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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#082]閑話4 聖夜祭

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

閑話4 聖夜祭

※本編は夏ごろの話ですので、時系列に沿っていない話になります。ご了承下さい。

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(1年前)

「この辺りに置けばいいですか?」
「ありがとうございます。すいません、男手がないもので…… 助かります」
「いいえ、どうぞ私でお役に立てる事でしたら、なんでもお言いつけ下さい」

 納戸から出して来たツリーは、貴族の家に置くものにしてはいささか控え目なものに思えた。いや飾り付けをしていないからそう思えるだけだろうか?
「せっかくだし、皆で飾り付けしましょう」
 そう言って、奥様はにこりと笑った。

「聖夜祭の夜はご馳走を作ります。アランさんはどんな料理が好きですか?」
「あの…… 私の事はアランとだけ、お呼びください。あと私などにそのような丁寧ていねいな言葉を使われなくても……」
 ここに来たときから、彼女の口調はずっとこんな感じだ。

「あ、ああ……」
 何故か奥様は気まずそうな顔を隠す様に、口元に手を当てた。
「……すまない、あの口調でないと、ボロが出るんだ……」
「ボロ…… ですか??」
「女性らしくないと、よく言われる」
 そう言ってばつの悪そうな様子で目をらせた。確かにさっきと違い、今の口調では婦人と話すと言うよりも先輩か仲間と話している様だ。

「なんとなくですが、その方が貴女らしい気がします」
 私の言葉で、彼女はふっと微笑んだ。
「ありがとう、アラン。実はちょっと慣れない話し方で落ち着かなかったんだ。楽にさせてもらうから、お前ももっと楽にしてくれ」
 これからは家族になるんだからと、そう彼女は言った。

 この家の一人息子のニール様は、生まれてからずっとこの田舎町で過ごしていたが、次の春の前に王都にきょを移す事となった。
 その彼の教育係として、どういう理由かは判らないが私が選ばれた。王都に行く前に、少しでも彼と親睦を深めておこうとこの土地に来たのだ。
 だから私にとっては、これも仕事の一環なのだが……
 でも家族と言う言葉を聞いて、少し温かい気持ちが沸いた。

 奥様に呼ばれて部屋から出てきたニール様は、私も一緒に居る事を知るとあからさまに不機嫌そうな顔を見せた。おそらく私に対しての当てつけなのだろう。
 それでも奥様に言われると、不貞腐ふてくされる訳でもなく素直にツリーの飾り付けをはじめた。私にはあんな態度だが、奥様の事は本当に好きなようだ。根は優しい少年なのだろう。

 飾り付けたツリーは華やかにはなったが、何か物足りない様な気がした。
 なんだろうか……?

「お母様、てっぺんの星が無いようですが……」
 ああ、そうだ。ツリーのつきものの飾りが不足している。飾り物が仕舞われていた箱を覗くと、隅に転がっていた星を見つけた。

「これでしょうか?」
「俺がつける。邪魔をするな」
 差し出した私の手から、ニール様は星を奪い取って強い口調で告げた。
「邪魔はしません。でも梯子を抑える事はお許しください」
 そう言うとニール様は少し意外そうな顔をした。
「あ…… ああ」

 てっぺんに星を付けると、最後にツリーのそこかしこに飾られた魔法石に手分けをして魔力を補充する。すると魔法石がキラキラと輝いて、ツリーをより一層きらびやかに飾り立てた。
「綺麗だな」
 誰にでもなく投げかけた奥様の言葉に、ニール様はようやく満足そうな笑みを見せた。

「ニール、少し一緒に散歩をしよう。上着を取ってきてくれないか?」
 奥様がニール様にそう頼むと、彼は喜んで駆け出して行った。

 彼の姿が見えなくなると、彼女はこそっと私に話し掛けた。
「すまないな。あの子にも色々と考えている事があるのだろう」
 ニール様のあの不機嫌な態度の事を言っているのだろう。でも私なりに思った事もあった。
「……貴女とニール様の、二人の邪魔をしていると思われたのでしょうか?」
「というより、寂しくなったんだろうな。アランが来て、自分が王都に行く事を実感したんだろう」
 ……ああ、成程。彼にとって、私は自分を母の元から連れ去る使者でもあるのだ。

