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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#107]84 イケメン/シアン

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

84 イケメン/シアン

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、英雄アシュリーのサポーターをしていた。前の旅でリリアンの前世を知った。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・ルイ…前・魔王討伐隊の一人で、神の国から来た『勇者』の少女。シアンに好意を抱いていた。
・クリス…前・魔王討伐隊の『英雄』の一人で、一行のリーダー。当時の第二王子
・メル…前・魔王討伐隊の『英雄』の一人で魔法使い

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 前世の記憶があって良かった事の一つに、幼い頃から文字が読めたという事がある。

 幸いにも育った家には代々伝わった大きな蔵があり、そこに投げ込まれていた過去の「拾い物」の山――特に書物は、私の知識を深めるのに大いに役にたった。

 しかし、それでも欲しい情報には足りなかった。
 6歳の誕生日に、ここ数年の人間の国の事が記録されている本をねだった。

 そして、クリスの死を知った。

 アシュリーは……あの時に命を落とした。
 でも仲間たちは、魔王を倒して本懐ほんかいを遂げ…… そして各々おのおの望んだ人生を過ごしているのだろうと、そう思っていた。

 思って、いたのに……

 たまらず、兄に全てを打ち明けた。
 突拍子もない私の前世の話を、兄は全て受け止めてくれた。

 * * *

 元々、勉強は得意だった訳じゃない。のだと、思う……

 残念ながら、前世の幼い頃の記憶が私の中にはない。
 私が覚えているのは、あの大事な仲間たちとの旅の間の事ばかりだ。どうやら全ての前世の記憶を持っている訳ではないらしい。
 しかし、それでも十分だった。

 得意ではないと言っても、一度は大人になった身に子供の勉強はぬるかった。本来なら15歳で終える勉強を13で終えた。
 それから1年は狼に成りすまして、国々を巡った。

 14になる頃に、人間の国の王都シルディスにおもむき、冒険者見習いになった。

 前世で縁があった少年の、将来が気になったのもある。純粋に馴染みの場所に足が向いたのもある。
 昔の古巣の、西地区の冒険者ギルドでの少年と再会した。
 あの頃私を見上げていた幼い少年は、見上げる程の立派な青年になっていた。

 前世の仲間と拾った狐獣人の少女も、今は笑顔で給仕の仕事をしていた。
 ちょうどその給仕の手伝いに空きがあり、住む場所と仕事を併せて見つける事ができた。

 * * *

 冒険者の見習いとして活動しながら王都の図書館に通い、人間の国の歴史を調べた。

 神代の時代からこの国は幾度となく魔王を倒し続けてきた。
 その度に神の国から勇者が召喚され、人間の国からは英雄が選出される。

 魔王討伐隊はまず、魔王を倒す為の神器を集める。
 それらはダンジョンの奥深くに眠っている。もしくは、険しく高い山の頂にある事も、湖の底に沈んでいる事も、ある家に代々伝わった物だった事もあった。

 東へ向かい、北へ向かったと思えば今度は西に向かい、ぐるぐると国中をまわってまた王都に戻る。
「スタンプラリーみたいね」
 そう、ルイは言った。

 ルイの国にはそういう「遊び」があるのだそうだ。指定された場所へおもむき、そこに提示された証を集め、全てを回って集める事で完了とする遊びが。

 私たちがしているのは遊びではない、これは大事な任務なのだ……

 なのに、何故……

 過去の記録を調べると、幾度かは同じ場所で神器を入手している。
 その場所の神器は過去の勇者の手により、持ち去られたはずではないのか?
 ならば、何故またそこに置いてあったのか? 新たな神器なのか、それともそこに戻されたのか??

 何故、私たちはわざわざ神器を集めさせられたのだろうか?

 * * *

 魔族領に入ってしばらくすると、今まで使えていた魔道具が、そして教会の魔法が使えなくなった。
 ケヴィン様に尋ねると、彼が英雄として旅をした時にも同じ事が起きていたそうだ。

 ならば何故、それは我らに伝えられなかったのだろうか?

