【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#157]119 偽りの姿
ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~
119 偽りの姿
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥
・ジャスパー…デニスの後輩冒険者。前・魔王討伐隊『英雄』のメルヴィンの姿に化けている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・マーガレット(マーニャ)…先代の神巫女でもある、教会の魔法使い
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・ウォレス…シルディス国の第二王子。ニコラスの事を卑下している。
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「うぇ!? なんで?? ジャスパー?!?!」
ニールが驚いて、王族らしからぬ声を上げた。
「あーー……ニール、とりあえず移動が先だ。詳しい話は後だ」
シアさんは困ったようにそう言って、私たちに『転移の魔法』を促した。
メルヴィンさんの姿をしたジャスパーさんが私の肩を抱いた時に、デニスさんが一瞬眉間に皺をよせたのが見えた。
転移でついた先は、先ほどのラントの町よりさらに馬車で1日ほど先に進んだ場所にある、街道沿いの町だ。そこの町長から神器を渡す代償にと頼まれたのは、古い遺跡に棲みついているタラスクの討伐だった。
タラスクは亀の甲羅を持ち獅子の頭をした六つ足の竜で、厄介な事に人を襲って食らうのだ。Sランクの魔獣なので、上位冒険者のパーティーであれば倒せない魔獣ではない。
が、町長はこれを私たちに倒してきてほしいと、そしてその夜の食事会でその肉を振る舞いたいと言うのだ。
どうやら『わざわざ町長の為に、勇者たちが倒してきた』のだと、町の有力者たちへの自慢に使いたいらしい。
「なんで俺たちがこんなことをしなきゃいけないんだ」
ウォレス様がまた不満げに言う。その気持ちも良くわかる。
それでもシアさんが言ったように、勇者一行に交換条件として挙げられる依頼のうちでは「まだいい」方なのだ。
それに私たちは神器を集めるだけでなく、『勇者の剣』に魔力を溜めなくてはいけない。そのためには魔獣の討伐はうってつけだ。
タラスク退治の為に一度町を離れると、ようやくシアさんから、さっきの話をするお許しが出た。
「なあ、本当にジャスパーなのか?」
ニールが不安そうにジャスパーさんに話かける。
「ああ」
なんともなく答えるジャスパーさんを、ニールは上から下からと見回す。そんなに眺めても、化けの皮が剥がれるわけではないんだけどね。
「『変姿の魔法』ですね」
そう言うと、
「君は知っているんだな」
あの人の声でそう答えた。
『変姿の魔法』は、『転移の魔法』と同じ『神秘魔法』の一つだ。『神秘魔法』は基本的には教会の魔法使いか、もしくは神に関わる者たちにしか使えないらしい。
マーニャさんが姿を変えていたのも、この『変姿の魔法』だろう。
「マーニャさんも、ですね」
そう言うと彼女はにっこりと笑った。
「なんでジャスパーはメルヴィン様の姿に化けているんだ?」
「この方がモテるだろう?」
デニスさんの質問に、ジャスパーさんは涼しい顔で答える。
彼の正体がジャスパーさんだとわかった時のデニスさんは、ひどく悔しそうな顔をしていた。
デニスさんはとても後輩思いだ。『樫の木亭』夫婦の一人息子のジャスパーさんは、デニスさんにとっては世話になった人の息子さんでもあり、自身の後輩のひとりでもある。
そのジャスパーさんが、また皆を偽るような事をしている。
「ったく…… 今度はあいつに何があったんだ?」
頭を抱えながら、そう呟いていた。かなり気分は複雑だろう。
「ジャスパーはモテたいのか?」
「そりゃあそうだろう」
シアさんを相手に気楽な口調で返事をする彼は、『樫の木亭』で給仕をしていた姿とは本当に別人のようだ。
気が弱くてむしろ優しそうで、私みたいな小娘相手にも丁寧な口調で話す。給仕の仕事中もいまいちパッとしなくて、ミリアちゃんによく怒られていた。
一度だけ、彼にいたずらをされそうになったことがあって、あれは何かの間違いだろうと思っていたけれど…… でも今の彼の姿をみていると、どれが本当の彼だかはわからない。
「マーニャさんに教会に連れて行ってもらって、魔法の訓練を受けるようになったら、めきめきと魔力があがってあっという間に上級魔法使いになれた。俺には戦士としての才能よりも、やっぱり魔法使いの才能があったらしい」
嬉しそうにニヤニヤと笑いながら話す。
仔犬の姿に化けて教会の奥にもぐりこんだ時に見かけた彼は、今のような自信に満ちていた。自信が、彼を変えたのだろうか。
「教会はなかなかにイイね。魔力の強さが上下を決める。ここまで魔力を伸ばす事ができた俺は皆に認められた。今までの俺は俺じゃなかったんだ。父親に倣って戦士を目指して、でもうまくいかなかったのも、あんな事になったのも、俺のせいじゃない。俺が悪かったんじゃない。戦士を目指したのが間違いだったんだ。この魔法使いの道が俺の正しい道だ。俺は今までの俺を捨てたんだ」
「でも、戦士の道を選んだのはお前自身だろう?」
静かに聞いていたデニスさんが、強い口調で言った。
「俺には親はいねえ。だから自分の進む道は自分で決めた。でも親がいるなら同じ道を進まないといけないのか? それは違うんじゃねえか? 第一お前の母親のシェリーさんの親族には魔法使いもいたんだからそっちの選択肢もあったはずだ。でもお前はまず自分で戦士の道を選んだんだ」