「それでも自分で決めた事でもあるから、ああやって意地を張ってみせてるんだろうな。でも、あの子はあの子なりに、アランに会えるのを楽しみにしていたんだよ」
「楽しみ……ですか?」
「あの子には兄弟がいないからな。兄ができるような、そんな気分でもあるんだろう」

 ぱたぱたと元気な足音が聞こえ、振り向くと厚地の外套コートを羽織ったニール様が奥様の外套を抱えて駆けてきた。
「すこし、彼の機嫌をとってくるよ」
 そう小声で私に告げると、どこまで行こうか?とニール様に向けて張りのある声を上げた。

「ここを片付けておきます。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
 礼をした私に向けた、ありがとうの声の後に、行ってきますとくぐもった小さな声が聞こえた。

 ……最初に思った程には私は嫌われていないのかもしれない。
 二人の背中を見送りながら、家族になるんだからと言われた事を思い出していた。

 * * *

(17年前)

 王都に来てから、何もかもが初めてだらけだった。
 いや、王都に来る前からも初めて尽くしだ。旅なんてした事もなかったし、あんな恐ろしい魔獣を相手にした事もなかった。宿に泊まるのも初めてで、そして商売女以外の女性と同じ部屋に泊まった事も、同じベッドで眠った事も、そんな事は今までにはなかった。

 その初めての女性は今俺の隣を歩いている。

 聖夜祭のイルミネーションが大通りをきらびやかに飾り付けて、まるで町中が夢の世界になる魔法にでもかかったようだ。
 恋人たちもいつもより嬉しそうに手を繋いで歩いている。普段は日中でもこんなに人が居る事はないのに、今日が特別な日だと言わなくてもわかる程に人混みで溢れていた。

 ちらと横を見ると、彼女の柘榴石ガーネットの瞳に町の灯りがキラキラと映っていて、その横顔に心が跳ねた。

 ああ、綺麗だ……

 思わず見惚みとれていると、こちらを見た彼女と目が合った。
「どうした? シア」
 尋ねられて正気に返った。
「あ、いや…… なんでもない。すごい人だな」
 そう誤魔化ごまかすと、彼女もそうだなと、俺の言葉に合せるように言って微笑んだ。

「こんなに人が居たら、はぐれてしまいそうだな」
 そう言った彼女の言葉に、誘われるように彼女の手をとった。
「……シア?」
「いや、はぐれたら……いけないと思って……」
 余りにも見え透いた言い訳だろう。本当は彼女と手を繋ぎたかっただけだ。
 でも彼女は何も言わずに、その手を少しだけ握り返してくれた。

 彼女は聖夜祭の特別な料理を食べた事がないのだと、そう俺に言っていた。俺だってそんなご馳走を食べた事はない。でもちょっといい顔をしてみせたかったし、彼女の喜ぶ顔も見たかった。
 だから今日の夕飯はいつも俺ら冒険者が行く定食屋なんかでなく、ちょっと洒落しゃれた店でと思って彼女を連れ出したのだ。でもどうにも考えが甘かったみたいだ。にぎやかな通り沿いの店は、どこもかしこも満席だった。

 大通りの外れまで歩いても、結局入れるような店は一軒もなかった。
 諦めて引き返そうかと思った時に、一番外れの店から丁度二人組が出て来るのが見えた。今なら席が空いているかもしれない。客を見送りに出て来た店員に思い切って声を掛けた。

「今から二人入れますか?」
「すいません、お席はありますがカラクンローストが終わってしまいまして。他の料理ならお出しできるのですが、それでもよろしければ……」
 そう申し訳なさそうに言う店員の言葉に失望した。定番のカラクン鳥がなけりゃ、聖夜祭ディナーとは言えないだろう。

 仕方ない他を探そうと思ったところで、彼女が繋いだ手を軽く引いた。
「シア、ここで食べよう」
「え、でも……」
「聖夜祭は来年もあるだろう? カラクン鳥はその時でも食べられる」

 ほんの少し微笑んで彼女が言った、その言葉に耳を疑った。
 来年も…… 俺と一緒に居てくれるのか……?

