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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#075]60 地下室/シアン

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

60 地下室/シアン

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、前『英雄』アシュリーの『サポーター』。35歳のはずだが、見た目がとても若く26歳程度にしか見えない。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの冒険者で、リリアンの先輩。リリアンに好意を抱いている。
・アンドレ/アニー リリアンの家のメイドゴーレム。霧で出来ているので姿は可変。男性形か女性形かで呼び名が変わる。

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「じゃあ、そろそろ私は帰りますね~」
 さっきまでせっせと給仕をしていたリリアンが、俺らの席に挨拶をしに来た。
 ニールはとっくに店の手伝いに立っていて、デニスとアランと3人で他愛もない話をしていたところだ。
「ああ、リリアン。俺の荷物、お前の家に置きっぱなしなんだが……」
 明日にでも受け取りに行くと、そう伝えようとしたが、思わぬ答えが返って来た。

「ああ、そのままお部屋使って大丈夫ですよー」
「……へ?」
「私は先に帰りますけど、アニーには玄関を開けるように言っておきますから」
 ……つまり、俺にまた泊まりに来いって事か?
 気になって横目でデニスの方をみると、朝よりももっと怖い顔をしている。
 そりゃあ、いくら俺が敬愛する兄貴分だとはいえ、惚れた女のしかも一人暮らしの家に男が泊まりこむなんざ、心配にもなるし良い気分もしないだろう。
 しかし、また彼女の家に邪魔させてもらえないかと、どこかで切っ掛けを作ろうと思っていたところではある。

「あぁ、助かる。しかし、いいのか?」
 デニスの表情には気づかなかった事にして返事をすると、別にどうという事はないような素振そぶりで、
「部屋は空いていますし、遠慮なくどうぞ」
 などと、前向きな返事が返ってきた。
 すまねぇな、デニス。でも俺もう一度確かめたい事があるんだ。

「まあ、なら俺も一緒に帰るわ。夜道に可愛い女の子一人じゃ危ないしな」
「おい! リリアン、本気か!?」
 デニスが焦った様に声を上げた。
「うん? どうしてですか?」
「だってお前、シアンさんと二人きりに……」
「アニーも居ますし、部屋も別です。それを言うなら、先日の旅の最中もデニスさんのお部屋に泊まった時も、二人きりでしたけど?」
 リリアンがそう言うと、デニスは返答に困って口をパクパクとさせた。
「デニスさんが信頼している方なんですよね? なら、私は大丈夫ですよー」
 彼女は全く気にも掛けていない様子で、ニッコリ笑ってそう言うとすたすたと先に行ってしまった。

「妙な心配して余計な事を言うと、彼女にも変に思われるぞ? せっかくの彼女の好意を無下むげにも出来ないからお言葉に甘えさせてもらうわ。別に下心とかはえから、安心しろや」
 彼女を立てるふうに装って言うと、デニスは複雑そうな顔をして一度は口をつぐんだ。
「……おっさん! リリアンに、変な事すんなよ!?」
 先に店の出口で待っている彼女には聞こえない程度の声で、デニスが俺に念を押した。

 * * *

 『お帰りなさいませ、ご主人様』
 「ただいま、アンドレ」
 俺たちを出迎えたアンドレは、今は男性の姿で執事の様な服装をしていた。今朝は女性のメイド姿だったのに。

「部屋に行く前に、こちらにどうぞ」
 リリアンにいざなわれ付いて行くと、廊下の突き当りにある目立たぬ小さな扉の前に着いた。
「この中を見たかったんじゃないですか?」
 あまりにもあっさりと言うリリアンに動揺した。
 ああ、確かにそうだ…… でもなんでそれがわかったんだ?

 俺が答えられずにいる様子を見て、彼女はちょっと首を傾げると、扉の方を向き古式な金属製の鍵を鍵穴に差し込んで回した。小さく解錠の音が鳴り、きしんだ音をさせて入口が開くと、彼女は先に入って「どうぞ」と俺を導いた。

 扉の先は3歩も歩けば地下に降りる階段に繋がっている。彼女が唱えたライトの魔法が明るすぎない程度に階段を照らし、そのお陰で足元は良く見えているが、ここの勾配がキツイ事は覚えているので一歩ずつ用心しながら彼女について降りて行った。

