いて。

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　トシくん、という背が高く髪の毛がいつももじゃもじゃした男の子は、同じマンションに住んでいたけれどぜんぜん仲良くなかった。むしろ、少し苦手に感じるくらいの子だった。

　もらったお誕生日カードの束の中から、トシくんのカードをおっかなびっくり開くと、カードいっぱいに描かれた列車の絵の隙間にクレヨンで

「にしかこしまに　いてくるからね」

と勢いのままぐちゃぐちゃっと書き殴られていた。

——「にしかこしま」って、どこ？

　皆が書いてくれたような「たんじょうびおめでとう」も一切ない、まるでお祝いには似つかわしくない言葉に、頭はハテナでいっぱいになった。でも、あまりに「らしい」内容だったから、すごく記憶に残ってしまったのだと思う。

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　「にしかこしま」は「西鹿児島」で、描かれていた列車は「ブルートレイン」。

　トシくんはそれはそれは鉄道が好きで、幼稚園で毎日飽きもせずそのことばかり喋ってる子だった。今で言う「子鉄」だ。東海道新幹線こだまの停車駅をすべて諳んじていたり「〇〇線にのるには〇〇駅で〇〇線にのりかえて〇〇駅で〜」など、多分ほとんどの幼稚園児には（ごめんちょっとなにいってるかわからない……）ということをほとんど一方的に喋っていた。

　私の誕生月は8月なので、皆がお誕生日カードを書いてくれた時期はおそらく夏休み前のはず。トシくんは夏休みに「ブルートレイン」に乗って「西鹿児島」に行く予定があったのだと思う。夏休み前は嬉しくて嬉しくてもう毎日それで頭がいっぱいで、カードに書かずにはいられなかったんだろう。

　最初は「ヘンなの」としか思わなかったが、何度か眺めるうちに、だんだんクセになるというか、普通のお誕生日カードとはちょっと違うけれど、これはこれで喜びを分かち合おうという素敵な祝福のカードなんじゃないかと思えてきた。何より愉快なのは「西鹿児島に行ってくるからね」の言葉のおかげで、東京から遠く離れた自分とは全くゆかりの無い駅の名前が、記憶に刻まれてしまったということだ。

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　その後、トシくんとは、小学校はほぼ縁がなかったけれど、進学した中学校では同じ部活でもあったし、同じクラスにもなって、口下手だけれど電車以外の話題も喋れる案外面白い男子になっていた。

　中学の部活の同窓会で、京都の大学に進学したときいた。それ以来、会う機会も無いが、きっとトシくんの子供も立派な「子鉄」になってるんじゃないかなあ。

　九州新幹線が開業して「西鹿児島駅」が「鹿児島中央駅」に改名すると知ったときにふと幼稚園の時のことを思い出した。

鹿児島中央駅 - Wikipedia

九州新幹線といえば、2011年、全線開通時のこのCM。何度みても涙が溢れて止まらなくなってしまう、素晴らしいCM映像だと思います。このスタートが「西鹿児島駅」改め「鹿児島中央駅」なんですね。いつか新幹線に乗って行ってみたいと思います。

　やんさんの #駅にまつわるエトセトラ 企画。とても自分好みの楽しい企画で、もう1本、参加させていただきました。駅やその周辺自体の話題とは違うのですが…。やんさんありがとうございます。

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