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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#149]114 1年/ニール
ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~
114 1年/ニール
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。今回の討伐隊での冒険者の『サポーター』
・ニコラス(ニール)…前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。今回の討伐隊、王族の『英雄』
・アラン…デニスの後輩のAランク冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしていた。
・シアン…Sランク冒険者。前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役
・デニス…Sランクの先輩冒険者。今回の討伐隊での冒険者の『英雄』
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
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イベントの日に限らずに定期的にバザーを開きたいと、言いだしたのは俺自身だ。
でも情けない事に、討伐隊としての準備と勉強が忙しく、せっかくの初回の企画にあまり携わる事ができず、結局はアランに任せっきりになってしまった。
しかも肝心の開催の日を待たずに、俺は討伐隊のリーダーとして王都を旅立たなくてはいけない。
「俺は準備も参加もできなくて、本当に申し訳ないんだけど……」
珍しく居間で書類を広げていたアランは、いつも俺の前で見せるようなため息をついた。
「まったく…… そう思うのなら、焦って開催する事もないでしょうに」
「だって、戻ってからだといつになるかわからないじゃないか……」
「まあ、最後くらいは貴方の頼みを聞きますよ」
アランが書類から視線を離さずに口にした言葉に、目を見張った。
「え? 最後って……?」
俺の驚いたような口調に気付いたのか、アランも顔を上げてこちらを見た。
「私の教育係の仕事は、貴方の成人までですから」
それだけ言って、また書類に視線を戻す。
「ああ…… そう、だったよな……」
アランが一緒にいるのが、当たり前になっていて、すっかり忘れていた。
俺の、成人の誕生日はもう過ぎている。だから本当なら、もうアランがここに居る理由はないんだ。
「……これから、アランはどうするんだ?」
「ただの騎士に戻ります」
今度は顔を上げずに言った。
「なあ、俺が魔王を倒して、ここに戻ってきたら――」
「ニコラス様」
俺の言葉をアランが遮った。
「貴方が帰る場所は、もうここではないんですよ」
「え……?」
「もう貴方は『田舎の貧乏貴族』のニールではありません。帰る先は王城でしょう? この家はケヴィン様にお返しする手続きをしております。ニコラス様の荷物は王城の新しい部屋に運ばせます」
「で、でもっ。そしたらアランの住む部屋が……」
「騎士団に寮もありますよ。それに……」
アランはちょっとだけ考え込むような様子を見せて、また口を開いた。
「上に、異動の願いを出してあります」
「えっ!? 異動って……?」
「なのでこの仕事が片付けば、王都を離れる事になります」
「じゃあ俺が戻って来ても、アランはもう居ないんだ……」
何かが込み上がって来て、上手く言葉が繋げない。そんな俺を見て、アランはふっと優しく微笑んだ。
「貴方の教育係というのは、なかなかにいい仕事でした。食事に住むところにメイド付き、個室も寮よりもずっと広い。騎士団の給料と別に、特別手当も頂きました。さらに冒険者としての活動でも、かなり稼ぎがありましたし。まあ、それはデニスさんやシアン様のお陰も大きいですけれど」
そう言いながらも、またアランは書類の文字を目で追い、その下に何かを書き込んでいる。
「だから懐にだいぶ余裕があるんですよ。なので、空気のいい田舎町勤務にでもしていただいて、少し羽根を伸ばそうかと」
今書いた書類を横に置き、新しい書類に手を伸ばそうとして、アランは三度俺の顔を見た。
今の俺は、きっと苦い顔をしている。
「安心してください。このバザーの後始末までは王都にいますよ。その後の事は冒険者ギルドにちゃんと引き継いでおきますから」
「……うん」
「ニコラス様。顔合わせの前に、ケヴィン様の執務室に呼ばれているのでしょう? もう行かなくてはいけないのでは?」
わかっている。こうして黙って立ち尽くしていられるほど、時間に余裕は無い。
「そ、そういえばさ、リリス先生に御礼を言いたいんだけど。俺、あれから会ってないんだ。……騎士団の訓練場に行けば会えるかなぁ?」
「会えるんじゃないですか?」
相変わらず書類に目を通しながら言ったアランの返事が、なんだかそっけなく感じた。
もうアランが一緒に王城に行くことも無いんだ……
わかっていたはずだけど、少し寂しく感じた。