「語ってはいけぬ事、そう思い込んで…… いや、思い込まされていた様だ……」
 そうケヴィン様は仰った。
 伝えられなかった事は、魔族領の情報だけではない。魔族の事、魔王の事、神器の事、そして世界の事……

 私が見つけた、過去の勇者が綴った手記には、それらの秘匿ひとくされた情報が書かれていた。

 彼らの手記は解かれる事もなく、教会の図書館に隠されていた。
 きっと誰も読めなかったのだろう。神の国の文字は非常に多く、複雑で難解だ。繰り返し出て来るいくつかの語彙ごいを拾う事はできても、おそらくその程度が限界だろう。

 開いて見ればなんて事のない、ほとんどが日常の呟きだった。
 食べ物が合わない、生活が不便だ、魔獣が怖い。そんな不平を手記に書き落とす。そして、時には淡い恋心をも。

 それを聞いたケヴィン様が、わずかに悲し気な目を見せた。

 元勇者カナエ様の日記を見つけてから、私もそれを読ませていただいていた。
 彼女と彼が、どれだけ互いを大切に思っていたか、嫌という程にわかっている。

 だから、この先を告げるのは、つらい……

「……教会の図書館には…… おそらく勇者たちの所持品と思われる物も、隠されていました」

 そう告げると、ケヴィン様とシアは揃えた様に怪訝けげんな顔をした。
 何故にと、口に出さぬとも思っているのがわかる。

「私たちの代の勇者――ルイの大事な魔道具も、この世界に残されていたのを見つけています」

「持って帰らなかった、という事かね?」
「いいえ、『持って帰れなかった』という事だと、そう思っております」

 静かに、息を吐いて続けた。

 俺は『イケメン』ではないのだと、ルイはそう言った。

 『イケメン』というのはルイの国の言葉で、カッコいい男性の事を指すそうだ。
 俺はカッコよくねえって事かよーと言うと、「シアくんはどちらと言うと『イクメン』って感じかな」だと。じゃあ『イクメン』って何だと聞くと、育児や家事を率先してやる男性の事だそうだ。
 そしてルイの国ではそういう男性も結構モテるらしい。

 俺が雑事をやっていたのは下っ端だからであって、この国ではそれでモテるなんて事は無い。金がありゃ人を雇ってやらせりゃいい事なんだ。
 でもそんな風にフォローしてくれるルイは優しいんだなと思った。きっとルイは『イケメン』よりも『イクメン』の方が好きなんだろうな、とも。

「ありがとな、ルイ。お前も自分の国に帰ったらちゃんといい男捕まえるんだぞー」
 そう言っていつものように頭を撫でると、ルイが片頬を膨らせて何故かねたのを覚えている。今になってみれば、ルイが拗ねていた理由も…… 多分、わかる。

 俺は『イケメン』じゃないにしても、討伐隊仲間のクリスとメル、あの二人は明らかに『イケメン』だったろう。二人とも背が高く顔もいい。
 金髪碧眼のクリスは、この国の当時の第二王子でもあって、国中の若い女性がヤツのファンだと言ってもいいくらいの人気だった。
 そのクリスに対抗してか、教会が秘蔵っ子のメルを『英雄』として据えてきた時には、クリスのファンの半分近くはメルに鞍替えしたんじゃないかと世間で噂された程の人気っぷりだった。黒髪で物静かで、陰のある雰囲気がまた良いらしい。

 金髪のイケメン。黒髪のイケメン。
 そこにもう一人並べるとしたら、銀髪か茶髪か?