 店員の言った通りにカラクン鳥はもう無かったが、おススメ料理のウズラの詰め物ローストを彼女はとても気に入ったようだった。
 シチューのパイ包みがどう食べていいかわからず、給仕を呼んで教えてもらったが、上手くパイの部分が崩せずに二人とも焦ってしまって、互いを見て二人で笑った。

「こんな聖夜祭を過ごしたのは初めてだ。シア、ありがとうな」
 そう言って微笑んだ彼女と、帰り道もはぐれない様にと言い訳をして手を繋いだ。イルミネーションと人の多さを理由にわざとゆっくりと人混みを歩いても、彼女の手が俺の手から離れる事はなかった。

 聖夜祭が過ぎてもずっと彼女と手を繋いでいたいと、そう願った。

 * * *

(???年前)

「ねえ、君はクリスマスって知ってるよね」
「そりゃあ知ってるわよ。私の国ではほとんどの人がクリスマスを祝うもの」
「これって神様の誕生日なんだってね。多くの人に祝ってもらえるなんて、きっと素晴らしい神様なんだろうね」

 ギヴリスはニコニコしながらそう言った。
 きっと本心では羨ましいのだろう。彼は誕生日を祝ってもらうどころか、良い事をしても褒められたり讃えられたりした事もない。

「神様じゃあないわね。神に仕える人……かしら?」
「それって、大司教みたいな人?」
「まあ、そんなイメージでいいんじゃない?」

 合っているかどうかわからないような、適当な答えを口にしたけれど、彼にはさして重要な事ではなかったようだ。すでに興味は別に移っているらしく、私の国から持ってきた本を興味深そうにあれやこれやと広げている。どうやら今は料理に目が行っているらしい。

「ねえ、ターキーだって、おいしそう!」
「ギルは食べる事ばかりねぇ」
「だって、君が作る物は何でも美味しいんだもん。こないだのマフィンも美味しかったよ」
 そうは言うけれど、私たちは別に食べなくても死ぬような事は無い。ギヴリスが美味しい物を食べたいのは、心を満たしたいからだと言うのを私は知っている。

「この国にもクリスマスがあっても良いんじゃないかって思うんだけど」
「それは貴方の誕生日? それとも大司教か国王の誕生日?」
「いやいや、誰かの誕生日じゃなくてもいいからさ。こうやって町を飾り付けて、皆でお祝いをして、美味しい物食べてさ。大事な人たちと互いに感謝して過ごす日が、あったらいいんじゃないかなって思ってさ」
 そこまで話して、彼は恥ずかしそうに目をらせた。
「……それとさ。僕もこんな風に君と過ごしたいな」

 確かにこの国で行われるイベントであれば、私たちも人のふりをして混ざる事ができるだろう。そうやって人々と当たり前に過ごす事も、彼のささやかな楽しみの一つでもあるのだ。
 それにしても、私は彼の恋人なのだから今更そんな事で恥じらう事はないのに。でもその姿がとても愛おしく思えた。
「そうね」
 そう言ってそっと彼を背中から抱きしめる。こちらを振り向いた彼と、肩越しに口づけた。

 こうして二人で過ごせる時間は、とても幸せでとても嬉しい。
 今度こそ彼と離れずに居られますようにと、私たちが祈るとしたら何に祈ればいいのだろうか。

 * * *

 (??後)

 聖夜祭は神と身近な人々に日頃の感謝を表す祭りだ。1年が終わる少し前に、その年を締めくくる行事の一つとして行われる。

 祭りを一緒に過ごす相手は、家族や恋人同士というのが一般的だが、私たちみたいに仲間や友人同士で集まる事も少なくない。
 今年の聖夜祭は、日中の『樫の木亭』でささやかなパーティーをする事にした。

 先日、『樫の木亭』で毎年使っているツリーを納戸から引っ張り出してみたところ、大分年季が入っていて古ぼけて来ていた。使えなくはないが、聖夜祭の夜には店の看板代わりにもなるものだ。昼に場所をお借りするお礼代わりに皆で新しい物をしつらえようと言う話になり、ニールとアランさんに都合してもらう事になった。