* * *
俺を出迎えた第二騎士団の副団長によると、リリス先生はすでに新しい任務についているとかで、かなり忙しいらしい。
まだ今は王都には居るが騎士団には顔を出していない。近いうちにまた地方に移ると聞いているのだそうだ。
騎士団の中には何人か彼女のファンがいて、泣く程に残念がっているんだと、豪快に笑いながら話してくれた。
爺様――先王ケヴィン様の執務室のソファーに、シアンさん、デニスさんが座っているのはまあわかる。でもリリアンがここに居るのは、なんだか似合わないようにも思えた。
だって、今までのリリアンのお転婆っぷりからは、こんな堅苦しそうな場所には縁がなさそうで。しかも先王の前だなんて、さぞかし緊張しているだろうと思ったら、意外にそうでもないみたいだ。
むしろデニスさんの方が、顔には出さないけれど緊張しているらしい。
「ケヴィン様の御前で、なんでこの二人は気楽にしていられるのか、本当不思議だよ」
と、俺にだけ言った。
「さて、早速だが……」
そうシアンさんが勿体ぶった様に切り出し、俺、リリアン、デニスさん、そして爺様の4人は、揃えた様に顔を向けた。
爺様の執務室なのにシアンさんが音頭を取っている事に、全く問題はないらしい。むしろ爺様はシアンさんに任せているみたいだ。
「ニールには既に講義で話したが、討伐隊は魔王城を目指す前に、神器を集める。これは俺たちの代だけでなく、その前からずっとそうだったらしい」
「神器?」
デニスさんがそう訊きながら、微妙に首を傾げた。
「ああ、これについて我々王族は仔細を知らない。シルディス神からの神託によると、聞いているが……」
「表向きは、ですね。でも、これがまた馬鹿馬鹿しい事に、神器を持って来てそこで終わりというようにはならない。また次、また次にと別の神器を集めさせられる」
シアンさんは、皆を見回して言った。
「いったい、何の為だろうな?」
……勿論、誰からも答えは返されない。
「理由はわからんが、本来なら俺たちにそんな事をしている余裕はないはずだ。魔族たちは今にもこの国に迫ろうとしているんだからな」
「なるほど」
デニスさんが、腑に落ちたような表情で言った。
「だから、ああして幾つもダンジョンを回ったのか」
「その通りです」
今まで静かに聞いていたリリアンが、やけに大人っぽい口調で言った。
「集められる神器はすでに、俺たちで集めてきた。あとはおそらく領主や貴族たちが持っている物ばかりだ。すぐに集められる」
ニヤリと笑いながら言ったシアンさんの言葉に、爺様はふむと髭を撫でながら頷いた。
リリアン、デニスさん、シアンさんの3人は、俺たちとケンカ別れをしてから、スゴ腕の爺さんに稽古を付けてもらっただけでなく、あちこちのダンジョンを巡って神器を集めていたのだそうだ。
当然、ダンジョンボスもたくさん倒したそうで…… そりゃあ、リリアンのランクも上がるよな。
勿論リリアンにはそれに見合った実力がある事も、闘技大会を見ていてわかっている。でもこの短期間でこれほどの経験値を貯められたのは、そのダンジョン巡りの成果も大きいんだろう。
「今日この後に、『勇者』や教会の『英雄』たちとの顔合わせがある。その後に、教会から神器の話があるはずだ。俺たちはのんびり旅をするつもりはない。話は俺が進めるから、皆には俺たちがすでに神器を集めている事を了承しておいてほしい」
そう言うと、シアンさんはなぜかリリアンの方を見て言った。
「今度こそ魔王を倒そう」
* * *
顔合わせの為に謁見の間に向かう廊下の途中で、隣に並ぶシアンさんに話しかけた。
「なあ、シアンさん」
「なんだ?」
「シアンさんは…… アシュリー様の『サポーター』で、でもその前からアシュリー様とパーティーを組んでいた仲間だったんだろう?」
「ああ、そうだな」
「もしも『サポーター』になれてなかったら、もうアシュリー様とは仲間じゃなくなってたろう? そうしたら、シアンさんはどうしてた??」
シアンさんは少しだけきょとんとしたような顔をしたが、すぐに崩れていつもの表情になった。
「というか、俺は『サポーター』になれるはずじゃなかったんだ」
「そうなの?」
「闘技大会で俺は4位だったからな。本来なら2位のヤツがなるはずだろう?」
「ああ……」
そういえば、確かにそんな話を聞いていた。
「結果的には『サポーター』になれたから良かったけどよ。でも、そうだな…… なれていなかったら、郷里にでも帰ってたかもしれねえな」
「なんで? シアンさんくらい強ければ、王都の冒険者でも充分にやっていけるだろう?」
「たった1年だったけどよ。アッシュといた時間が俺には当たり前になりすぎててさ…… いつもの場所にいるのに、アッシュと一緒に居ない俺なんて考えられなかったからな……」
そう…… だよな……
シアンさんの話を聞きながら、アランと過ごした1年間を思い出していた。
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(メモ)
バザー(#100)
(閑話4)
リリス(#63、#88)
魔王(#77、Ep.5)
(Ep.12)
<第1話はこちらから>
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