 その銀髪のイケメンが今俺の目の前に居る。居ると言うか、立っている。
 そいつは『樫の木亭』に入ってくると、席に着く訳でもなく、きょろきょろと誰かを探しているようだった。
 待ち合わせでもしているのか。まあそういう事はよくあるし、その位では目立つ理由にはならない。

 こいつが目立つのは獣人だからだ。
 この国は元々人間の国で、獣人を多くは見かけない。獣人の冒険者も居ることは居るが、30人集めて一人居るかどうかというくらいだろう。
 見た感じ狼の獣人で、しかも戦士なのだろう。皆の物珍しげな視線からすると、ここの常連でもないらしい。だとすると旅のヤツか。

「いらっしゃいませ。待ち合わせですか?」
 人を探す様子に気付いたミリアが声を掛けると、獣人男はいやと少し戸惑う様子を見せた。
 
 ちょうど厨房から出てきたリリアンが獣人男に気付くと、驚いた様に目をまんまるくさせた。
「あれー? こんなところでどうしたの?」
 にこやかな笑顔でそいつに歩み寄る。

「うん? あいつ、リリアンの知り合いなのか?」
 つい口から出た声で、向かいのデニスが顔を上げ、振り向いた。

 それと同時に、その獣人男がリリアンを強く抱きしめるのが見えた。

「「!?!?」」

 ちょっ! 待てよ!!
 あいつ、リリアンの知り合いか? いや、知り合い程度でいきなり抱きしめたりするか? もしかしたら彼氏とか……
 確かに好きなヤツが居そうな事は言っていたが…… でも、もう会えないと聞いたはずだ。
 俺はてっきり、あれはメルの事なんだと思い込んでいたが、そうか獣人の国に置いてきたって可能性もあったのか?

 そんな考えがえらい速さで頭を駆け巡った。

「リリ!! 会いたかったよ! 元気してた? 嫌な目にあったりしてない?」
「もー、カイルってば大袈裟おおげさー 先月会ったじゃない」
「会ったって言ったって、ほんの少し顔を出したくらいじゃないか!」

 なんだか二人に温度差があるようだが、どうにも気になりすぎて目が離せない。
 向かいのデニスも同じようで、振り返った体勢のままで手にしたフォークにはソーセージが刺さったままになっている。

「リリちゃん、そちらはどなた?」
 ここに居合わせたヤツら皆が聞きたいだろう事を、おかみさんのシェリーさんが代弁するように聞いてくれた。

「私の兄のカイルです」
 にっこり笑って言うリリアンに合わせて、獣人男はシェリーさんに向けて丁寧ていねいなお辞儀をした。

「あれ? リリアンと毛色が違うよな?」
「いや…… リリアンは黒毛だけど、灰狼族っていって銀毛の一族なんだって言ってたぞ」
 ぽつりと呟いた疑問に、ようやくソーセージを口に運んだデニスが答えてくれた。

 食事を再開しながら眺めていると、カイルと呼ばれた獣人は困ったような顔をして、リリアンに耳打ちをしている。
 リリアンの口が明らかに、え?という形に動き、耳と眉が下がった。そして彼にこそりと何かを告げ、手で制止するような動作をする。
 うなずいた彼をそこに置いて、次にリリアンはカウンターにいるシェリーさんの方に向かった。

 シェリーさんから何かの承諾しょうだくを得たらしいリリアンが、今度はこちらに真っすぐ歩いてきた。

「シアさん、ちょっと付き合っていただけませんか?」
 デニスじゃなくて、俺に用があるらしい。頼られなかったデニスが、ちょっと顔をしかめたのが見えた。

 * * *

 リリアンにぐいぐいと腕を引かれ、店の裏手に連れていかれる。横を歩くカイルは、あきらかに不快そうな顔を俺に向けた。
「僕のリリアンに馴れ馴れしくするなよ」
 いや、どう見ても腕を掴まれているのは俺の方だろう?

 店の裏に回ると、水場の脇に二人の男女が座り込んでいた。あいつらも獣人か。
 彼らはこちらに気づくと、立ち上がって手を振る。

「あ!! シアンおにいちゃん!!」
 聞き覚えのある、無邪気な声がした。

 白い毛並みを持つ二人の狐獣人……いや、あいつらは獣人じゃねえ。あれは高位魔獣が獣人に化けているだけなんだ。

 ……タングスとシャーメ。なんでこいつらがここに居るんだ?