「やっぱりてっぺんに星があるやつがいいよなーー」
 ニールがそう言ってやたらはしゃいでいて、何故かアランさんがふふっと小さく笑ったのが聞こえた。

 聖夜祭の当日にニールが持ってきたのは、納戸にあった物より一回り程大きく、作りもしっかりしていて枝ぶりもいい、見るからに良い物とわかるツリーだった。
「どうだーー 立派だろう」
 ニールが自慢げに言った。

 だけど、これだけのツリーだとそれなりに値も張っただろう。心配になってアランさんの方を見ると、諦めたような顔をして言った。
「ニールのお爺様が張り切ってしまいまして…… どうにかお止めして、この程度の物にしてもらいました……」
 ニールの友人へのプレゼントとして贈って下さったそうだ。だからツリー代は気にしなくていいですよと、アランさんは言った。
「今度お返しに、何か皆で狩ってこようぜ」
 シアさんがそう提案し、皆でうなずいた。このツリーは有り難く使わせていただく事にした

 一通り飾り付けをした後で、今度は皆で持ちよったお菓子やプレゼントをツリーに飾って行く。ツリーに飾るのは神への贈り物だ。それが多いほど神への感謝の気持ちを表している事になる。

 贈り物が飾られたツリーは、朝になると今度は玄関先に飾られる。聖夜祭の翌朝、子供たちはそこから『神様のおすそ分け』を貰える事になっている。但し貰える物は二つまで。欲張らずに両の手で持てるくらいの幸せを、といういわれらしい。
 ツリーの贈り物が全部なくなれば、全てを神に受け取ってもらえたという事になるので、持ち主は張り切って子供の喜びそうなものを沢山飾るのだ。

 デニスさんとシアさんは、ロディさんの店でラスクやクッキーを買ってきた。ツリーに飾る事を伝えたところ、ロディさんの奥様が1個ずつ包んで色とりどりのリボンをかけてくれたそうだ。

 ミリアちゃんは、女の子が喜ぶようなリボンや髪飾りをいくつも作って用意していた。お菓子を飾るツリーは多いけれど、こうした可愛い小物が飾られるツリーは珍しい。ミリアちゃんの小物を目当てに『樫の木亭』のツリーを覗きにくる女の子もいるそうだ。

 私もマフィンを焼いてきたので、ツリーに飾らせてもらう事にした。
「へぇ、クッキーとかじゃないんだ? これリリアンが焼いたのか?」
 ニールが興味深い様子でマフィンを手にとった。
「うん。クッキーもいいけど、たまには神様もこういうのが食べたいんじゃないかなって思ってねー」
 本当は甘い物は何でも好きそうだけどね。
「これは腹持ちがいいから、喜ぶ子もいそうだなぁ」
 そう言ってデニスさんも褒めてくれた。

 パーティーのテーブルに並ぶメニューは、いつもと大きくは変わらないけれど、でも皆で祝う特別な日というだけで、いつもより美味しく感じるから不思議だ。
 ロディさんの店で買ってきた一口大のサンドイッチが大皿一面に並んでいる。今日のサラダにはカリカリに焼いたベーコンをのせた。これなら皆野菜もしっかり食べてくれるだろう。メインディッシュは定番のカラクン鳥のローストだ。これは先日皆でピクニックがてら狩ってきたものを、マーカスさんの店で丸ごと焼いてもらった。

 私の作ったシチューのパイ包みを見て、シアさんが目を輝かせた。
「おお、いいな。聖夜祭らしい気がするな」
 上機嫌で言った言葉に、デニスさんが首を傾げた。
「そうか? 聖夜祭でなくても食べるけどな」
「なんとなく……な。俺にはそんな感じがするんだよなー」
 そう言ったシアさんは、少し懐かしそうな目をしていた。

 最後のお楽しみのケーキは、ミリアちゃんが作ってくれた。あれだけ色々食べたはずなのに、デザートは追加でも入っちゃうから不思議だ。
 皆で美味しい物を沢山食べてわいわいと色んな話をして、お腹も心もいっぱいになった。

 今年はこうして、皆と1年の締めくくりを迎えることが出来て、本当に良かった。今年は色んな事があったよね。
 また来年もその先もこうして、皆と楽しく一緒に居られたら嬉しいな。


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