 階段を下りきった先は、天井が低めの地下室になっている。床にはのマジックボックスが、さらに中央の古びた机の上にもいくつかの雑貨が置いてある。
「2階の部屋にあった私物は、皆この部屋に移動させてあります。マジックボックスの中身は、確認はしましたが基本的には元通りにしてあります」
「え……? なんで、お前……?」
「話したい事や、聞きたい事も色々あるとは思いますが、ひとまずご自由にご覧下さい」
「……いいのか?」
「そうでなくても、私が寝ている間にこっそり忍び込むつもりだったのでしょう?」
 そう言いながらうっすらと微笑むさまは、何故か彼女らしからぬ表情に思えた。

「聞きたい事もあるでしょうし、どうぞ聞いてください。でも言えない事は言えないですし、嘘もつきます」
 嘘をつくとか、そんな事を平気で言うか?
「……嘘をついたら、俺が怒るんじゃねぇかとか思わねーのか?」
「怒られてしまったら、仕方ないです」
 なんだか淋しそうにぽつりと言った姿に、心が揺らいだ。

「……リリアン。お前、ここが元は誰の家だったか知っているのか?」
「冒険者ギルドでは『オスカル』と言う名の冒険者の遺留財産だと言われました。でも、それは本当の名前ではありませんよね」

 そうだ……
 万が一の為にと、魔族領に入る前にギルドにこの家を財産登録をした。しかしもし場合に、元『英雄』の所有物が売りに出されたとなると、争いや奪い合いなど面倒の種にもなりかねない。そう判断したギルドマスターの頼みで、彼女は偽名でここを登録した。
『アッシュさん、オスカル様みたいね』
 ルイが故郷の物語の登場人物の話を引き合いに出して褒めたのを、彼女はいたく気に入っていて。じゃあその名前を偽名にしようと、そう提案したのは誰だったか…… そのままのノリでサムが作ったゴーレムにもその物語の登場人物の名前をつけた。

「お前は、それを知っていてこの家を買ったのか?」
「はい」

 クリストファーと書かれた箱を開ける。
 中には町で買い求めた雑貨と、道中入手した魔物の素材がいくつか入っていた。王族で世間慣れしていないクリスは、旅の合間に皆と町に出掛ける事を密かに楽しみにしていた。遠慮しつつも自分で選んだ買い物を、王宮には持って帰れないなとあいつはボヤいていた。

「目的は?」
「言えません。でも一つはこの家にある物を確認する為です」

 アレクサンドラと書かれた箱を開けた。
 中にはやはり町で求めた細々とした雑貨が入っており、その中に可愛らしいハンカチがあるのが目にとまった。このハンカチは女たちが揃いで買っていた物だ。やたらと生真面目で、でも実は恥ずかしがりやのアレクが、この時には珍しくルイとはしゃいで喜んでいた。

「……あの朝、俺が居るのを知って扉を開けたのか?」
「アニーが外を気にしていたんです。だから、どうしたんだろうと思って開けただけです」

 サマンサと書かれた箱の中身の一つは、アレクの箱に入っていたのと同じハンカチだった。
 さらに鮮やかな柄のカードが何枚か。俺には読めない文字が書いてある。きっとルイが書いたものだろう。サムとルイは本当に仲が良かった。ルイが故郷に帰るのを一番惜しんでいたのは、おそらくサムだろう。

「なんで俺を家に入れた?」
「水場を借りたいと言ったじゃないですか。お困りなんだろうと、思ったからです」
 ああそうだ、確かに俺が言ったんだ。

 メルヴィンと書かれた箱を開けようと手をかけ、少し躊躇ちゅうちょした。
 思い切って開けると、酒の瓶が一つだけ入っていた。あの任務が終わったら、彼女とこの家で飲むつもりだったのだろう。そうだ、この家は彼女がメルの為に買ったものなんだ…… それを思い出し、胸が詰まった。

 箱の中身から目をらせたくて、リリアンの顔を見据えた。
「理由はそれだけか?」
「はい」
 俺ににらまれたと思ったのだろう。彼女は少し困った様に笑ってみせた。

 そんなつもりはなかったのに、まるで彼女を責めているようになってしまった。
 それは筋が違うだろう。彼女はこの家の事を知っていて、そして俺の事を知って、ここを見せる為にこうして導いてくれたじゃないか。彼女の好意を疑うのはどうなんだ? 別に怒る事でもないし、彼女を困らせてしまうような態度をとるのは間違っている。
 彼女のその表情に、逆に申し訳ない気持ちになり、その視線から逃げる様に次の箱に目を移した。

 次の箱…… アシュリーと書かれた箱を開けると、中身は空っぽだった……

 何かを期待してた訳じゃない、はずだ…… でもその空っぽの箱が、まるで自分の心の空虚を映しているように思えて、何かが崩れかけた。

「昨日、魔王討伐隊の話をしていましたよね。その時に、魔法使いの居場所を貴方は知っていると言っていました。それを教えてほしいんです」

 俺が手を止めていたからだろう。リリアンの方から俺に話し掛けてきた。

「魔法使いって、サムの事か?」
「はい」
「……会ってどうする?」
「色々聞きたい事があったんです。でも……」

 ……でも?