 * * *

「だって、私たちだけじゃ人間の国に行っちゃいけないって、ドリーが言うんだもん。でもおねーちゃんが居ればいいって言うから。じゃあ、おねーちゃんのお兄ちゃんならいいよねって」

 やばい、シャーメの言ってる事が半分しかわかんねえ。

 さっきリリアンがシェリーさんに頼んでいたのは個室の使用許可らしい。
 10人程度で使う広さのこの部屋に居るのは…… 俺以外は見た感じは獣人だらけだ。確かにこのメンバーではホールじゃあ目立ちすぎるだろう。

 リリアンは黒毛の狼獣人だ。
 そこにリリアンの兄貴のカイル。彼は銀髪の狼獣人で、黒毛のリリアンとは雰囲気が全く違う。同じ歳だと言っていたが、兄貴の方がいくらか大人びている。いや、リリアンが幼く見えるだけかもしれない。
 そして、シャーメとタングス。二人は白髪はくはつで、見た目は成人の狐獣人だ。でもその正体は3本の尾を持つ仙孤せんこの兄妹で、今は尾の2本は隠して1本に見せている。
 俺だけが獣の耳も尾も持っていない。いや、この町ではこっちの方が多いはずなんだがな。

「リリアンに会いに行こうと思って、国境を目指していたんだ」
 そう口をひらいたのは、カイル――リリアンの兄貴だ。彼はまだ若いのに銀狼の一族の族長なのだそうだ。

 一族をほっぽって人間の国にまで来ていいのかよ?って思ったけれど、それはいいらしい。
「可愛い妹と族長の仕事と、どっちが大事かなんて決まってるだろう?」
 って。いや、普通は族長の仕事じゃねえのか?

 つまりカイルは人間の国を目指して国境近くに辿り着いたところで、シャーメとタングスに捕まったらしい。
 見知らぬ同士ではなく面識はあったそうだが。どうにも聞いている話の雰囲気だと、二人が有無を言わさずに彼に付いてきたようだ。
 でもって、タングスとシャーメは保護者無しでは国境を越えたらダメだと、ドリーってヤツに言われているらしい。俺の知らない名前だが、リリアンはそいつを知っている様だ。

「……せめて、連絡の一つくらい寄越よこしてくれればいいのに」
「おねーちゃんをビックリさせようと思って!」
「……本当、驚いたわよ……」
 リリアンが、肩を落としてふぅーーっと大きなため息をついた。

 ホールとこの部屋を隔てる扉を軽く叩く音がした。リリアンが扉を開けると、デニスが申し訳なさげな顔を覗かせる。
「あーー、シアンさん。食いかけのメシ、こっちに持って来ようか?」
 そうは言ったが、この部屋を覗く為の口実だろう。俺に話しながらも、視線は他のヤツらに向いている。

「ああ、気が利かなくてごめんなさい。皆もお腹すいてるよね。ご飯にしようか」
 リリアンがそう言うと、仙狐兄妹――とくにシャーメは、パッと顔をほころばせて尻尾をぶんぶん振った。

「デニスさんも、よかったら皆で一緒に」
 それを聞いて、デニスもホッとした顔になった。

 リリアンが今日の日替わり定食を用意してくれている間に、互いの紹介をした。もちろん、仙狐たちには狐獣人という事にするよう言い含めたが。
 俺の名前を聞いて、リリアンの兄貴が一瞬不機嫌そうな顔をしたのがちょっと気になった。

 そして、たかがメシを食うだけなのに、席の取り合いで揉める事になるとは思わなかった。

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(メモ)
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。やや(?)シスコン気味。
・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄。前・魔王討伐隊たちとは顔見知り
・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。

 ルイ(Ep.9)
 拗ねた理由(#77)
 クリス(Ep.8)
 メル(Ep.3)
 カイル(#18)
 シャーメ、タングス(#29、Ep.10)


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<第1話はこちらから>


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