「それを親父さんのせいにするんじゃねえよ」
ジャスパーさんは何も応えなかった。
「まあ、理由はそれだけではないわ。これは教会の上層の指示でもあるの」
森を渡る風に長い金髪を揺らしながら、マーニャさんが言った。
「元々デニスが『英雄』になる事は予想されていたわ。でもさらに王族の『英雄』にニールが決まって…… 貴方がそこまで頑張るなんて、教会も予想していなかったのよ」
そこまで言って、マーニャさんはにっこりとニールに微笑んだ。
その様子は、やっぱり以前のままのマーニャさんで…… 彼女の事を疑っている私たちの方が間違っているんじゃないかと、そんな気持ちにさせられてしまう。
「デニスは元英雄アシュリーの遺児だし、ニールも元英雄クリストファーの息子。ここに教会の代表として過去の『英雄』の私を立てただけでは話題性で負けると、そう思ったのね」
「話題性って…… そんなの対抗して何になるんだ」
「そうね。本当に下らないわね」
シアさんが不愉快そうに吐き出した言葉に、マーニャさんはふっと笑うように答えた。
「でも、それならなぜ偽物を立てるんだ? 本物の、メルヴィンはどうしたんだ?」
「シアンはその事も知っているから、偽物だと疑ったんでしょう? 彼はもういないわ」
すっと遠くに視線を移して言った。
「15年前に、彼は教会で殺されたわ」
その言葉に私の胸のどこかが小さい悲鳴を上げた。
「皆の話を聞いていると、どうやらこの国はおかしい事になっているみたいだね」
マコトさんが私の隣に歩みを揃えて、そっと小さな声で言った。
……そうだ。おそらく、何かがおかしい。
「マーガレット、教会はそこまで堕落しているのかい?」
「まあ、相変わらずです。何百年もの間、ただ自分たちの事しか考えていない。あれを手放すのが、それほどまでに惜しいのでしょう」
ため息と一緒に吐き出されたマーニャさんの言葉に、マコトさんはやれやれと首を振った。
「もう僕で最後だと言うのに……」
* * *
タラスクの住まう古い遺跡に辿りつくと、シアさんは勇者のマコトさんを少し前に出してニールと並ばせ、私にはその後ろにつくように言った。
「デニスは一人でも大丈夫だろう。むしろリリアンがついているとあいつはお前の目ばかり気にしちまう。お前はニールとマコトを見ていてくれないか」
このパーティーで先頭に立つのはデニスさんだ。
マーニャさんは魔法使いだから後方から攻撃をする。ニールは『英雄』ではあるが、まだまだ経験と実力は浅い。
『勇者』のマコトさんはこの世界に来たばかりで、殆ど実践の経験がない。
本来ならばニールとマコトさんを補助するのはウォレス様になるのだろう。でも彼が大人しく『サポーター』役に甘んじているとは思えない。
昨日のコカトリスとの戦いでも、ウォレス様は何度も前に出ようとしてシアさんに静止されていた。そして、やはり今回も同じように。
「なんでニコラスが前に出て、俺が後ろにいないといけないんだ」
「ウォレス、お前は『サポーター』だ。後ろで『英雄』を支えるのがお前の仕事だ」
「でも『英雄の剣』を持っているのは俺だぞ」
ウォレス様が不満そうに腰の剣に手をかけてみせる。あれは15年前にクリスの持っていた英雄の剣だ。
「『英雄』はニールに決まったのですから、その剣はクリストファー様のご子息であるニールに渡すべきではないのですか?」
クリスを思い出してつい口を挟むと、ウォレス様は面白くないように首を振った。
「『サポーター』ってのでも討伐隊の一員には変わりないだろう? ここにいる以上、これをあいつに渡すつもりはない。これは俺の剣だ」
その時、遺跡の奥から獣の咆哮が聞こえてきた。
* * *
タラスクはSランクのモンスターだ。この討伐隊一行のパーティーとしてのランクは、シアンさんを除いてもSSランクはあるだろう。
だから余程の事がない限り、苦戦するような相手ではない。
確かにタラスク相手に苦戦はしなかった。
でも特にウォレス様の我儘で、まともに連携をとる事はできなかった。
結局、ウォレス様がニールより前に出てタラスクのとどめを刺そうとするのを、マーニャさんが魔法で動きを止めて防いだ。
魔物のとどめを刺すのは、『勇者の剣』かそれと繋がる『英雄の腕輪』を着けた者でないといけないのだ。
それは何度も説明したはずなのに。
「いい加減にしろ! 俺はお前のお守りでついてきているんじゃない!」
討伐したタラスクをマジックバッグにしまっていると、離れたところで話すシアさんの強い言葉が聞こえて来た。
彼がウォレス様に怒るのも当然だろう。でもウォレス様は納得できないらしい。
「『勇者の剣』だとか『腕輪』だとか、なんでそんな物が必要なんだよ。第一魔族なんて騎士団で蹴散らしてしまえば良いじゃないか」
「そう言うわけにはいかないわ。魔王を倒す時にはあの『勇者の剣』が必要なの。しかも魔王の元に行くまでに、あの剣に魔力を貯める必要があるの」
「チッ」
マーニャさんの言葉に、ウォレス様は面白くなさそうな顔をしてそっぽを向いた。
でもそれに隠れて、彼の碧玉の瞳が不穏な色に揺らいでいるように見えた。
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※話の中にさらりと書きましたが、以前リリアンが仔犬姿で散歩?した時に見かけた、女好きっぽい魔法使いはジャスパーでした。(#66)
教会でかなり食っていると思われます。彼、女性経験は豊富なんじゃないかと。
(メモ)
ジャスパー、みんなを偽る(#34、#35)
『変姿の魔法』(#29)
いたずら(#38、#39)
仔犬の姿で(#66)
ウォレスの剣(#8、#55、#82)
<第1話はこちらから>
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