ご主人様マスター、お呼びですか?』
 その声に気が付くと、入り口にアニーが立っていた。いつの間に来ていたのか…… 彼女の体は霧で出来ているので、階段に足を付く事はなく、こんな古びた階段でもきしむ音もさせない。

「私がこの家に来たときに、アニーは極度の飢餓状態におちいっていました。この体は魔力を帯びた霧でできていますから、定期的に魔力を供給しないといけないんですよね?」
 リリアンは自分の横にアニーを呼び寄せて話を続けた。
「ああ、だけど魔法使いたちが何か対策をしていたはずだ……」
「冒険者ギルドの話によると、10年以上前からこの家には誰も立ち入っていないそうです。なのでこの子が魔力を得る為にはその魔法使いの対策しかなかった。そしてこの子はすっかり飢えて姿が消えかかっていました」

 え……?

「魔法使いの、魔力の遠隔供給は絶たれていたんです……」

 ……どういう事だ?

「……アニー、お前の魔力供給が絶たれたのは、いつ頃?」
『サマンサ様の魔力は約2か月前に、メルヴィン様の魔力は15年前に、それぞれ途絶えております』
「!! 15年前だって!?」
「……二人の主人マスター登録が抹消されたのは?」
『それぞれ同じ時期です』

 あまりの事に、驚いて声も出せなかった……
 まさか…… メルが15年前に…… あの頃に死んでいたという事か……?

「どうしてお前が……!」
 リリアンを問いただそうとして、そう声をあげた俺の目に映った光景は…… その先の言葉をかき消してしまった。

 ライトの魔法に反射した何かが、彼女の目からこぼれ落ちた…… ひとつ、ふたつと……

 リリアンは歯を食いしばって、目を見開きながら、大粒の涙をぽろぽろと流していた。

「……春の……大礼拝に行ったんです…… 確認したくて…… 大礼拝の時には、教会の者は全て参列するはずです。だから、教会の奥にこもっていると言われている、メルも出て来るはずだから…… でも彼の魔力の匂いは全く感じられなかった…… だから覚悟はしていたんです…… でも…… でもまさか…… 15年前に……」

 ……なんで彼女が泣くんだ?

「……しかも、サムまで……」

 彼女は耐えきれなくなったように、両の手を顔に当ててへたり込んだ。

「ご…… ごめんなさい…… 自分がこんなにもろいと思わなかった…… 覚悟はしていたはずなのに……」

 * * *

 まだ大分早い朝の気配に、いつもの様に目が覚めると、胸元にすがりつく別の温もりに、すぐに気が付いた。

 あー…… やってしまった……

 いや、違う。正確にはヤってはいない。でも今のこの光景を、もし人に見られたら十中八九じゅっちゅうはっく、そう見られるだろう。
 間違ってもデニスには見せられない。

 しかし、そうか…… 今、生きているのは俺とアレクだけなのか……
 言い表せない悔しさの様なものが、内から沸きあがってくる。

 昨晩は泣き出した彼女に気を取られてしまい、それ以上を追究する事は出来なかった。元からわかっていれば、何かができたのだろうか? 今までここに来るのを避けていた、自分にも責があるのだろうか? 今からでもせめて何かを見つける事ができるのだろうか?

 何よりリリアンは何を知っていて、何をしようとしているのだろうか?

 そう思いを巡らせていると、胸に抱いている彼女が軽く身じろぎをした。

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(メモ)
 デニスの表情(#57)
 デニスと二人きり(#33、#39、#46)
 遺留財産(#49)
 飢餓状態(#50)
 大礼拝(#10)
 (Ep.8)
 (#28)

・#49でこの家の元の所有者の名前にポイント当てる為に、わざとギルド担当者の男性に名前は付けませんでした。


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<第1話はこちらから>


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